この連載では、株式会社リットーミュージックが2月23日に発売した書籍「よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編 5th Edition」の中から注目のトピックを抜粋し、その章を丸ごと掲載していきます。

なお、リットーミュージックでは同書の発売を記念し、2月28日までの期間限定で、1冊丸ごと全392ページをウェブで無料公開しています。本連載を読んで興味を持たれた方は、ぜひご覧ください。

 社長の予想どおり、デビュー曲「おまえにロックイン!」が10万枚のヒットとなり、上々のスタートを切った著作ケンゾウ君。CD発売から半年が過ぎたある日、音楽出版社Cから著作権使用料計算書が届いた。「どれどれ、どのくらい印税が入るのかな?」とニヤニヤしながら封を開けると、作品コード、種目、製品番号、手数料などという項目が横一列に並んでいる。またもや頭の痛くなってしまうケンゾウ君であった。

 ケンゾウ君のように、著作権契約を締結した音楽出版社から著作権使用料計算書が送られてきても、その読み方がわからず、振込額だけを見て「はい、おしまい」とする作家は、少なくないだろう。しかし、作家は著作権使用料計算書を正確に理解できるようになって一人前だ。そこで今回は、音楽著作権ビジネスの要ともいうべき存在のJASRACについて詳しく解説しよう。JASRACの仕事がわかれば、著作権使用料計算書なんて簡単に読めてしまうのである。

日本音楽著作権協会(JASRAC)設立の経緯

 JASRACとは、正式には一般社団法人日本音楽著作権協会という。大変長い社名なので、通常は英文社名であるJapanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishersの下線の部分の英語をつなげて JASRAC(ジャスラック)と呼んでいる。ここで読者の中には、「あれ? PublishersのPが略称に入っていない」と気づく人がいるだろう。確かに、頭文字をつなげるとJASRACではなく、JASRACP(ジャスラックプになって読みにくいが)になる。

 実は、JASRACの設立当時(1939年)、日本には音楽出版社というものが存在しなかった。そのため、英文社名にPublishersという文字が入らなかったのである(JASRACに最初に入会した音楽出版社は音楽之友社で1958年のことである)。現在の英文社名になるのは、20の音楽出版社が正会員となり、理事会メンバー12名のうち、音楽出版社から2名が選出される1965年のことである。

 話を元に戻そう。JASRACをひと言で表現すると「作詞者、作曲者、訳詞者、編曲者や音楽出版社などの委託者が有する著作権を信託財産として譲り受け、委託者のためにその著作権を管理し、その管理によって得た著作権使用料を委託者に分配する、日本で最大の著作権管理事業者」である。著作権管理事業、すなわち著作物の利用契約について著作権者のために代理または媒介を業として行うこと(代理)、あるいは著作権の移転を受けて他人のために著作物の管理を業として行うこと(信託)は、長い間、仲介業務法(正式には「著作権に関する仲介業務に関する法律」)という法律によって、文化庁長官の許可が必要であった。つまり、著作権管理事業は自由競争に晒されることのない、政府の規制を受けたものだったのだ。

そもそもこの法律は、ドイツ人のウィルヘルム・プラーゲ博士という人が原因で作られたものである。1931年、プラーゲ博士は東京に事務所を開いて、「私はヨーロッパの著作権者の代理人です。私が管理する外国の楽曲を使うには、私から許可を取ってお金を払う必要があります」と流暢な日本語で宣言した。そして、当時としてはかなり高額と思える著作権使用料を利用者に請求し始めた。しかも、彼の業務は放送、演奏、出版と広範囲にわたって行われたので、一大事である。なにせ当時の日本人の感覚としては、無断使用は当たり前、著作権使用料って一体なに?という感じだったのだ(日本人は、往々にして、東南アジアの国々を「海賊版天国」というレッテルを貼って非難するが、日本もほんの少し前までは似たような状況だったのである)。

 しかし、プラーゲ博士の著作権管理業務は、ベルヌ条約という国際著作権条約に基づいた適法なものであった。日本は、ベルヌ条約ローマ改正条約を批准したため、1931年8月1日以降、ベルヌ条約の加盟国の国民が創作した音楽著作物を公で演奏したり、ラジオで放送したりする場合、著作権者から許諾を得なければならないことになった。したがって、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オーストリアの5カ国からなる著作権管理団体「カルテル」や「BIEM」の代理人であるプラーゲ博士が行った業務は、決して法律的に非難されるものではなかった。

 とはいえ、プラーゲ博士による高額の使用料の請求には、多くの音楽関係者が困り果てたのも事実である。なにしろ、プラーゲ博士のやり方は、著作権使用料を払わないと内容証明郵便を送りつけ、裁判も辞さないという強硬なものであった。中でもプラーゲ博士とNHKとの交渉は熾烈で、NHKがプラーゲ博士の要求額を拒絶したために、NHKは1933年からほぼ1年間、外国曲の放送を取りやめるという事態が起きた(1934年7月7日に交渉が妥結し、NHKは外国曲の放送を再開する)。うそみたいな本当の話である。困り果てた政府は、1939年に前述の「仲介業務法」を制定して、急ぎ設立した「社団法人大日本音楽著作権協会(現在のJASRAC)」に著作権仲介業務の許可を与えた。プラーゲ博士も、自ら設立した団体(大日本音楽作家出版者協会)を通じて、著作権仲介業務の実施許可を申請したが、音楽分野では1団体に限るという方針を理由に、不許可処分とされた。著作権仲介業務が事実上不可能になったプラーゲ博士は、1941年12月に横浜から一人さびしく帰国した。この一連の騒動を「プラーゲ旋風[注1]」と呼ぶ。ぜひ覚えておいてほしい。そして、なにはともあれ、この法律を根拠に60年以上の長期間にわたり、JASRACは音楽著作権管理事業を独占的に行うことができたのである。

 しかし、規制緩和政策の一環として、2000年11月21日に著作権等管理事業法が国会で成立し、著作権管理事業は文化庁長官による許可制から登録制に変更されることになった。JASRACの独占を支えてきた仲介業務法は著作権等管理事業法の施行(2001年10月1日)と同時に廃止された。この分野も遅ればせながら自由競争の波に晒されることになったのである。

 今回は音楽分野における著作権管理事業者の最大手であるJASRACの業務を例に、著作権管理事業がどのように行われているかを解説しよう。

JASRACの役割と機能

 話をケンゾウ君のケースに戻そう。彼は、自作のデビュー曲「おまえにロックイン!」が収録されているレコードをレコード会社Aから発売し、その楽曲の著作権を音楽出版社Cに譲渡した。この構図からいうと、レコード会社 Aは楽曲の使用者、音楽出版社Cは楽曲の著作権者、ケンゾウ君は楽曲の著作者である。そして音楽出版社Cは、委託者として、ケンゾウ君から譲り受けた著作権の全部または一部をJASRACに信託譲渡する。JASRACは、楽曲の使用者に許諾を与え、その使用者から著作権使用料を徴収し、委託者にこれを分配する。つまり、著作権はケンゾウ君→音楽出版社C→JASRAC と移転していくのである。

 ケンゾウ君の例でいうと、図,砲△襪茲ΔJASRACはレコード会社A からJASRACの著作物使用料規程に従って著作権使用料を徴収し、そこから管理手数料(CDの場合 6%)を差し引き、残りを楽曲の音楽出版社Cに分配する。そしてC社はケンゾウ君と締結した著作権契約書の分配率に従い、JASRACから送られてくる著作権使用料計算書を基に計算して、ケンゾウ君に著作権使用料を分配するのである。ちなみに音楽出版社が行う分配のことを、JASRACから分配された著作権使用料をさらに著作者や共同出版社に分配することから「再分配」と呼んでいる。なお JASRACは、楽曲の使用者から著作権使用料を徴収する際には「著作物使用料規程」を、楽曲の権利者に分配する際には「著作物使用料分配規程」を基に行っているので、一度自分が支払ったり、受け取ったりした使用料の根拠を確認しておくとよいだろう。

 この著作物使用料規程も著作権等管理事業法の中に「使用料規程」という条文があって、著作権等管理事業者は使用料規程を作成し、事前に文化庁長官に届出をしなければならないことになっている。また使用料規程を変更するときも同様である(著作権等管理事業法13条1項)。

JASRACの業務と管理手数料

 JASRACはレコード会社だけから著作権使用料を徴収しているわけではない。カラオケ業者、放送局、映画会社、レンタル・ショップ、楽譜出版社、キャバレー、スナック、クラブ、コンサートの主催者など、ありとあらゆる音楽の使用者に対して楽曲の使用許諾を与え、彼らから著作権使用料を徴収している。

 JASRACの業務の維持には、主に管理手数料を充てている(ほかに入会金や会費、金利、寄付金などがある)。現在、最も低い管理手数料の実施料率は外国入金(楽曲が外国で使われた場合の著作権使用料)の5%、最も高いのは映画上映、上演、演奏、社交場、カラオケ、ビデオ上映の25%である。レコードやビデオ、通信カラオケのように管理業務が効率的に遂行できる分野は手数料が低く、コンサートやカラオケ、演劇といった分野は効率性に限界があるため、手数料が高い。特に、カラオケ・ボックスやキャバレー、スナック、クラブのように全国各地に多数存在する使用者に対する使用料の徴収業務には、多くの困難が伴う。キャバレーやスナック、クラブの経営者に「JASRACの者です。著作権使用料を払ってください」とお願いしても「著作権?なんじゃ、そりゃ?」と言われて、お金の代わりにパンチをもらってしまうJASRAC職員もいるのである。

 ところで、JASRACの業務に大きな力を発揮するのは、なんと言ってもコンピュータである。膨大な数の楽曲を管理するのだから、当然データベースが必要になる。JASRACは、それぞれの楽曲に作品コードという番号を付けて管理をしている。JASRACや音楽出版社から送られてくる著作権使用料計算書を見ると、楽曲の頭についているのがそれだ。問い合わせなどに使うと大変便利である。なぜなら、世の中には同名異曲がたくさんあるからだ。 2018年2月1日現在で、「LOVE」というタイトルの曲は765曲も存在する。もちろん、作品コードがわからなくても、楽曲タイトルと作家名さえわかれば、即座にコンピュータの端末機を操作して、著作権者やアーティストなどを教えてくれる。忙しい使用者や権利者にとって、便利なシステムである。

 さらにJASRACは作品コード、楽曲名、作家名、音楽出版社、アーティストなどで構成された楽曲データベースをインターネット上で無料公開している。また、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)、一般社団法人日本レコード協会、JASRACの3団体は、インターネット上に音楽情報の総合ポータル・サイト「Music Forest」(音楽の森)を開設し、音楽作品の著作権の所在、アーティストやCDに関する情報などの提供を無料で行っている。いずれも、権利者、使用者双方にとって大変便利なデータベースであり、利用価値はかなり高いものだ。ぜひ利用してみよう。

 最後にJASRACを理解するポイントを教えよう。それはJASRACがすべての管理楽曲に関して、権利者から管理を委託された楽曲の権利者になっているという点だ。JASRACと著作権信託契約を交わすと、権利者が取得した著作権の内、管理委託した権利は自動的にすべてJASRACに移転する。それゆえにJASRACは自己の名において使用者に許諾が出せるのである。ただの仲介や代理ではなく、権利者として業務を行っていることに留意してほしい。また、著作権信託契約により、JASRACは委託者から信託された著作権とここから発生する著作権使用料等の管理に関し、告訴または訴訟を提起することができる[注2]。

 デジタル化・ネットワーク化時代と言われる今日、JASRACの動向が今後の音楽産業を大きく左右すると言っても過言ではない。したがって、我々は今まで以上にJASRACに注目していかなければならないだろう。

[注1]……プラーゲ旋風を克明に描いた名著として、大家重夫『ニッポン著作権物語』と森哲司『ウィルヘルム・プラーゲ』がある。プラーゲ旋風が日本の音楽界に与えた影響は大きく、その源泉を辿るには最適の書である。

[注2]……著作権信託契約約款第21条により、委託者がJASRACに管理を委託した著作権の侵害を理由とする訴訟を自ら提起する場合、その訴訟のために必要な範囲および期間において、JASRACから信託著作権の返還を受けることができる。ただし、その際には、委託者はJASRACに対し、理由を記載した書面を提出して、JASRACの承認を得なければならない。

株式会社リットーミュージックでは「よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編 5th Edition」の発売を記念し、2月28日までの期間限定で、1冊丸ごと全392ページをウェブで無料公開しています。本連載を読んで興味を持たれた方は、ぜひご覧ください。

「よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編 5th Edition」収録内容 [総論編] 1話 音楽産業の基本構造と権利関係
アーティストがデビューするときに交わす契約書は? 2話 レコード会社の役割1
レコード会社っていったい何をするところ? 3話 レコード会社の役割2
印税ってどうやって計算するの? 4話 プロダクションの役割
アーティストとプロダクションってどんな関係なの? 5話 JASRACの役割1
JASRACって一体何をするところ? 6話 JASRACの役割2
著作権等管理事業法ってどんな法律なの? 7話 NexToneの誕生とその役割
NexToneとJASRACはどう違うの? 8話 音楽出版社の役割1―音楽出版社とは―
音楽出版社が自己管理するとき、作家の印税ってどうなるの? 9話 音楽出版社の役割2―共同出版とは―
ケンゾウ君の曲にタイアップがつく! でも権利関係は? 10話 音楽出版社の役割3―原盤権とは―
原盤って何? 制作するメリット、デメリットは? 11話 音楽出版社の役割4―原盤権と出版権とは―
原盤権と出版権、一体どちらがおいしいの? 12話 替え歌と著作者人格権
他人の楽曲のタイトルと歌詞は勝手に変えてもいいの? 13話 カバーソングと編曲権
既成曲をカバーしたい!でも権利処理は? 14話 アレンジャーの権利
ケンゾウ君にアレンジの仕事が……でもギャラは? 15話 P.D.と編曲著作物
クラシックをアレンジして使いたい、でも著作権は? 16話 専属作家制度と著作権
えっ! レコード会社が管理している曲があるの? 17話 旧法時代のレコードの権利
「有楽町で逢いましょう」をイントロに使いた〜い! 18話 団体名義の著作物
死後か?公表後か?それが問題な団体著作物の権利 [各論編]海外との関係 19話 JASRACの信託者と非信託者
JASRACに入会すべきか、すべきでないか、それが問題だ 20話 ベルヌ条約と万国著作権条約
よく見かけるあの©表示って何の意味なのかな? 21話 ローマ条約とWIPO実演・レコード条約
日本人ミュージシャンの演奏って外国でも保護されるの? 22話 外国曲の著作権
特典DVDにビートルズのカバーを入れたい! 23話 戦時加算に気をつけろ!
どうして死後50年経っているのにP.D.じゃないの? 24話 適法訳詞と著作権
他人の楽曲を訳詞したらギャラはどうなる? [各論編]放送と著作権 25話 放送と音楽著作権
ラジオで曲が流れたのに印税が入ってこない!どうして? 26話 実演家と二次使用料
ケンゾウ君の曲がドラマの主題歌に決定!でも使用料は? 27話 レコード製作者と二次使用料
放送に使われたレコードの製作者たるケンゾウ君の疑問 [各論編]CMと著作権 28話 CM音楽と著作権1―既成曲―
CMに既成曲を使う場合、権利処理はどうするの? 29話 CM音楽と著作権2―オリジナルー
オリジナルのCM音楽は著作権使用料が免除になる? 30話 CM音楽と著作権3―局制作CM―
本人が知らない間にケンゾウ君の曲がCMに使われた [各論編]エンターテインメント・ビジネス 31話 映画音楽と著作権
ケンゾウ君、映画音楽を担当!印税はどうなる? 32話 ゲーム音楽と著作権
ケンゾウ君にゲーム音楽の依頼が。でも契約は? 33話 カラオケと著作権
カラオケで歌唱する映像をアップすることは違法なの? 34話 演劇と著作権
書下ろしの音楽の著作権使用料はどうなるの? 35話 ライブ演奏と著作権
ライブハウスの著作権使用料ってどうなっているの? [各論編]レンタル・レコード 36話 レンタル・レコードの歴史と背景
洋楽の新譜がレンタル・ショップにないのはなぜ? 37話 実演家とレンタル・レコード
CDがレンタルされると実演家に使用料は入るの? 38話 レコード製作者とレンタル・レコード
発売日なのにレンタル・ショップに新譜が並ばない理由とは? [各論編]音楽配信 39話 音楽配信と著作権1―ダウンロード販売―
ケンゾウ君の曲が音楽配信で販売!さて、印税はどうなる? 40話 音楽配信と著作権2―サブスクリプション・サービスー
サブスクリプション・サービスの印税計算方法は? 41話 音楽配信と著作権3―動画投稿サイトー
ケンゾウ君のライブをLINE LIVEで生中継!さて、その権利処理は? [各論編]独占禁止法 42話 再販制度と著作権1
素朴な疑問……ジャケットの再って何? 43話 再販制度と著作権2
予断を許さない再販制度の行方。CDは一体どうなる? DVDは? [各論編]パブリシティ権 44話 パブリシティ権1
僕の顔でもうけて知らんぷりはないんじゃないの? 45話 パブリシティ権2
昔の写真が無断で雑誌に載せられたら? 著作権裏話 case 1:「記念樹事件」有名作家同士の対決は……
case 2:「およげ!たいやきくん」逃がしたたい焼きは大きい!?
case 3:「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」盗作と訴えられて……
case 4:「お座敷小唄」作詞者不明の曲
case 5:「パックマン事件」ビデオゲームは映画扱い?
case 6:ビートルズの曲をポール・マッカートニーが取り戻す?
case 7:「チューリップ」本当の作曲者はだれだ?
case 8:「長良川艶歌」編曲に対する盗作裁判
case 9:「サザエさん事件」キャラクターの無断使用
case10:「マイ・スウィート・ロード事件」ビルボードNo.1ヒットが盗作?
case11:「プリティ・ウーマン事件」あの名曲がパロディに?