中国で問題企業の力を借りて罰金を免れたが、役人に賄賂が渡った疑惑がくすぶる(撮影:尾形文繁)

被告のオリンパスと法務部長、人事部長の2名は連帯で500万円を原告に支払えーー。内視鏡などの大手メーカー、オリンパスが、身内から起こされた裁判に揺れている。

オリンパス本社法務部に所属する30歳の社員弁護士(弁護士資格を有する社員)A氏が1月19日、会社と本社の幹部2名を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を東京地方裁判所に提起したのだ。企業内弁護士が自身の在籍する会社を訴えた、前代未聞の裁判。オリンパスでいったい何があったのか。

この社員弁護士は、中国子会社での不正疑惑を追及していたアジア統括会社の法務担当幹部B氏が異動を命じられたことを問題視して、「報復人事の可能性が高い」と抗議するメールを社内の多数に送信。それを理由にメールや日常業務に必要な社内システムへのアクセス権を取り上げられ、精神的損害を被ったとして今回の裁判を起こした。

深圳工場での不正疑惑

映像関連品を製造するオリンパス中国深圳工場(OSZ)。ここを舞台とする数年前の不正疑惑が、今回の裁判につながる出発点だ。

OSZは当時、税務当局の監査で指摘された通関帳簿上の在庫数をめぐる矛盾を理由として、多額の罰金制裁を科せられる可能性があった。そこでOSZは2013年、制裁を回避・軽減するため、安遠控股集団(安遠)なる現地の企業グループに協力を仰いだ。


安遠はいわくつきの会社だ。同社を経営する陳族遠氏は、2007年の雲南省交通庁贈収賄事件をはじめ、昆明市の城市建設投資公司、さらには2014年に発覚した広州市トップの汚職事件でも贈賄側として関与が報じられた。

2011年にOSZと消防局との間でトラブルがあった際、安遠が仲介役となり問題を解決。見返りに安遠は傘下の安平泰を通じ、OSZから食堂運営や清掃、警備業務を次々受託した。

OSZは税関との問題についても、安遠グループに協力を要請。制裁を回避・軽減できた暁には安平泰に報酬を支払い、社員寮2棟も譲渡する内容のコンサルティング契約を結んだ。そして2014年夏、深圳税関は「罰金なし」の判断を下し、OSZは約4億円もの報酬を安平泰に支払った。

「罰金制裁を免れるため、安平泰が深圳税関に賄賂を渡した可能性がある」。その後、本社の監査役に内部通報があり、社内調査委員会が発足。委員会からの依頼を受けた西村あさひ法律事務所などが調査報告書を作成した。

最終報告書は「贈賄の認定には至らず」

2015年秋に委員会へ提出されたその最終報告書は、安平泰とコンサル契約を交わす際、OSZで数多くのコンプライアンス違反が行われた事実に言及。また、契約にかかわった幹部の贈賄リスクを認識していたとする供述や、安平泰の素性を含め契約に関する報告が笹宏行社長はじめ本社経営陣に上がっていたことにも触れている。


オリンパスの社員弁護士は、会社と上司ら2名を訴えた(記者撮影)

しかし、安平泰が税関に賄賂を渡した証拠がないとして、結論は“シロ判定”。「安平泰が贈賄を行った疑惑は完全には払拭できないが、贈賄関連法令に違反する行為があったとの認定には至らなかった」と最終報告書は締めくくっている。

これに納得しない社内関係者がいた。その一人が、アジア統括会社の法務担当幹部だったB氏だ。B氏の指揮の下、同法務部はOSZ案件の法令違反リスクを再検証するため、2017年に三つの外資系法律事務所から意見書を得た。

B氏はこの意見書を本社の監査役に提出し、第三者による徹底的な再調査を要求。11月には、ある社外取締役と接触して問題の深刻さを説いた。

不正追及を続けたB氏に異動通告

が、その後、本社の法務部長と人事部長がB氏を呼び出し、政府・工業界への対応活動を担当する国内新設部署への異動を通告。「指導書」なる文書を読み上げて、法律事務所から意見書を取得した際の社内手続きに大きな問題があった、とB氏を強く叱責した。


「(監査役を通じて)意見書の存在を知った経営陣の私に対する怒りは大きかったと推察します。しかし、このような異動命令は到底、納得できません」。B氏はこんな内容のメールを海外の上司に送っている。

この異動命令にかみついたのが、冒頭の社員弁護士A氏だった。「報復人事の可能性が高く、公益通報者保護法に違反する」。同氏は社外役員全員のほか、複数部署の社員数百人にメールを送り、贈賄疑惑の再調査も求めた。こうした行為を会社側にとがめられ、今回の提訴に至った。

オリンパス側は「2017年に2度に渡って別の外部弁護士を交え再検証したが、最終報告書は妥当だった」とする。またB氏の異動については「業務上の必要性に基づく通常の人事の一環」と、報復人事を否定。こうした公式見解の下、これまで社外役員は目立った動きを見せていない。


当記事は「週刊東洋経済」3月3日号 <2月26日発売>からの転載記事です

一方、中国では蜜月だったはずのOSZと安平泰との関係に変化が生じている。食堂、清掃業務などの取引は続いているが、約束されていた寮の譲渡が凍結されたことに安平泰が憤慨、OSZに牙をむき始めたのだ。安平泰は早期の引き渡しまたは賠償金を求めてOSZを提訴。すでに寮を実効支配しており、こうした状況にオリンパスは頭を抱えている。

社員弁護士が起こした今回の訴訟を通じて、OSZを巡る贈賄疑惑の解明も新たな展開を迎えるのか。3月に始まる裁判の行方が注目される。