あるトップエージェンシーの経営者は、クライアントに対して新商品のラインナップのプレゼンテーションを行っていた。その約90分後、彼女がクライアントのチームに意見や第一印象を聞いたところ、チームのひとりから返ってきた反応は「あなたのケイト・ウィンスレットのような話し方がとても素敵でした」というものだった。

匿名希望のこの経営者にとって、こうした体験はよくあることだった。彼女はイギリス人で、アメリカやオーストラリアでそのキャリアのほとんどを積んできた。彼女は、この記事の執筆にあたってインタビューした人たちと同じように、イギリス英語のアクセントがさまざまな部分で有利に働いていることに気づいたという。

「人の印象に残りやすいのでは」と、彼女は語る。

これは、エージェンシーの世界では重要なことだ。外交的な集まりが頻繁にあるこの業界で突出するのは大変なことだ。おそらく皮肉なことに、デジタルやSNSの台頭によって、クライアントや会社内のチームとの間での、対面でのコミュニケーションの重要性が高まっていることが考えられる。つまり、アクセントも含めて、自己紹介のしかたが大事なのだ。

動画のアドテク企業のアンルーリー(Unruly)でEVPを務めるイギリス人、オリバー・スミス氏もこれに同意する。「プレゼンや打ち合わせの場で、人の興味をできる限り引きたいときに、少し違うアクセントが役に立つことがある」と彼は語る。「セールストークをするときは、特にそうだ」。

ニューヨークのシステムワン・エージェンシー(System1 Agency)の代表を務めるオーストラリア生まれのポール・スプリッグス氏によると、概念的に広告は一時的な、はかないものであることがその理由だという。「言葉は、人の考えを理解したり、人に考えを伝えるためには欠かせないものだ」と彼は語る。「イギリス人は、物事の本質やアイデアを捉えることに非常に長けているように感じる」。話し方に注目するというのは表面的に感じられるかもしれないが、アメリカでのキャリアには多大な影響を与えることがある。「私自身、喋り方をとても意識している」とスプリッグス氏。「どのくらいの頻度でかって? 毎日だ」。

歴史の重み



人材スカウト会社のグレース・ブルー(Grace Blue)の創設者でイギリス人のジェイ・ヘインズ氏は、アメリカにおけるイギリス英語のアクセントの重要性は、アメリカの公共放送サービス(Public Broadcasting Service, PBS)がイギリス人のナレーターを起用してBBCの番組を放送していた1950~60年代から存在しているという。これには知性や尊厳高い「イギリス人らしさ」と関係がある。

スコットランドのエディンバラ大学で言語学や英語学を教えるクレア・コーウィ氏によると、アメリカで英語のアクセントについての研究が行われたことがあったという。彼女は、ミシガン大学のロシーナ・リッピ=グリーン教授の研究を例に挙げ、グリーン教授の1997年の著書『英語とアクセント:アメリカの言語、イデオロギー、そして差別(English with an accent: Language, ideology and discrimination in the United states)』では、イギリス英語のアクセントで話す悪者が多いことに言及している(『ライオン・キング[The Lion King]』でスカー役を演じたジェレミー・アイアンズを思い浮かべてみよう)。イギリス英語のアクセントは、ネガティブながら知的な響きを作り出していると、コーウィ氏は語る。

イギリスには、音楽や映画、そして広告などのクリエイティブ業界との関わりにも長い歴史がある。そして、その最後の一片が、1980年代に出現したアカウントプランニングだ。

それよりも前の1968年からプランニング部門を構えていたJ.ウォルター・トンプソン(J.Walter Thompson)などのイギリスのエージェンシーによって、消費者のインサイトやデータを使ってクリエィティブやクライアントとのビジネスを生み出すという新たな分野が生まれた。1990年代までには、プランニングはイギリスの広告業界では不可欠なものになっていた。これをアメリカに持ち込んだのがジェイ・シャイアット氏であり、彼は当時のイギリスのクリエイティブはアメリカのものよりも優れていたと語っている。イギリス人のプランナーは次々とアメリカに渡ったが、それは現在に至るまで続いている。

ヘインズ氏の理論によれば、プランニングという新しい分野を切り開いたのはイギリス人であり、彼ら(とイギリス英語のアクセント)が、そのスキルと密接な関係を持つようになったという。業界がグローバル化し、イギリスがクリエイティブにおける優位性を失ったあともそのイメージは残っている。

スイスの時計メーカー、ゼニス(Zenith)で広告部門のトップを務めるイギリス人、トム・グッドウィン氏はアドサーキットについてよく話をするが、彼によると、イギリス人は「おそらく本人自身が、実際よりも頭が良いという先入観を抱いている。これはイギリス英語のアクセントや、アメリカ人が感じている感覚、そして根強いプランニングの文化によって形成されているものだ。誰かと電話でゆっくり話しているときでも、相手は私たちの一語一句に耳を傾けているように感じる」。

もちろん、すべてのイギリス人のアクセントが等しく魅力を持っているわけではない。「アメリカ文化で暮らすイギリス人は、サイモン・コーウェル(オーディション番組で出場者を厳しく批評することで有名なプロデューサー)であり、かつ中庸でなければならない」と、グッドウィン氏は語る。「地方のアクセントは同じようには機能しない」。

アクセントの先入観



広告の世界では、外国から来たということでさまざまなメリットになることがある。外国人ならば、地元の人間ならしないような質問をすることが許される。ロサンゼルスのエージェンシーのカラ(Carat)のアナシア・ルイス医学博士によると、彼女はオーストラリア人であることで人に覚えてもらえ、「普通はできないような質問が許される」という。これは会話の糸口を見つけるきっかけになり、特に売り込みにおいては、違った発想の提案も容易になる。

また、アメリカ人は特にイギリス人やオーストリア人に対して親近感を抱いているが、これはグローバル化によって言語や文化価値を共有できているためだ。オーストラリアの広告業界には数多くのイギリス人がいるが、情報筋によると、メディアコム(MediaCom)は親しみを込めた「メディアポム(MediaPom)」という愛称で知られるようになった。「ポム」とは、会話のなかで『英国出身(”prisoner of Her Majesty”の頭文字)』という意味合いでよく使われる言葉だ。ロサンゼルスには、イギリス人たちが作った、DrinkLA(名称はロサンゼルスの頭文字の「LA」から取られている)という飲み仲間のグループがある。

グッドウィン氏は、アクセントとはまた別のイギリス人とオーストラリア人の魅力は、その誠実さにあるという。「アメリカには本当にくだらない企業言語が腐るほどある」と彼は語る。「アメリカでは、まったく意味のない御託を並べるのは簡単だ。そのような状況では、アクセントがどうあれ、ありのままを率直に言うことはポジティブに捉えられるだろう」。

イギリス英語のアクセントを好む傾向が、雇用や給料にもバイアスとして働いているかどうかは確かではない。採用担当者によると、これはそこまでありふれたことではないが、少なくとも最初の面接や打ち合わせにおいては、アクセントがその人物を印象付けるという。また、イギリスの広告分野での文化的遺産は有利に働くことがある。

もしも有利になるようなアクセントがあるならば、不利に働くアクセントがあるということになる。リッピ=グリーン氏の1994年の研究によると、アメリカの職場での差別のほとんどは、アフリカやアジアの国のアクセントに起因しているという。

となれば、イギリス英語以外のアクセントで話す人以外が、環境に適合するために苦労しているのは当然だ。「私が少し中国語のアクセントを持っているせいで、ゆっくり落ち着いて、トーンを下げて話す必要があることに気づいた」と、メディアエージェンシーの社員のひとりは語る。ドイツ出身の別のエージェンシーの社員によると、彼女は8年前にアメリカで仕事を探していたとき、アメリカ英語らしいアクセントで話す努力をしていたという。

公平性はさておき、アクセントの影響は広い範囲に及んでいるようだ。

「アクセントが何かを左右するはずのない、取るに足らないものだとしても、人の意識に影響を与えていることは確かだ」と、スプリッグス氏は語る。

Shareen Pathak (原文 / 訳:Conyac)