弁護士・柳原桑子先生が堅実女子のお悩みに答える本連載。今回の相談者は山中晶子さん(仮名・35歳・アルバイト)です。

「悩みというのは、母親についてです。母は自分ができなかったことを、私に押し付けるように育ててきたのです。バレエ、ピアノ、英会話、フランス語、私立名門幼稚園の入園など数え上げたらきりがありません。

幼稚園に通っていたとき、送り迎えのためにムリして外車を購入したくらい、その幼稚園に通わせたかったと言います。でも私立の小学校には私は入学できず、公立に進んだのですが、その頃から付き合う友達を限定したり、私のノートや日記を見るようになりました。学校にこっそり来ていたこともあったと言います。

私の希望で公立中学校、高校と進学すると、“こんなはずじゃなかった”とか“あなたは親不孝だ”などと、何度も言うようになり、本当に辛かった。当時、自傷癖があったのですが、これは親のせいだと思っています。

大学を出て、会社員になったのですが、人間関係が原因で職を転々としています。この親のもとに生まれてこなければ、もっと楽しい人生になったはずなのに、と、いつも思います。“男は敵だ”と言われてきたので、恋人ができたこともありません。

親が私に対して、こんな育てかたをしなければ、もっといい人生を歩めたのではないかと思ってなりません。今、実家に住んでいるのですが、独身でいる私に対して“どこで私の子育ては失敗しちゃったんだろうか”とか“●●さんの家は3人も孫がいるのに、私は抱くことができない”などと言ってきます。

言われるたびにつらく悲しいのですが、私がこうなった原因は母にあると思っています。独立しようにも、家を借りるお金すらありませんし、家から出ようとすると大泣きされるに決まっています。

母と決別するためにも、法的手段にうったえる、という選択はとれるのでしょうか」

弁護士・柳原先生のアンサーは……!?

今、一般的に親子関係における人格形成問題について、世間の注目が集まっているようです。

さて、この相談の場合はいかがでしょうか……。

法律的には、親があなたに虐待した行為、そしてあなたが被った損害、それらの因果関係を立証できれば損害賠償請求が可能です。

その因果関係の立証とは、例えば何らかのメンタル面での疾患が、親からされた虐待行為に起因するという診断書を医師から得るなどです。

質問文内で“私の人生に希望がない”と書いていますが、なぜ希望が持てないか、冷静に書き出してみてはいかがでしょうか。そこに親がどこまでかかわっているか、分析を。その上で弁護士に相談したり、医師の診察を受けるなどのアクションをしてみると、問題の糸がほぐれやすくなると思います。

補足ですが、実の親に対する損害賠償請求行為は、心身的に大きな負担があることが予想されます。今以上に疲弊消耗しないかという現実問題があります。

親子というのは‟他人になれない”。それゆえに、踏み切ることの決断は、熟考が必要だと思います。 

母親の期待に応えられなかった自分は存在価値がない、と死を考えたこともあったといいます。



■賢人のまとめ
”親子”である事実は変わりません。訴えを起こす前に、改善の可能性を探ることも考えられます。

■プロフィール

法律の賢人 柳原桑子

第二東京弁護士会所属 柳原法律事務所代表。弁護士。

東京都生まれ、明治大学法学部卒業。「思い切って相談してよかった」とトラブルに悩む人の多くから信頼を得ている。離婚問題、相続問題などを手がける。『スッキリ解決 後悔しない 離婚手続がよくわかる本』(池田書店)など著書多数。

柳原法律事務所http://www.yanagihara-law.com/