理想の共働き夫婦が登場するパナソニック(左)と身近な家族像を描く三菱電機。両社のCMの世界観は大きく異なる(写真:パナソニック、三菱電機)

目指すべきは理想の夫婦か、等身大の夫婦かーー。結婚式のスピーチのネタではなく、白モノ家電の広告宣伝の話だ。

ここで取り上げるのは、パナソニックと三菱電機。ともに日本を代表する電機メーカーだが、両社がCMで描く夫婦像、家族像は大きく異なる。

家事を完璧にこなす夫

まずはパナソニック。俳優の西島秀俊さんと女優の奥貫薫さんが演じるのは見るからに幸せそうな共働き夫婦。そこで大活躍するのは西島さんが扮する夫だ。週末には妻と一緒に料理を作り、平日も自身が先に帰宅すれば手早く料理を作ってしまう。

【2月24日15:30追記】初出時、奥貫薫さんの敬称が抜けていました。お詫びして訂正します(編集部)

いまや共働きであろうとなかろうと夫が家事をするのは当たり前。とはいえ、現実には“お手伝い感”が抜けない夫に、妻が不満を募らせるということが多いのではないか。

パナソニックのCM。西島さんが家事を完璧にこなす夫を演じる(パナソニック提供)

その点、西島さん(が演じる夫)は違う。洗濯物の仕上がりにうっとりし、掃除をすればゴミの気持ちに思いを馳せる、ホテル並のベッドメイキングを披露して満足げにうなずく姿からは、心から家事を楽しんでいることが伝わってくる。

家事を完璧にこなし、子供たちに優しく、妻への気遣いも忘れない。しかもとびきりの二枚目ときている理想の夫。そんな夫がいる理想の夫婦像である。

対して三菱電機。女優の杏さんとお笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんが演じるのはもう少し身近な夫婦像だ。

メインで家事を担うのは妻の杏さん。料理上手で疲れていても掃除をてきぱきとこなす。同居するお姑さんとも仲良くしているできた女性だ。若林さんも料理、後片付け、アイロンかけもしている。ただ、その手つきはどこかぎこちなく、“お手伝い感”は否めない。妻と母親が旅行に行っている間はダラダラして掃除をさぼるなどちょっとだらしない姿も見せる。

2人とも完璧とは言い難い。エアコンの温度設定をめぐって夫婦でリモコンの取り合いもする。そんなケンカともいえないやりとりから夫婦仲の良さは伺えるものの、理想というよりは等身大の夫婦像を提示する。

アプローチの違いから見えてくるものは

「日常の幸せに家電製品が役に立てるということを伝えたかった」と語るのは、パナソニックで家電を受け持つアプライアンス社、コミュニケーション部クリエイティブ課の高須泰行担当課長。


パナソニック アプライアンス社の高須泰行課長(記者撮影)

成熟した国内市場にあって近年、白モノ家電は好調だ。台数自体は頭打ちに近いが、平均単価が着実に上がっている。この原動力となっているのが共働き世帯。家事負担を減らせる高機能家電の購買意欲が高い。

パナソニックは2015年から「ふだんプレミアム」というキャンペーンを開始、一段上の高級路線を打ち出している。メインターゲットとして共働きの夫婦を定め、スタートしたのが西島さんと奥貫さんの夫婦のCMシリーズである。

「共働き世帯で白モノ家電の購入で決定権を持つのは、ほとんどが女性側。女性の共感を意識してCMを作っている」(高須課長)。「ふだんプレミアム」の前から宣伝キャラクターを務めていた西島さんは、コミュニケーション部に大勢いる女性社員からの人気も高かった。そこから女性陣があこがれるような、完璧な夫がいる理想の夫婦というコンセプトにたどり着いた。

さらにCMでは家電の機能そのものを声高にアピールすることは控え、高機能な家電によって家事の省力化や時短を実現し、手に入れられる”幸せな日常”をドラマのように描いている。

ストーリー性を強めたことで可能になったのが製品群としてのアピールだ。たとえば冷蔵庫がメインのCMであっても、キッチン回りにさりげなくパナソニック製品を置き、時にはそれを西島さんらが使うことで、ブランド全体のイメージ広告のような作りとなっている。

パナソニックがこうした戦略を取るのは合理的だ。国内でパナソニックの家電製品のラインナップは随一。冷蔵庫、洗濯機、エアコンはもとより食器洗い機、ロボット掃除機、IHクッキングヒーター、理美容家電まで取りそろえている。

高価格帯では掃除機のダイソン、アイロボット、トースターのバルミューダなど新興勢力の攻勢を受け必ずしも優位とはいえないが、圧倒的な製品ラインナップは他社にはマネできない。

一度に作った料理を大型冷蔵庫で保存し、平日夜に電子レンジを使って短時間で調理する。後片付けは食洗機に任せ、ゆっくりとした家族の時間を楽しむ。大型の全自動洗濯乾燥機で洗濯をして、脱臭ハンガーや衣類スチーマーでアイロンの手間を省く。その大半をパナソニック製品でまかなうことができる。

この製品群、ブランド全体でのアピールという方向性はさらに強まっている。今年3月に創業100周年を迎えるパナソニックは、昨年8月から大々的なキャンペーンを開始している。ここではパナソニック全体の宣伝キャラクターである綾瀬はるかさんや理美容家電のキャラクターである水原希子さんが西島さんらと共演。パナソニック製品がとけ込んだ楽しそうな日常を描き出す。

CM総合研究所の関根心太郎代表は「消費者が欲しいのは家電の機能ではなく、その家電を使うことで得られる生活の向上。それをストーリー仕立てでうまく見せることに成功している」と評価する。

「共感してもらうことを狙った」

 「“あるある”と共感してもらえることを狙った」と説明するのは、三菱電機宣伝部BtoCコミュニケーショングループ耼原(くわはら)幸志グループマネージャー。その耼原マネージャーには悩みがあった。「一般の方は三菱電機という企業に対する印象が薄い。その中で家電は比較的認知度が高い。それでも他社に比べると十分ではない」。


三菱電機の耼原幸志マネージャー(記者撮影)

ただ、調査すると三菱の家電を購入した顧客の満足度は非常に高いことが分かった。「かゆいところに手が届く、という声があり、これだ、と」。日常生活でのちょっとした困りごと、それを三菱電機の家電で解決する。杏さんが「ニクイね、三菱」という決め台詞を締めるというフォーマットが固まった。

日常生活では、ちょっとした困りごとが起こるもの。そこで「あるある」という共感を大事にする現在のシリーズができあがった。ちなみにエアコンのリモコンを取り合うバージョンは、耼原家であったことが元になっている。「このCMは好感度が非常に高かった」(CM総合研究所の関根代表)というから狙いは当っている。

CMの表現が問題視され炎上しやすい昨今、三菱のCMは結構きわどい線を行っている。夫婦で家事をやっているとはいえ杏さんの活躍が目立つ。一歩間違えば、家事は女性がやるものという価値観を押しつけているといった批判を受けかねない。それでも現実に女性が家事を担う割合が多い以上、「あるある」と思ってもらうシーンを描こうとすれば杏さんの家事負担が多くなってしまう。

炎上を回避しつつ「あるある」を狙うために表現は細心の注意を払っている。実は、ほとんどのバージョンで若林さんも家事をやっている。杏さんがコーヒーを飲んでいる横で若林さんだけがアイロンをあてているバージョンもあり、きちんとバランスを取っている。杏さんの役柄も「完全に専業主婦という設定にはしていない。働いているかもしれないし、そうじゃないかもしれない」(耼原グループマネージャー)。

女性の視線を意識しているのはパナソニックと同様だが、独身でも既婚でも専業主婦でも共働きでもいい。「あるある」の困りごとを解決してくれる三菱の家電というイメージを広げることに成功している。

ここまでは両社のCMの描き方の違いに注目してきたが、広告宣伝戦略全体で見ると共通点がある。動画コンテンツを作る際、テレビだけでなく、ネットを重視するようになっている点だ。

ネットでは機能の解説を重視

パナソニックは、「動画を作ってシーンごとに、ニーズごとに出し分けるようにしている」(高須課長)。テレビと比べると、ネットでの動画配信にかかる費用は圧倒的に安い。数多くの動画をアップしておけば、消費者は自ら必要な動画を選んで見てくれる。パナソニックの場合、テレビCMでは機能の説明は極力減らしたバージョンを流しているが、ネットには機能を解説する動画もしっかり用意している。

一方の三菱電機の耼原マネージャーは、「ネット動画では遅れていて、まだ試行錯誤のど真ん中」と率直に語る。ネット用の動画を本格的に制作し始めたのは2015年秋。5分前後のムービーを3本作った。第一弾の「マザー」は出産で入院している母親に代って家事をやる娘が主役。第二弾の「パートナー」は結婚した幼なじみの物語。第三弾は妻を亡くした夫の話。どれも商品の説明は入れずにストーリーテリングに徹した。

掃除機「風神」の特別ムービー(三菱電機のYouTubeサイト)

それぞれ100万回以上の再生を達成できたことで、昨年はエアコン「霧ヶ峰」の50周年に合わせた記念ムービーや掃除機「風神」の特別ムービーを制作。霧ヶ峰の「人生に吹く風」は男性と女性が生まれたところから新しい家族を持つまでの成長をそれぞれの視点で感動的に描く。「風神 運命のサイクロマンス」は女子高生が掃除機に恋をする、というコメディで、それぞれ300万回以上も再生された。

「三菱電機は特に若者からの認知度が低い」(耼原マネージャー)。ネットは挑戦の場と位置づけ、この先も挑戦を続ける考えだ。

マーケティングの古典用語に「AIDMA(アイドマ)の法則」がある。アテンション(注意)、インタレスト(関心)、デザイア(欲求)、メモリー(記憶)、アクション(行動)の頭文字で、消費者が行動するまでのプロセスを説明したものだ。

「ネットがなかったときには短時間のCMでAIDMAに結びつける必要があった。今はCMでやらなければいけないことはアテンションとインタレストまで。マスに伝える力が強いはテレビはAとIは得意とするところ。その先にデザイア、メモリー、アクションはネットの出番」(関根代表)。

テレビとネットをどう組み合わせるかは、多くの企業にとっても課題になっている。宣伝上手な大手家電メーカーの試行錯誤から学べるものがあるかもしれない。