現れないバスに競技を妨げる強風、大会後の不安も…冬季五輪開催地の非日常〜平昌編

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5カ月ぶりの平昌

平昌五輪の開閉会式が行われるオリンピックスタジアムのある江原(カンウォン)道の平昌(ピョンチャン)郡・大関嶺(テグァルリョン)面(面は町村に相当する行政区)を訪れるのは、5カ月ぶりだった。

5カ月前は、歩道のブロックを敷き詰めるなど、町全体が工事中という感じであったが、大会を迎え、すっかり別の町のように変貌を遂げていた。

大関嶺面は、平昌郡の中では海沿いの江陵(カンヌン)市に近いエリアである。江陵の市外バスターミナルから、オリンピックスタジアムなどがあるオリンピックプラザに近い横渓(フェンゲ)バスターミナルまで30分余りで着く。

横渓のターミナルは、ターミナルといっても、バスの停留所にコンビニの入った待合所のある、真新しい小さな建物があるだけだ。

横渓ターミナルからオリンピックプラザまでは、200メートルほどしか離れていない。その途中には、LG25、CUといった韓国資本のコンビニや、財閥系のパン屋チェーンのほか、飲食店も多く並ぶ。小さな山里に、突然街が出現したという感じだ。

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バスが現れない

開会式の日に続き、オリンピックプラザ周辺を訪れたのは、ノルディック複合ノーマルヒルの競技が行われた2月14日だった。

平昌五輪というだけあり、人口が多く、氷上競技が行われる江陵市よりは、オリンピックムードが感じられる。

オリンピックプラザ周辺でも、雪像が設置されるなど、様々なイベントが行われている。ただすれ違う人の数は、大会期間中にもかかわらず、それほど多くない。

ときおり小雪が舞う中、猛烈な風が吹き、競技が行われるか、不安になるような気象条件であった。

この地に来たら、オリンピックプラザのすぐ近くにある黄太(ファンテ)会館で、干したスケトウダラのスープである黄太ヘジャングッを食べたい。

黄太会館はお昼少し前であったが、観光客や地元の人で賑わっていた。黄太ヘジャングッは、ソウル市庁の近くにプゴグッという名で食べる人気店があるが、本場は大関嶺である。

黄太ヘジャングッを食べて温まり、再びオリンピックプラザの周辺を歩いていると、規模は小さいが、スケトウダラを干している場所を見つけた。

毎年冬になると、韓国の新聞やテレビでは、スケトウダラの干場がよく登場する。大関嶺の強い寒風で干されたスケトウダラは、美味しいスープの材料になる。そして、スケトウダラが大関嶺の寒風で干される風景は、韓国の冬の風物詩になっている。

私も一度見たかったが、冬の山里に行くことなどないと思っていた。平昌五輪のお陰で、韓国の冬の名物を見ることができた。

ただそれだけこの地域は、昔から風が強いことで有名だということでもあり、よくこうした場所がオリンピック会場になったなとも思う。

オリンピックプラザからジャンプ会場に向かうバスが出ているはずだが、乗り場が見つからない。

横渓のターミナルの案内デスクで、ターミナルからも1時間に1本、ジャンプ会場に行くバスがあると聞いていたので、建物の中で待機できることもあり、バスの時間に合わせ、ターミナルに戻った。しかし、これが間違いであった。

案内デスクの人の良さそうなおじさんのいう時間に、バスは現れない。結局1時間遅れで出発することに。

そのバスのフロントには、ジャンプ会場と書いてあったし、案内デスクのおじさんも、バスの運転手もジャンプ会場に行くといっていた。 

バスはしばらく走行して、プレスセンターなどがあるアルペンシアリゾートの近くで止まり、運転手からジャンプ会場に行く人は、降りるようにいわれた。

ジャンプ会場は、一昨年と昨年はKリーグ・江原FCのホームとして使われた。バスが止まったのは、サッカー観戦のバスが発着する所だった。ジャンプ会場までは少し歩くが、まだ競技開始までは余裕があった。

空席が目立つ理由

ところが、ジャンプ会場に向かう道を歩こうとすると、大会のボランティアに「通行禁止です」と、止められた。

ジャンプ会場へのアクセス道路は2つある。選手・関係者や、緊急車両の通行をスムーズにするため、一方の道を一般通行禁止にすることはありうることだ。大会期間中、江原FCの試合のときのアクセス道路は、一般は通行禁止になっていたのだ。

けれどもそうした基本的な情報を、地元に伝えていないというのも、お粗末な話である。

小さな町なので、タクシーもほとんど通っていない。近くにメインプレスセンターがあるので、その方向に行けば、バスがあるかもしれないと思い行ったら、会場に向かうバスに乗ることができ、競技開始にも間に合った。

ノルディック複合は、チケットの売れ残りの多い競技の一つであったが、ジャンプが午後3時に始まるノーマルヒルの方は、思っていたより観客が多かった。

ジャンプ競技では空席が目立つが、ある程度仕方ない。まず韓国でジャンプ競技への関心は低い。女子のジャンプ競技を江陵の宿でテレビ放送を見ていたが、競技が延びて、放送時間がなくなると、これからメダル争いというところで、放送が終わってしまった。高梨沙羅の銅メダルは、ネットで知った。

それに、競技の終了時間である。終了が夜11時を過ぎるとなると、よほど好きな人でないと、二の足を踏む。開会式が終わった後もそうだったが、何もない山の中の駐車場で、寒風にさらされてバスを待つのは、かなり堪える。

東京やソウルの真ん中であれば、深夜に試合が終わっても、交通手段はあるし、場合によっては24時間営業の店で始発まで待つ手もある。しかし平昌の夜には、何もない。欧州の放送局の都合のようだが、夜中のジャンプ競技は、選手にとっても観客にとってもたまったものではない。

競技にも影響した平昌の風

このエリアの強風は、時間を問わず吹く。

12日はフェニックスパークで行われた、女子スノーボードのスロープスタイルの決勝を見た。フェニックスパークのある蓮坪(ボンピョン)面は、大関嶺面より内陸にある。

KTXでは、江陵駅の次の次の駅である平昌駅からシャトルバスが出ている。考えてみれば、大会名称などではなく、地名として平昌の文字を見るのは、1週間の滞在のうち、このときだけだったと思う。

競技開始は午前10時。1時間近く前に会場に着いたが、会場の要所要所に立つ案内のボランティアは、いかにも寒そうだ。

スロープスタイル以外にも、モーグルやハープパイプなどの競技が行われるフェニックスパークは、座席は基本的に仮設である。

前日に行われる予定であった予選は強風のため中止。この日は、全員決勝に進む形で行われた。

それでも、開始予定の午前10時は強風のため、開始を1時間遅らせるとこが発表された。気温はマイナス11度。風が強いので、体感気温は、もっと低かった。

午前11頃には風が少し治まったので競技が始まったが、競技が始まると、午前10時頃より、さらに強い風が吹いてきた。日本勢をはじめ、各国のトップクラスの選手が、風の影響をもろに受け、力を発揮できなかった。

大会前から、平昌の問題は雪よりも風だということは分かっていた。場所を変えない限り、対策のしようがないのだろう。

同じく風が心配された14日のノルディック複合ノーマルヒル競技は無事終わり、渡部暁斗が惜しくも優勝は逃したものの、銀メダルに輝いた。今度はシャトルバスに乗り、オリンピックプラザに行った。

スタジアムの近くにあるメダルプラザでは、メダル授与式が行われていた。

この日の最後は、スノーボードのハーフパイプで、平野歩夢が銀メダルで表彰台に上った。メダルプラザの近くのオリンピックスタジアムの外では、聖火が風に揺れている。

このスタジアムのスタンドは大部分が仮設で、パラリンピックが終われば、取り外す予定になっている。オリンピックプラザ周辺の店は、大会後も維持できるのだろうか。

地域の人たちは、オリンピックを通じて町の発展を期待したのだろう。でも後から振返ったとき、2018年2月は、ひとときの幻だったように感じるときが来るのかもしれない。

小さな町が、思い切り背伸びして迎えたオリンピックだ。その後どうなるのか。いずれ訪ねてみたいと思う。

でも行くとしても、寒い時期はやはり避けたい。

(文=大島 裕史)

初出:ほぼ週刊 大島裕史のスポーツ&コリアウォチング