育休期間を漫然と過ごすのではなくて何らかの目的意識を持ってきちんと過ごせば、キャリアのプラスになることも(写真:kohei_hara/iStock)

働きやすく、キャリアも積める働き方改革とは。働く人、企業の双方に有効な思考転換メソッドがあるという。『働く女子のキャリア格差』を書いたワークシフト研究所の国保祥子所長に詳しく聞いた。

育児休業後に職場復帰して、いかに活躍できるか

――ワーキングマザーはいわば「炭鉱のカナリア」なのですか。

それぞれの職場の機能不全をあぶり出す。普通の人にとっても、ワーキングマザーが仕事と家庭を両立しやすい職場が働きやすい職場のはずで、危険をいちばん早く察知するカナリア的な存在なのだ。今や夫婦共働き世帯が過半数を超える。育児休業後に職場復帰して、いかに活躍できるか。その環境をどう整えるかが個人と企業の双方に切実に問われている。

働く女性側には「時短トラップ」「マミートラック」「ぶら下がり化」など数々の両立の壁があり、受け入れ企業側には「過剰な配慮」「理解のない上司」「権利主張女子」といった問題がある。だが、その多くは職場環境と女性の意識の持ち方に問題の根源があると調査してわかった。

――女性には出産・育児の「空白時期」が控えています。

私自身は人材育成が専門。その観点から女性特有の問題があると判断した。いちばん大きい問題は結婚、出産でキャリアが途絶える可能性があることだ。そこで女性たちはあまりキャリアアップを考えない、成長のための自己投資や勉強をしない傾向がある。

そういう人たちに言いたい、学ぼうと。不安だったり自信がなかったりしても、自分の努力によって、学べば変えられる。

――学ぶとは?

仕事にしろ子育てにしろ、すべての経験が学びのきっかけになる。ただ、そこを漫然と経験してしまうと学びにならない。学びになる、学ぼうという意識を持たないとただの経験になってしまう。

たとえば出産すると、育休で仕事の現場を離れる期間がどうしても発生する。その育休期間を漫然と過ごすのではなくて、何らかの目的意識を持ってきちんと過ごせば、キャリアのマイナスになるどころか、プラスになることも十分にありうる。

会社としては活躍してほしいと考えているし、女性としてももっとやりがいのある仕事をしたいと思っているにもかかわらず、どちらにとっても望ましくない結果になっている現状が往々にしてある。共に自分たちの努力の範囲で取りうる解決策を少しずつやることでお互いをウィン・ウィンの状態に持っていくことは可能なのだ。

個人を責めることでは解決しない問題

――経営学の基礎知識を織り込んで提案していますね。


国保祥子(こくぼ あきこ)/「育休プチMBA勉強会」代表。静岡県立大学経営情報学部講師、慶応義塾大学大学院非常勤講師、早稲田大学WBS研究センター招聘研究員、上智大学非常勤講師。専門は組織マネジメント。慶応ビジネススクールでMBAおよび博士号(経営学)を取得(撮影:今 祥雄)

多くの人が、働く女性を取り巻く問題の原因は、女性にあると思っている。会社は主に女性がやる気を失っているのがよくないと。そして、女性も自分が悪いと思っている。そうではなく、同質性を前提としていたこれまでの職場が抱える構造的な問題が原因だ。だから個人を責めることでは解決しない。

「自分の権利ばかりを主張する」「期待をかけても辞める」「育児中だから配慮していたのに辞める」「管理職になりたがらない」といった事例がしばしば見受けられる。だが、これらは互いのミスコミュニケーションによって起こる。管理職側は女性個人の、女性側は管理職の立場や目線を理解せず、自分の価値観で判断しているためだ。

――特に個人評価は難しい。

個人攻撃のようになってしまうので、人材育成時の教育手法にある「ケースメソッド教育」を使って、ケースで考えるといい。人と事象が分かれるので、感情的にならずに議論ができる。たとえば第三者のA子さんの事象として解きほぐしていけば、互いに客観的に問題を考えられる。最後は自分に置き換えてもらうが、最初から特定をしてしまうと感情的な議論になりがちだ。

――ミスコミュニケーションがはびこっていることが原因ですか。

背景には職場の多様性が広がっていることがある。性別、国籍ばかりでなく、仕事に対するスタンスなどいろいろなもので多様性が生まれている。日本の会社組織は今までは同質性が特徴であり強みだった。逆にマネジメントをきちんとしなくても「あうんの呼吸」で物事が動いているところがあった。多様性が高まれば逆にしっかりマネジメントをしないと問題が出やすい。なお多くのところがマネジメントをしなくてよかった時代のままを引きずっているので、いろんな問題が職場に出てきている。

――今、過渡期ですか。

そう。女性管理職の比率はまだ6〜7%なので、プレーヤーとしての女性と管理職の男性の対立構図になりやすい。管理職に女性がもっと増えてくると、プレーヤーにはもともと男性が多いのでバランスが取れるようになる。今は歪んだ多様性の最たるものが管理職の男性と女性部下。そこでのミスコミュニケーションが目につく。

「女性だから助け合ってね」はもはや通用しない

――女性と女性の対立は。

女性の中でも多様性はかなり進んできている。とかく女性とひとくくりにされるが、その中にはいろんなプレーヤーがいる。そこも同質性を前提としたマネジメントの限界があるところだ。女性だからわかるだろうとか、女性だから助け合ってねといったマネジメントはもはや通用しなくなっている。

――女性は短時間勤務制度の落とし穴にも注意が必要ですか。


時短は、子どもを育てながら働く女性に優しい制度に見えるが、落とし穴になりうる。何となく時短制度を利用した場合、意図せずマミートラックに乗ってしまうことがある。本人は一時的なつもりでも、成長に必要な業務経験を逃し続けたまま年齢を重ねて、元のキャリアトラックに戻れなくなる。

――フルタイムに戻るのが前提なのですね。

男性、女性を問わず選択肢をたくさん提示したいとの思いがある。その選択肢でいちばん難しいのが、女性が子育てしながらキャリアを追求しようとする選択肢。専業主婦を選ぶのも時短を選ぶのも否定しないが、ただ何となく流されていると、本人が望まないところに行く可能性が強い。

世の中の「ルール」を理解せずに、いわば「戻れない片道切符」を無意識のうちに手にしてしまう女性がけっこう多い。追い詰めたいという考えはないが、こうしたいならこういうことを考えようと意識し、何事も学ぶ。受け身でいることにいいことはない。