菊池桃子さんが大学院で学び直したワケとは(撮影:梅谷秀司)

幅広い芸能活動と子育てを両立する傍ら、母校である戸板女子短期大学(東京都港区)の客員教授としてキャリア教育を担当する女優・菊池桃子さん。40歳のときに法政大学大学院に入学し、雇用政策を学んだ。
2月19日発売の『週刊東洋経済』では、「ライフ・シフト 学び直し編」を特集。かつてのトップアイドルはなぜ学び直し、そこから何を得たのか。

ライフキャリアとして、人生を考える

――客員教授として、学生に何を教えているのですか?

大学院を3年間かけて修了し、2012年8月から縁あって戸板女子短期大学の客員教授になりました。キャリア教育、特に女性のキャリアについて講義しています。

キャリアは日本語では「わだち」、つまり車が通ったあとに残る車輪の跡と表現されることが多いです。ワークキャリアとして仕事だけをみるのではなく、ライフキャリアとして、人生を考える。その前提のうえで、今の社会の様子や予測できる今後の状況を学生に伝えています。


最近は、ゼミ形式で学生とディスカッションもしています。ゼミの1週間前にテーマを決めるのですが、インバウンドやAI(人工知能)など、話題のニュースを取り上げます。そのため産業新聞のような専門紙にも目を通し、VRなどの最新技術についても、なるべく一足早く情報を集めるようにしています。

このごろ感じるのは、「知らなかったことを知ることすべてが学び」だということ。教育機関に戻るだけではなく、人に会ったり本を読んだりすることもすべてが学び。そんな気づきを踏まえて、生涯学習について講義することに加えて、全国で講演活動もしています。


菊池桃子(きくち ももこ)/女優・戸板女子短期大学客員教授。1968年生まれ。芸能活動や子育てと並行し、2012年法政大学大学院政策創造専攻の修士課程を修了。現在は母校でキャリア教育の講義を担当する。著書に『午後には陽のあたる場所』(撮影:梅谷秀司)

――大学院で学ぼうと思ったきっかけは?

私の娘は、乳児期の脳梗塞で左手足にマヒが残りました。「私はどんな職業につけるの?」「どこまで夢を持っていいの?」と問いかけてきたのです。そんな娘の人生を守りたい――。これが一番の理由でした。

社会人が通える大学院のガイドブックを読んで見掛けたキャリアカウンセラーに相談すると、法政大学大学院のある研究科を紹介されたのです。

――キャリアカウンセラーとはどのようなやり取りを?

精神科医であり心理学者でもあるユングの、“人生の正午”という考え方を教わりました。

人生を太陽の動きにたとえると、40歳前後は“正午”。「菊池さんは“午後”をどのように計画していますか?」と尋ねられたのです。

私はそれまで、1年おきに目標を定めて反省するという生き方をしていましたが、ユングの話を聞いて、「何歳ごろの私は何をしているだろうか」と長期的に人生を考えるようになりました。

知っている自分と知らない自分

――“人生の正午”に通い始めた大学院での学び直しを通して、意外な気づきがあったそうですね。

ええ。まずは同級生とのやり取りから、自分が「人見知りをしない」ということに気づきました。

仕事では社交辞令があったり、利害関係があったりして、心を開ききれない部分もあったと思います。大学院に入って、素の自分に出会えたというか。

もう1つあります。私が後輩に専門用語などを解説する姿を見て、同級生や先生方が「菊池さんって教えるのが好きだよね!」と言うのです。

心理学の領域に、「ジョハリの窓」というフレームワークがあります。自分が知っている自分と知らない自分があって、周りの人が自分の潜在的な能力に気づかせてくれる。大学院のような学習共同体で学ぶことが、自分を知るきっかけになりました。

大学院での学びは、芸能活動にも役立っています。ドラマに出るときに、たとえば女性の社会進出のような社会的課題や変化がわかったうえで演じられる。インタビューを受けるときも、以前は自分の記憶を基に話していましたが、社会の動きについての関心が高まり、話題が広がったことを感じています。

――勉強時間は、どう確保していましたか?

芸能活動と子育てをしながら大学院に通っていたので、勉強時間について「1日何時間」と決めるのは難しかったです。

そこで30分を1単位として、1日最低2単位を勉強時間に充てるようにしました。朝と夜に1単位ずつだったり、朝に2単位だったり。1単位しかこなせなかったら、次の日に3単位こなしたりもしました。1週間ごとに計画を立てて、なるべく前倒しで単位を消化するようにしていました。息子の通っていた小学校が1モジュール15分にしていることが、ヒントになったのです。

どうしてもモチベーションが下がりそうになったときは、勉強を頑張る約束を娘としたことを思い出すようにしました。誰かに向けて宣言をすると、頑張れるものですね。

いつでも学び直すチャンスがある

――何を学べばよいかわからず、悩む人が多いです。


何かでつまずいた、困った、窮地に立たされたというときに「学びたい」と思うケースが多いのではないでしょうか。何を学べばよいかわからないという人は、今の人生が順調であるともいえます。

ただ、いつでも学び直すチャンスがあるということは知っておくべきです。大学や大学院の特別聴講や、資格スクールのお試しキャンペーンなど、社会人が学べる場はたくさんあります。「学びだ、学びだ」とかしこまらずに、まずはやってみる。やってみてダメだったら、また今の場所に戻ればよいのです。

――今の目標を教えてください。

ドラマでも舞台でも映画でもよいのですが、65歳になったらこんな役をやりたいというハッキリしたイメージがあるのです。誰かに先にやられたら困るので手の内は明かせませんが(笑)。今はひたすらインプットする期間だと思っています。自分が知らないことを知るのは楽しい。まだまだ知らないことはたくさんあるはず。一生涯、自分の好奇心と向き合いたいです。

『週刊東洋経済』2月24日号(2月19日発売)の特集は「ライフ・シフト 学び直し編」です。