平昌五輪の後には何が待っているのか(写真:AFP/アフロ)

羽生結弦の連覇に酔いしれ、ライバルを称える小平奈緒の姿に感動し、スキージャンプ会場の気まぐれな突風に腹を立て、カーリング女子の「そだねー」の声に癒される。始まるまではなんだかんだと言われていたけれども、やっぱり見てしまうじゃないか平昌オリンピック。

この間、株と為替も不思議と落ち着きを見せ始めている。ニューヨーク市場のダウ平均は、2月2日に666ドル、2月5日に1075ドル、2月8日に1032ドルと「恐怖の三段下げ」を体験したばかり。それが2月9日の五輪開幕とともに鳴りを潜め、気づいたら相場は半値戻しまで来た。為替レートも1ドル=105円の円高局面からやや戻している。

五輪終了後は、気になる材料が山ほど転がっている

スポーツの感動というものは、とげとげしい市場心理さえ忘れさせるものなのだろうか。そうだとすると、25日の閉会式とともに世界は再び荒れ始めるのかもしれない。26日以降には、気になる材料が山ほど転がっている。

ドイツではSPD(社会民主党)が、政権入りの是非を問う党員投票を行っている。もし答えが「ノー」だとCDU(キリスト教民主党同盟)との大連立構想が否定される。昨年9月以来の連立交渉が不首尾となれば、アンゲラ・メルケル首相の面目は丸つぶれ。いよいよ再選挙しかないだろう。その場合、反EU政党であるAfD(ドイツのための選択肢)が躍進するかもしれない。投票結果が判明するのは3月4日である。

その日はイタリア総選挙の投開票日でもある。五つ星運動、民主党、中道右派連合(フォルツァ・イタリアと北部同盟)の三極は、いずれも過半数を取れない見通し。これまた鬼が出るか蛇が出るか。次期政権の組み合わせ次第では、EU内の新たな火種となりそうだ。

3月5日からは中国の全国人民代表者会議が始まる。昨年秋に共産党大会が行われたばかりなので、その後の全人代は無風で人事が決まるというのが吉例である。ところがどうも様子がおかしい。習近平国家主席は、平昌五輪の開会式のみならず閉会式にも出席しないとか(次回冬季五輪の開催国なのに!)。どうやら国内が穏やかではないようにお見受けする。李克強首相の訪日が遅れているのも気になるところだ。

そして北朝鮮や中東をめぐる地政学リスクがある。この後はパラリンピック(3月9日-18日)があるけれども、4月には米韓合同軍事演習が行われるだろう。再び朝鮮半島に緊張が走る。そろそろ「五輪後」に備えて、気持ちを引き締めるべきタイミングといえよう。

パウエルFRB新議長は「デビュー戦」を飾れるのか

しかし何と言っても週明け2月26日以降の最大の焦点は、2月28日に行われるハンフリー・ホーキンス証言だ。年に2回、FRB(米連邦準備制度理事会)議長が連邦議会で証言に立つ機会である。ジェレミー・パウエル新議長にとっては、文字通りのデビュー戦となる。米国経済の現状をどう見ているのか。量的緩和(QE)からの出口政策をどう描くのか。次のFOMC(米公開市場委員会、3月20-21日)は予定通り利上げなのか。そして年内の利上げは2回か、3回か、4回か。市場は鵜の目鷹の目で注視している。

2月上旬に起きた世界同時株安については、「雇用統計ショック」「VIXショック」など、さまざまな「戒名」が浮かんでいる。市場心理とは不思議なもので、この手の「戒名」が決まると急に落ち着くことがある。要は「犯人」さえわかってしまえば、たとえ事件は解決していなくても不安心理が半減するのであろう。

いろいろ候補はあるのだが、今回の下げの容疑者は「長期金利」にあり、と筆者は見ている。10年物米国債の利回りが3%に接近している。景気が良くなれば金利が上がるのはいわば「常識」だ。とはいえそれは、久しく忘れられた常識である。いくら景気が良くなっても物価は上がらず、賃上げも起きず、従って金利も上がらない。だったら投資には絶好の環境というもの。それが「適温経済」と呼ばれるものの正体であった。

ところが低金利を可能にしていたのは、FRBの金融緩和である。過去10年、3次にわたってQEを実行し、米国債や住宅担保債権(MBS)を買いまくり、強引に長期金利を下げてきたから、低インフレ下の景気回復が実現した。ところがここからの出口政策が容易なことではない。

2008年のリーマンショック前には8000億ドルに過ぎなかったFRBの保有資産は、今や4.5兆ドルにまで膨れ上がっている。昨年秋には、「満期になった資産の買い替えを縮小する」という形で、非常にゆっくりとしたペースでの資産縮小に着手した。今の米国経済はQEというドーピングはさすがに不要になったが、いきなり資産圧縮というダイエットに励めるほどの健康体というわけではない。

それでは仮にバランスシートの3分の1に当たる1.5兆ドル分の米国債及びMBS(住宅担保債券)が売りに出された場合、果たして市場は吸収しきれるだろうか。たちどころに資金が枯渇して長期金利が上昇し、大混乱が生じてしまうのではないだろうか。

こんな状況に飛び込んできたのが、トランプ政権による大胆不敵な経済政策であった。まずは減税を向こう10年間で1.5兆ドル。それを決めたうえで、今度はインフラ投資を向こう10年間で1.7兆ドルと言っている。民間資金も利用すると言うけれども、さすがにおカネが逼迫しそうに思える。

今年は秋に中間選挙を控え、共和党は防衛費の増額を目指し、民主党は大型のインフラ投資を望んでいる。政治家が具体的な成果を目指すほど、財政赤字は拡大する。勢い米国債は大量増発時代を迎えることになる。これから出口政策の本番を迎えるパウエル議長としては、「ようやく金融政策を正常化しているのに、余計なことをしてくれるな!」と心の中で叫んでいることだろう。

もっとも拡張的な財政政策は、実体経済にはプラスと見ることもできる。景気が改善し、完全雇用に近づいている中で減税とインフラ投資を実行した場合、さすがに賃金は上昇するだろう。ことによるとトランプ支持者、いわゆる「忘れられた人々」に対して大いなる恩恵をもたらすかもしれない。

ただし、「良いニュースで売り、悪いニュースで買う」投資家たちにとっては、これは不本意な展開である。彼らはもっと「適温経済」をエンジョイしていたい。株高を望んでいるトランプ大統領自身の手によって、相場が崩されていると言ったら気の毒だろうか。今回の相場に敢えて「戒名」をつけるとしたら、「トランプ崩れ」というのはどうだろうか。

一時的に安くなった「ドル資産」に投資するチャンス?

アメリカは一足先にQEからの出口政策に踏み切ったとはいえ、先行きはまだまだ視界不良。他方、日本では2月16日、「黒田東彦総裁、雨宮正佳副総裁、若田部昌澄副総裁」という次期日銀執行部の国会同意人事案が提示された。黒田総裁はこの春から2期目の体制に入ることになる。と言っても、今の超・緩和路線は当面続けられるだろう。「出口政策」を語るには早過ぎる。それでも次なる5年間の任期のどこかで、軌道修正が行われることは想像に難くない。現在の米国経済はその貴重な先行指標ということになる。

まことに困ったことに、先行指標である米国経済の方が、日本よりも規模がはるかに大きい。彼らが失敗すれば、われわれも影響を受けてしまう。リーマンショックから今年で10年。実体経済は多少良くなったとはいえ、金融政策の「出口」は前途遼遠だ。新任のパウエル議長と2期目の黒田総裁は、任期中にどこまでたどり着けるのか。

まあ、そんな偉い人たちのことはどうでもいい。投資家の立場として、現状をどう受け止めればいいのか。長期金利が上がる、ということは米国債の値段が下がることを意味する。従って時価会計を意識する機関投資家は手を出しにくい。逆にそんなことを気にしなくていい個人投資家にとっては、ドル資産を仕込むチャンスであるかもしれない。今は一時的に円高に振れているけれども、年後半には日米金利差拡大で円安に向かうだろう。
いつの時代もピンチとチャンスは裏表。不要だとは思うが、くれぐれも投資は自己責任で、というお決まりの文句を付け加えておこう。

さて、ここからは恒例の競馬コーナーだ。

競馬は2月24日から再び中山開催となる。「さあ、そろそろ本気出すか!」とばかりに、有力馬が動き出す。

25日の日曜日のメインレースは伝統の中山記念(G2、芝1800m)。ここから大阪杯など中距離路線に向かう馬、ヴィクトリア記念や安田記念などマイル路線に向かう馬、そしてドバイや豪州、香港を目指す馬も居る。今年は頭数こそ少ないがG1馬3頭が参戦し、密度の濃いレースが期待できそうだ。

中山記念の本命馬は、やっぱり「ステゴ産駒」だ!

3歳でマイルチャンピオンシップを制したペルシアンナイトが1番人気。過去にこのレースで3回勝っているミルコ・デムーロ騎手騎乗ともなれば、「鬼に金棒」と見える。ただし本来がマイラーであることと、休み明けに不安があることから評価を一段下げておきたい。

代わりに本命に推したいのは、中山金杯で惜しくも2着だったウインブライト。1800mはたぶんこの馬に一番合っている。やはり中山ではステゴ(ステイゴールド)産駒ですよ。

もう一頭、気になっているのはマイネルハニー。これまた父は「中山専用」とまで言われたマツリダゴッホだ。中山適性の高い2頭を中心に狙ってみよう。

寒風の中にも、徐々に温かみを増していくこの季節、伸び盛りの若駒たちのレースを見るのは楽しいものだ。もっとも花粉が飛び始めるので、ときに視界が涙に曇る。花粉症の同志諸兄はマスクと薬をお忘れなく。