「世界と繋がるガレージ企業」、Drivemodeの誕生秘話

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「イーロン・マスクの右腕」と呼ばれた男と、Zipcarの元役員が組んだプロジェクト。ドライブの楽しみを変えるアプリに、世界中からアイデアが舞い込んでいる。

「やあ、キミたち、Drivemodeでしょ?」と、開けっ放しのガレージを知らない人が覗き込む。サンフランシスコ湾に面したレッドウッドシティの住宅街。まるで友だちにでも頼むように「このアプリ、使い方を教えてくれる?」と聞いてくる人たちがいる。ほかにも、自動車保険のビジネスを提携しないかという企業もくれば、メールに至っては世界中から次々と提案や応援が届く。

まさに「世界と繋がるガレージ企業」だが、CEOの古賀洋吉は、「会社をやろうと思ったわけではなく、夏の間のプロジェクトのつもりだったんですけどね」と笑う。取材で「シリコンバレーでスタートアップをしたかったんですか」と聞かれるが、「なりゆき」というのが本音だ。

では、なぜ「なりゆき」で人が集まるのか。彼らのビジネスを紹介するには、古賀の疑問から始めた方がいいだろう。

2013年、古賀は運転しながらイライラを我慢できなくなった。買ったばかりのカーナビが「何、これ」というシロモノだったのだ。ボストンで世界最大のカーシェアリング会社Zipcarの役員を経験した古賀だが、実は車そのものには詳しくない。

彼はハーバード・ビジネス・スクールの卒業名簿を引っ張り出した。車のイノベーターであるテスラからヒントを得ようと、「誰かテスラで働いている卒業生はいないかな」と探した。唯一いたのが知り合いの上田北斗。部品メーカー勤務を経て、奨学金でハーバードに進学したのち、若くしてテスラモーターズの工場立ち上げを任された「イーロン・マスクの右腕」だ。

「ちょっと工場、見せてよ」。古賀はテスラに行って、流線型のボディが光る電気自動車を見ていると、「テスラは衝動買いする人が多い」という話に驚いた。ハンドル横のタッチスクリーンに映し出されるアプリが日々アップデイトされ、「スマホと同じことができる」と、購入を即決する人が多いという。

”おかしいだろ”。古賀はそう思ったという。「スマホと同じことができるという理由で、1000万円ぐらいする車を衝動買いするのは驚きでした。つまり、消費者は普段の当たり前が大事であり、そこにお金を払う価値があると思っているのです」

古賀はシンプルな結論に達した。「コネクテッドカーが欲しいわけではなく、みんな、自分がコネクテッドでありたいんだ」と。

携帯やスマホによって、いまや人類の大半はコネクテッドが当たり前。しかし、ハンドルを握った瞬間、コネクテッドになれない葛藤の時間が訪れる。スマホのメッセージを見たいイライラと、手にする罪悪感。だったら、テスラを買えばいいのだが、古賀は言う。「世界のほとんどの人はテスラが買えるわけではないんですよ!」。

「ずっと昔から意地っ張りなもので」

新興国の人々が低価格の中古車をやっと買える時代になった。が、カーナビもカーステレオも高嶺の花。だからこそ、上田は古賀のアイデアに共感し、「マスクの右腕」を辞めて共同創業者になることを決意した。上田が言う。

「車は買った翌日から一日一日古くなります。しかし、テスラのお客様はガレージの中で夜中にアップデイトされて次の日に新しい体験ができる。そこがすごいと言われるのですが、それってスマホで普通にできますよね」

こうしてドライバー向けアプリの開発が始まった。シリコンバレーや東京のエンジニアたちがボランティアで集まり、IDEOの幹部がデザインの指導にやって来て、「投資するよ」と言う人も現れて、結局、なりゆきで会社になった。

ハンドルのそばに設置したスマホで、ナビ、音楽、通話などをシンプルに操作できるアプリ「Drivemode」が誕生すると、熱烈なファンが世界各地に現れ、コミュニティができた。ファンたちはアプリを自国語に翻訳したいと言い、ボランティアによって数十もの多言語アプリになった。