2月11日、ソウルで行われた北側芸術団の公演を文在寅大統領(前列左から4人目)と共に鑑賞する朝鮮高位級代表団の金永南最高人民会議常任委員長(同2人目)と金与正朝鮮労働党第1副部長(同3人目)。(写真=朝鮮通信/時事通信フォト)

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■「南北首脳会談」の開催が近付いている

2月15日に「五輪前日に軍事パレードを行った北の事情」との見出しを付け、本文の最後に「北朝鮮から目が離せない」と書いたが、まさに看過できない状況が続いている。

米国がこれまでの強硬姿勢を軟化させ、韓国も北朝鮮に接近する可能性が出てきた。すべて北朝鮮の思惑通りにことが運んでいるともいえる。

北朝鮮は平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開会式に向け、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹の金与正(ヨジョン)氏と金永南最高人民会議常任委員長ら高官を韓国に送り込んだ。

なかでも与正氏は文在寅(ムン・ジェイン)大統領との会談で金委員長の親書を手渡すとともに、南北首脳会談を開く用意があると文大統領に訪朝を招請した。文大統領も「実現したい」と応えた。

北朝鮮との融和路線を目指す文大統領が、いよいよ南北首脳会談の開催に向け、その一歩を踏み出したとの見方が強まっている。

米国もペンス副大統領が「北朝鮮が対話を望むのであれば、アメリカは対話する」と語った。早速、この発言を社説で取り上げたのが読売新聞だった。その読売社説(2月15日付)は「安易に対話を始めることは、北朝鮮に誤ったメッセージを送る」と批判している。

■「対話は時間稼ぎに使われる」と読売

読売社説はその冒頭から「北朝鮮に核・ミサイル開発放棄の意思がなければ、対話を行っても、戦力増強の時間稼ぎに使われるだけだ。トランプ米政権には、情勢の慎重な見極めが求められる」と主張する。

つまり読売社説にいわせれば、「北朝鮮は対話を利用して時間を稼ぐ」というわけだ。ひどい話だが、これこそ北朝鮮のしたたかさそのものだ。失敗したあの6カ国協議がそれだった。ならばこの北朝鮮の裏をかくにはどうすればいいのか。

読売社説はこう続ける。

「ペンス米副大統領が米紙に対し、北朝鮮への『最大限の圧力を継続する』と強調する一方、『対話を望むのであれば、米国は対話する』と語った。前提条件を明示せずに、北朝鮮との直接協議に前向きな姿勢を表明した」

「前提条件」を付けずに北朝鮮を対話のテーブルに着かせる。それならば「席に着いてやろう」と北朝鮮は応じてくるかもしれない。ただしそのとき北朝鮮は何かの条件を付けてくるだろう。そこが北朝鮮のしたたかさなのだ。たとえば北朝鮮はすでに米韓合同軍事演習の中止を韓国に求めている。

このことは米国も十分に承知しているはずだ。それゆえ今後の注目は、米国が北朝鮮の裏をついてどう動くかだ。

■韓国と北朝鮮との対話の後、米国が続く

韓国は南北首脳会談をどう実現しようとしているのか。読売社説はこう書く。

「平昌五輪で、韓国の文在寅大統領と会談した際に、韓国がまず北朝鮮と対話し、米国がその後に続く方向で合意したという」
「ペンス氏は、文氏から『見返りは非核化の具体的措置に対してのみ与える、と北朝鮮側に伝える』との言質を取ったとして、『過去20年とは異なる』と強調した」

そうだとすれば、米国と北朝鮮の対話が実現する可能性は否定できない。しかしながらしたたかさを貫く北朝鮮である。油断は禁物だ。

読売社説も「1994年の米朝枠組み合意以来、北朝鮮との対話や合意は経済支援などの見返りを与えただけで、問題解決につながらなかった。トランプ政権はこの認識から、北朝鮮の政策変更を対話の条件とする基本的立場を取ってきた」とくぎを刺す。

■北朝鮮の「裏の裏」をかくしかない

次に読売社説は「トランプ大統領の北朝鮮に対する立場が定まっていないように見えることも気がかりだ」とも指摘する。

具体的には「『北朝鮮と交渉しようとするのは時間の無駄だ』という強硬発言から、『適切な時期と条件下で対話する用意がある』といった柔軟姿勢まで、ぶれが目立つ」と批判する。

ぶれが目立つのは当然だ。トランプ氏は外交のあり方を理解している大統領ではない。北朝鮮のしたたかさを逆手に取るような頭脳も持ち合わせていないだろう。それゆえトランプ氏の周囲にいる外交のプロ、ブレーンたちがしっかりしなければならない。

さらに読売社説は「不安なのは、文氏が北朝鮮に核・ミサイル開発放棄を迫らず、南北関係進展のために、米朝双方に対話を促していることだ」と強調する。

平昌冬季五輪での文氏の北朝鮮側との接し方を見ていると、この読売社説の不安は決して杞憂ではない。ここで重要なのはしたたかな北朝鮮外交の裏の裏をかくことだ。しかも巧みに、である。

これまでもこの沙鴎一歩が書いてきたように、外交は自国のことを最優先に考えて交渉するのが基本である。ただし北朝鮮に核・ミサイルの開発を断念させるには、「目には目を、歯には歯を」といったような圧力一辺倒の強硬姿勢では決して解決しない。将来、北朝鮮をどのように国際社会に組み入れていくかを考えなければいけない。

■毎日社説も米韓の対応に不安を抱く

毎日新聞の社説(2月16日付)は「日米韓の対北朝鮮政策」とのタイトルで「すきを作ってはならない」(見出し)と主張する。

読売社説とスタンスを異にすることが多い毎日社説も、韓国やアメリカの対応に不安感を抱いたようで、ストレートに訴えている。

毎日社説は「対北朝鮮政策をめぐって日米韓3カ国の足並みはそろっているのか。そこに疑問が芽生えている」と書き出し、こう指摘していく。

「(韓国の文大統領は)北朝鮮代表団との会談で米朝対話の必要性を説いたが、核問題には触れなかった」
「ペンス氏は、帰路に受けた米紙のインタビューでは『北朝鮮が望むなら対話する』と語った」
「安倍晋三首相は、五輪後に延期された米韓合同軍事演習を再延期しないようくぎを刺した。これに対して文氏は『韓国の主権問題だ』と不快感を示したという」

そのうえで毎日社説は「対話の目標は北朝鮮に核開発を放棄させることでなければならない」と訴える。その通りだ。

■日米韓と中国の包囲網が効いている

後半、毎日社説は「北朝鮮が平和攻勢で日米韓を離間させ、局面転換を図ろうとしていることは明らかだ。中国を巻き込んだ国際社会の包囲網がようやく機能し始め、北朝鮮が負担に感じ始めたからだろう。この流れを逆戻りさせてはいけない」と主張する。

「北朝鮮が負担に感じ始めた」どころか、かなり効いていると思う。やはり日米韓と中国がともに北朝鮮に立ち向かうことが大切なのである。

北朝鮮のしたたかさを十分に理解して学び取ったうえで、さらに日米韓と中国の包囲網を強め、北朝鮮の裏の裏を巧みにかいて核・ミサイルの開発を断念させたい。もちろん裏の裏をかくのは高度な外交だ。だが、どうしたらそれができるかを日米韓がともに考えていかなければならない。

まずは北朝鮮が頼りにしている中国をうまく抱き込むことが重要だ。

■キューバ危機の回避が参考になる

たとえばキューバ危機のとき、米国のジョン・F・ケネディ大統領は水面下でソ連のフルシチョフ首相と交渉を重ねてその危機を脱出したといわれる。

キューバ危機とは1962年10月、ソ連が関係の深いキューバにミサイルを設置したために起きたものである。米ソ間は戦争寸前となり、世界中を核戦争の恐怖に陥れたことで知られる。

結局、ソ連のフルシチョフ首相からの申入れで交渉が行われ、米国がキューバへ侵攻しないことを条件にソ連がミサイルを撤去することに同意するなどしてキューバ危機は回避された。

ケネディ大統領の具体的な動きには不明な点もあるが、水面下の交渉がみごとに成功したわけだ。これは米ソ間に衝突を避けようとする意志が強く存在していたからだと思う。

日米韓はこのキューバ危機の回避を参考にして中国と水面下の交渉を進め、北朝鮮の核・ミサイル開発をやめさせるべきだ。その間、北朝鮮との対話を実現し、北朝鮮側の言い分を聞くふりをして時間を稼ぐ手もあるだろう。とにかく北朝鮮の裏の裏をかくことである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=朝鮮通信/時事通信フォト)