交通事故鑑定人とはどのような職業なのか(写真:フジテレビ提供)

国内の交通事故の発生件数は約50万件。そのうち死亡事故は3000件を超える。警察が事故調査に費やす時間は限られており、事故当事者が死亡したり、目撃者がいなければ、グレーゾーンを残したまま事故を処理せざるを得なかったりすることもある。

こうした現実に、苦しむ人たちがいる。

家族の死に疑問を抱く遺族、被害者でありながら加害者として起訴された事故当事者――。事故の災難に加え、理不尽な賠償金支払いや社会的汚名と戦わなければならないのだ。

また、保険金目当ての偽装事故に巻き込まれ人生を狂わされる人たちも後を絶たない。

限られた物証を手掛かりに交通事故の謎を解明する

そんな人々の悲痛な思いに応えるプロフェッショナルたちがいる。フジテレビ系列で2月25日(日)夜7時57分から放送される「無念を晴らせ!密着!交通事故鑑定人」で取り上げる交通事故鑑定人だ。限られた物証を手掛かりに交通事故の謎を解明するプロフェッショナルである。

関西在住の史子さん(仮名)は母国語であるはずの日本語がカタコトしか話せない。発音は濁り、一言一言を苦しそうに発語する。愛する我が子を交通事故で亡くしたショックが原因だ。


人々の悲痛な思いに応える交通事故鑑定人(写真:フジテレビ提供)

子どもたちが幼い頃に離婚した史子さんは、女手ひとつで2人の息子を育ててきた。つましい暮らしだけど、笑いの絶えない仲の良い3人家族。史子さんを経済的に支えようと仕事を頑張る長男。家事の手伝いを決して欠かさない次男。「2人とも思いやりのある優しい人間に成長してくれた」史子さんは幸せをかみしめる日々だった。

そんな幸せが、ある日、一瞬にして奪われた。

その日の夕方、3人は久しぶりに外食を楽しもうと、自宅から少し離れた回転すし店へ向かった。

自転車で行こうとする史子さんと長男に、高校2年生の次男が手を合わせて懇願した。

「おかん、バイクで行ってもええ?」

母を心配させないようバイクに乗る時は必ず許可を仰ぐのが習慣だった。
この日、史子さんは、バイクに乗りたくてたまらないといった表情の次男に思わず、

「ええよ」

と言ったのだった。

交差点の中央には人が倒れていた

食後、店を出ると、小雨が降り始めていた。

次男は、史子さんと長男に笑顔で手を振ると、一足先に家へと向かった。その後、母と長男が自転車で走っていくと、交差点周辺に人だかりがしている。交差点の中央には人が倒れていた。


バイクを調べる交通事故鑑定人・熊谷宗徳。「無念を晴らせ!密着!交通事故鑑定人」(フジテレビ系列)は2月25日(日)夜7時57分から放送です(写真:フジテレビ提供)

「バイクがタクシーに衝突したらしい……」

そんな声が聞こえた瞬間、史子さんの目に見覚えのあるスニーカーが飛び込んできた。

「まさか?!」

史子さんと長男が駆け寄ると、それは紛れもない次男の変わり果てた姿だった。口から血を流してピクリとも動かない。

史子さんは必死に次男の名前を叫び続けた。次男は意識を回復しないまま5日後に死亡。

「私がバイクの運転を許さなかったら、あの子は死なずにすんだ……」

自分を責め続けた史子さんは、葬儀が終わった直後から話せなくなった。失語症だった。

そんな史子さんに思いもよらぬ苦悩が待ち受けていた。次男のバイクと衝突したタクシー運転手が不起訴になったのである。

警察によれば、

「原付バイクが急な右折をしたために、対向車線から直進してきたタクシーは避けることができなかった。事故は原付バイクの過失運転」というのだ。

「命を落とした次男が悪者で、命を奪ったタクシーの運転手は無罪放免?!」

理不尽な判断に史子さんは、煮えたぎるような怒りと悲しみにさいなまれた。

なぜなら、どう考えても解せない疑問があったからだ。

「あの交差点で息子は決して右折しないのに、なぜ右折をしたと言われるの?」

現場の交差点は交通量が多く、バイクの運転に慎重だった次男は、普段そこで右折をすることはなかった。

「息子は本当に右折行動に出たのだろうか?」「右折せざるを得ない事態に遭遇したのではないのか?」

事故の真相は不透明なまま

警察がまとめた実況見分調書は、驚くべき内容だった。

記載されている3人の目撃証言はことごとく食い違い、事故の真相は不透明なままなのだ。

「こんな曖昧な書類で、息子の死が片づけられたなんて!」

失語症のハンデを抱えながら必死に警察に事故の疑問を訴える史子さん。

「事故はなぜ起きた? 息子はなぜ右折しようとした?」

日に日に膨らむ疑問……史子さんと長男は解決方法を必死に探した。そして、交通事故鑑定人という存在を知る。「事故を調べ直してもらえる!」藁にもすがる思いだった。

依頼を受けた交通事故鑑定人・熊谷宗徳は千葉県警に24年間勤務、交通捜査官として2000件以上の交通事故捜査に携わってきた。

その信条は「人は嘘をつくが痕跡は嘘をつかない」という交通事故鑑定のエキスパート。実況見分調書を一読するなり、次男の右折行動の不自然さを指摘した。

「この事故には解明すべき謎が残されたままになっている」「原付1人が悪者にされている、まさに死人に口なしを警察官がつくっている!」

熊谷は憤った。

事故現場に何度も足を運び、遺留品のバイクやヘルメット、洋服やスニーカーの傷のひとつひとつが、どの時点でどうやってできたのかを丹念に調べていく。

それは、「死者の声なき声を聞く」地道で根気のいる作業の繰り返しだ。そして……矛盾に満ちた事故の輪郭が、少しずつ形をなしてきた。

「目撃者の証言にない『ある存在』が事故の原因かもしれない」

熊谷鑑定は、事故の真実にあと一歩のところまで迫っていた。

「白い車」の存在

一方、新たな目撃証言を得るため、日々、現場周辺でビラ配りを続ける史子さんと長男。ある日、初老の男性が長男に近寄ってきた。

「バイクの子は悪くないよ。白い車が急に右折してきて、そのまま走り去ったんだ」


傷のひとつひとつがどの時点でできたのかを丹念に調べていく。「無念を晴らせ!密着!交通事故鑑定人」(フジテレビ系列)は2月25日(日)夜7時57分から放送です(写真:フジテレビ提供)

「白い車」については、実況見分調書のどこにも書かれていないものだ。

「おかん! 白い車と事故の因果関係がわかれば、弟の右折の理由がわかるかもしれへんで!」

絶望の日々の中、突然飛び込んできた新証言……思わず抱き合って涙する史子さんと長男。

本当に、その「白い車」が存在し、この事故の原因をつくったとするとその車は被疑者となる。さらに、現場にとどまらず逃走し、通報も、救護活動も行わなかったとなると、ひき逃げの被疑者にもなる可能性がある。

鑑定人・熊谷は鑑定書にこう記した。

「バイクの運転手こそが本件事故で唯一の被害者である」と。

今年2月、書き上げられた鑑定書は母・史子さんのもとに届けられた。事故から2年、熊谷鑑定と新証言によって事故の真相の扉が開かれようとしている。なぜバイクは右折しようとしたのか? 事故の真実を求め、母・史子さん、鑑定書を新たな証拠として今後の再捜査を求めていく。