サイバーエージェントは昨年、仮想通貨事業の子会社を設立。今年中にも何らかのサービスを始める予定だ(撮影:今井康一)

波乱を含みながら盛り上がる仮想通貨市場。これまでは独立系の新興企業が中心だったが、直近では大手企業の参入も加速している。特に力を入れる1社が、サイバーエージェント(CA)だ。
同社は2017年10月、仮想通貨事業の子会社「サイバーエージェントビットコイン」を設立。今春にサービスを始める計画だ。代表を務める卜部(うらべ)宏樹氏は、CA本体で2014年末から約2年間、最年少取締役を務めたこともある。加えて、ネット放送局「AbemaTV(アベマTV)」の立ち上げで中核を担ってきた人物だ。エース級人材を投入した仮想通貨事業で、どんな成長戦略を描くのか。卜部氏を直撃した。
(インタビューは2月1日に実施)

仮想通貨交換業の登録はまだ先

――10月の会社設立から約5カ月が経ちましたが、事業の進捗は。

会社を設立した直後から仮想通貨交換業の登録申請を進めてきたが、コインチェックで580億円相当の仮想通貨が流出するという騒動があってから金融庁もバタバタのようで、まだ受理には至っていない。ただ、騒動の以前からたくさんの会社が登録を目指していたので、それなりに時間がかかりそうだということは当初から聞かされていた。

――今春開始予定のサービスはどんなものになりますか。


サイバーエージェントビットコインで代表を務める卜部宏樹氏(記者撮影)

自ら仮想通貨を販売する「販売所」をやるのか、ユーザー同士の取引の場を提供する「取引所」だけをやるのか、具体的なビジネスモデルはまだ話せないが、あらゆるパターンを考えている。あとは、手数料をもう少しユーザーが納得できる形で提供できないかと考えている。販売所の手数料が高いと言われているので、ここは下げられる可能性はある。

開始時期については、申請が受理されてから登録という形になり、受理から登録までにまた2カ月程度かかると聞いている。今はまだ受理もされていない段階なので、今すぐ受理されてもここから2カ月以上かかるのではないかと。

――新会社はどのような体制で運営していきますか?

仮想通貨取引所を運営するビットバンクのホワイトラベル(システムを借りて独自ブランド名で提供するサービス)として事業を展開していく。(ネットに接続した状態で仮想通貨を管理する)ホットウォレット、(ネットに接続されていない)コールドウォレットの管理など、セキュリティ面はある程度委託する形になる。

現時点で会社のメンバーは10人くらいだが、15〜20人にしたい。これとは別に、カスタマーサポートの体制をもっと厚くしたいと思っていて、今採用を進めている。

――ビットバンクを選んだ理由は?

セキュリティがしっかりしているというのがいちばん大きい。CAは上場企業なので、安心安全に使ってもらえる環境にするのは絶対条件。ビットバンクでは当然、すべての通貨をホットウォレットとコールドウォレットに分けて管理をしているし、マルチシグ(秘密鍵を分散して管理する仕組み)の対応も適切に行っている。

ただ今回の(コインチェックの)件もあり、セキュリティについてはさらに意識を高めている。ビットバンクを疑っているわけではないが、上場企業と非上場企業が組んでいるので、立場や考え方の違いはある。自分たちの目でもチェックする外部委託先の管理体制を厳格に作っていく。


コインチェックの仮想通貨流出騒動は、セキュリティの重要性を浮き彫りにした(編集部撮影)

たとえば、マルチシグは3つの鍵のうち2つで開けられるという仕組みだが、その3つが同じ場所に管理されていてはあまり意味がない。そういう運用面が僕らの考えるセキュリティレベルに達しているかも見なければならない。単に「マルチシグに対応しているから絶対安全」「自社専用のプライベートネットワークだから大丈夫」というのではなく、運用面も含む全体感で評価していく。

今回、ビットバンクのサービスを管理するチームには、CA本体ですべてのセキュリティ体制を監査してきた人間も入っている。互いの強みを生かした形で安全性を担保していきたい。

大手であるサイバーが参入した理由

――現状、ビットフライヤー、コインチェックという仮想通貨取引所の上位2社にユーザーが集中していますが、このタイミングでCAという大企業が入っていく意味は。

仮想通貨市場は去年の頭から盛り上がってきて、今後も一定の規模を保っていくはず。既存プレーヤーも、新規参入組も、それぞれの特徴を打ち出しつつ、皆で市場全体を盛り上げていける時期だと思っている。

CAグループとしていろいろな事業を運営する中では、各部門から(仮想通貨やブロックチェーンを活用する案が)アイデアベースで出てきていた。これからさらにいろいろな技術が出てくるのであれば、仮想通貨を軸にしたウォレットのサービスをグループ内に持っておくことには大きな意味がある。

加えて、昨年4月の改正資金決済法施行で国が法体系を整備し、「(仮想通貨取引を)認めていくんだ」という方針を示したことも背中を押した。上場会社としては、お墨付きがない状態で参入するわけにはいかないので。また、ビットバンクというパートナーに出会えたことも大きかった。参入ありきで相手を探したわけではなく、CAが出資しているセレス(仮想通貨関連企業)経由で紹介され、彼らとなら一緒にやっていけるということになった。

――2012年にFX事業をヤフーに売却して以来、CAとしては一般消費者向けの金融サービスには大きなブランクがあります。

確かにそうだが、そもそもFXとはまた違った性格の市場になっていく感じがする。ユーザーの感覚が違う。うちの内定者の中にも、バイトで貯めたおカネを全部仮想通貨に突っ込んでみました、みたいな人がゴロゴロいる。しかも(投資対象が)ビットコインみたいにメジャーなコインではないものだったりして。これはソーシャルゲームとも違う、新しい感じがする。

社内の熱気も目を見張るものがある。外部講師を招いたブロックチェーン勉強会を社員向けに開くと、100人枠に300人とか、ものすごい数の応募がある。開発部門からも、ビジネス部門からも、ほぼすべての職種の社員が来る。こんなことは珍しい。それだけ全社的な関心事になっている。

コインチェックの騒動においても、ブロックチェーンそのものが破られたというわけではない。 ブロックチェーンの本来の思想というか、実現したい世界は、たとえば交通系ICカードみたいにどこでも簡単に支払えるとか、芸能人を応援するため、ゲームのトレーディングカードを買うために使えるとか、そういう世界だ。今はまだ価格が上がった、下がったという投機的な側面だけが目立っているが、3年、5年と腰を据えてやっていけば変わるはずだ。

仮想通貨で「エンタメ×金融」も実現できる

――IT業界では楽天やLINEなどが、自社のウォレットやクレジットカードを中心にした“経済圏”を広げています。CAはどちらかというと、各サービス間の連携やシナジーがあまりないように見えますが、仮想通貨事業をきっかけに変わっていくのでしょうか?

そういうシナジーを生む可能性を秘めているのは間違いない。もちろん、各サービスがそれぞれにレベルの高いものを作っていくのは大前提。そのうえでウォレットがあることによって、「エンタメ×金融」みたいなサービスの拡大に向けて動き出す可能性があると思う。


卜部宏樹(うらべ ひろき)/2010年サイバーエージェント入社。新入社員で株式会社アプリボットの設立に携わり、2011年2月社長就任。2014年4月にCA執行役員、同年12月にCA取締役就任。2015年4月からAbemaTVの立ち上げに従事。2017年10月から現職

――アベマTVやゲーム事業とも相性がよさそうです。

決済手段としての可能性は十分ある。そのためには今後グーグル、アップルといったアプリプラットフォーマーとも話を進め、どこまで可能かを探っていきたい。

――まずはスタート地点となる取引事業で、ユーザーに刺さるサービスを作らなければなりません。

マジョリティにリーチすることを目指している。今、仮想通貨を買っているのは男性が多い印象だが、女性にも広く使ってもらいたい。うちはグループ内に評価されているアプリがたくさんある。まさに今、アベマや(音楽ストリーミングの)AWAといったサービスを作ってきたエンジニアに異動してもらって、UI(ユーザーインターフェース)を作り込んでいるところ。藤田(晋・CA社長)にも「そこは絶対に外すなよ」とプレッシャーをかけられている(笑)。

――藤田社長から仮想通貨事業をやってくれと言われたのは、いつ頃?

昨年の9月中旬で、会社設立の2週間前とか(笑)。それまではアベマの取締役だったが、今は離れた。自分自身、去年の頭くらいからビットコインを持っていて、この領域に面白みを感じていた。CAの中で意味の大きい、グループ全体で勝っていくべき事業だと思っている。一方で、ほかと比べものにならないくらい、継続性に対する責任が重い事業だ。業績が悪くなったら撤退、みたいなことは考えられない。腰を据えてやっていく。

――アベマTVにもう少し携わりたかったという気持ちは?

なくはないが、新しいことをやるのが自分の仕事だと思っている。アベマはかなり人員も増えてきて、層も厚くなってきた。もうすぐ2周年で、番組作りの知見も着実に貯まってきたと思っている。