食品の遺伝子組換え表示が大きく見直される見込みだ。


 消費者庁で行われている遺伝子組換え表示検討が大詰めを迎えている。1月31日に実施された第8回検討会では報告書のたたき台が、また2月16日の第9回には素案が提示された。現行の遺伝子組換え食品の義務表示制度は2001年4月に施行されたので、17年ぶりの大きな見直しである。

 今回、検討されている見直しの論点や背景を伝えるとともに、見通しを示したい。

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現行では「使用」「不分別」「不使用」

 食品の表示は消費者にとって「分かりやすい」ことが最重要であり、限られたスペースで、安全に関わる情報と商品選択に役立つ情報の2つを提供する役割がある。安全情報には消費期限、保存方法、アレルギー関連情報が該当する。一方、2017年に見直された原料原産地や、今回の見直し対象である遺伝子組換えなどは、安全性には関係なく、消費者の商品選択に資するものである。

 現在、行われている遺伝子組換え作物・食品の表示には、義務表示である「使用」と「不分別」、任意表示である「不使用」がある。「不分別」とは、遺伝子組換えでない原料の分別流通管理をしていないので、遺伝子組換え原料が含まれる可能性があることを意味する。また、意図しない混入率(分別流通管理を行っても遺伝子組換え原料が混ざってしまうこと)が総重量の5パーセント以下であれば、「不使用」と表示できる(下の表)。

現行の表示区分制度。を参考に作成。


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52404)

見直しの背景に「遺伝子組換えでない」原料の調達困難も

 今回の検討に臨み、消費者団体は少しでも多くの情報を表示してほしいと主張し、事業者はコストなどを鑑みて実行可能性を配慮してほしいと主張してきた。主な論点は、消費者団体側から見て、以下のとおり。

(1)義務表示の対象となる食品を増やしてほしい。
(2)意図しない混入率を5パーセントより引き下げてほしい。

 では、見直し検討の背景はどういったものか。

 まず、遺伝子組換えでない原料の調達が難しくなってきたことがある*1。表示が開始された2001年には5260万ヘクタールだった世界の遺伝子組換え作物(トウモロコシ、ダイズ、ナタネ、ワタなど)の栽培面積は、2016年には1億8510万ヘクタールと約3.5倍になった。

 それに、遺伝子組換えのチェック機能が高まったこともある。検知技術が向上して、組み込まれたDNAとそのDNAによって作られるタンパク質を最終製品においてチェックできる機能が高まったのだ。

*1:「ISAAA Brief 52: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2016」をもとにバイテク情報普及会とりまとめ(https://cbijapan.com/about_use/cultivation_situation/)

現状ではすでに遺伝子組換え作物に支えられている

 食品表示法に違反すると罰則がある。そこで、最終製品において遺伝子を組み換えた事実が科学的に検証できるものが、義務表示の対象となっている。下の表は義務表示の対象品目と食品群だ。

 これを見ると、製造過程で導入されたDNAなどが取り除かれたり、分解したりする食用油(とうもろこし、大豆、菜種、綿)やしょうゆ、とうもろこしデンプンからつくる甘み成分などは、最も利用されているのに表示対象外で消費者は利用の実態に気づきにくい。また、日本で最も多く消費されている遺伝子組換え作物は家畜の飼料であり、これも消費者には見えない。

表示義務の対象となっている8作物、33食品群(消費者庁「」を参照に作成)


 実際の食卓は遺伝子組換え作物・食品に支えられていながら、この事実を食品の表示を通じて目にすることがないのが、われわれの食生活である。グラフにあるように、輸入のとうもろこしや大豆の大半は遺伝子組換え品種で占められている。さらに加工食品の場合、総重量の4位以降で、含有量が5パーセント以下の原料も表示対象外となっている。

日本の年間穀物輸入量と遺伝子組換え作物の 比率の試算および日本のコメの生産量(くらしとバイオプラザ21「」p7をもとに作成)


義務表示対象食品の拡大の可能性は低そう

 報告書素案を見たところ、「義務表示対象食品の拡大」はないようだ。

 分析技術の向上により、コーンフレークでは最終製品での検知が可能になり、メーカーのヒアリングでも義務表示への対応は可能とのことではあった。

 しかし、「サンプリングの揺れ」が影響するという理由で、義務表示対象食品枠は拡大されないようだ。サンプリングの揺れとは、たとえば、1万トンのトウモロコシには285億万粒が含まれるが、そのうち100粒を現地で調べたときの混入率が5パーセント以下であっても、日本で調べたときに別の100粒を調べたら同じ結果が出ない可能性があるということを指している。基準値が低くなるとサンプリングの揺れの影響は大きくなると考えられる。検出技術が向上してもサンプリングの揺れの問題は解決しない。

5パーセント以下の混入に「分別」の提案も

 また「遺伝子組換えでない」表示について事務局から新しい提案があった。5パーセント以下の混入に対しては「分別(遺伝子組換えでない原料を分別流通管理した)」とし、「αパーセント」以下のものだけに「遺伝子組換えでない」と表示できることにするというものだ(αは別途設定する許容率)。ただし、これらは任意表示とするという。任意表示であるので、間違えて表示しても罰せられることはない。

 5パーセント混入していても「遺伝子組換えでない」と表示すると、まったく含まれていないと誤認を招く。欧州連合(EU)の閾値(=α)は0.9パーセントであり、日本の「遺伝子組換えでない」表示の基準は世界のそれからもずれている。そこで、消費者団体だけでなく、研究者からもαを「ゼロ(検出限界以下)」とする意見が出てきた。

「遺伝子組換えでない」表示についての新しい提案。を参考に作成。


 しかし、産業界などからは、17年間違反なくこの表示制度が守れたのは、閾値が5パーセントという実現可能な値であるためだという声も上がった。5パーセントルールのもと、分別流通管理のためにコストをかけている事業者は、少しでも混入率の少ない食品を消費者に届けることができたのだという意見も出た。

 食品メーカーにとって、栄養成分表示、原料原産地表示、今回の遺伝子組換え表示と毎年、表示の仕方が変わることへの対応の負担は、猶予期間があっても小さいものではない。ゼロという厳しい基準になったら、中小の豆腐屋さんや煮豆を扱う惣菜屋さんは対応できるだろうか。世界中から原料を調達して安定供給を実現している大企業にとっても負担であることは違いない。

 検討会では「遺伝子組換えでない表示がなくなり、不分別表示だらけになるのは消費者に利益をもたらすのか」「遺伝子組換えでないという表示を選んでいた消費者は、分別・不分別という新しい表示方法に混乱するのではないか」「だれもがいつでもどこでも、同じ結果が得られるような検出方法はあるのだろうか。どうやってその方法を決めるのか」「高くてもゼロを目指すケースと不分別ばかりになったら、少しでも遺伝子組換えが少ないものを安く買いたいという消費者の要望に応えられない」などの意見が出た。

 一方、消費者団体から「遺伝子組換えでないという表示のせいで、(5パーセント未満の範囲で)遺伝子組換え作物が使われている実態が伝わらなかった」「分別流通管理をしている事業者の努力を評価する。努力が消費者に伝わる表示制度がいい」「消費者団体も分別の意味を勉強していきたい」などの発言があった。

 次回の検討会は3月14日だ。この検討委員会は年度内でとりまとめを行うことが、発足時から決まっている。

2月16日に実施された第9回遺伝子組換え表示制度に関する検討会の様子。(筆者撮影)


「0パーセント」をめぐる動向などを注視

 17年前、遺伝子組換え食品の表示が始まったとき、制度設計を担当した人たちは「不分別」表示食品が多く出回ると予想した。しかし、大手メーカーは分別流通管理にコストをかけて「遺伝子組換えでない」表示をする戦略を選んだ。現在では、生活協同組合(COOP)やイオンが不分別表示をしたプライベートブランド製品を多く販売し、安くて売り上げもよい。

 もし、αが0(パーセント)となったら、たしかに表示は実態に近くなるが、それは消費者が求める情報を提供する表示なのだろうか。多くの消費者に「不分別」の意味が理解されていない中で、「分別」という言葉は適切な表現なのだろうか。事業者はゼロの原料を求めていくのだろうか。

 事業者と消費者の対応への「予測」の上に行われる検討の行方を注視していきたい。

筆者:佐々 義子