女同士の闘いなんて、くだらない?

美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。

男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。

己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。

くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。

優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。

真面目な会計士のあおいは、女性ファッション誌『GLORY』の読者モデルとなり、なぜか景子を始めとするカリスマ読者モデル達に気に入られる。

食事会で出会った男性とデートしたり、インフルエンサーとしての地位を確立するなど、次第に華やかな世界に馴染んでいった。




カリスマ読者モデルの景子達と一緒に行動することが多くなるにつれ、あおいは自分の性格が次第に変化してゆくのをハッキリと感じていた。

読者モデルという世界に飛び込んで暫くは、地味で仕事だけしている自分と華やかな世界とは完璧にオンとオフのスイッチで切り替えられていた。

しかし、「フォロワーが1万以上いるインフルエンサー」というアイデンティティは、思った以上にあおいの日常生活や性格に大きな影響を与えている。

真面目で引っ込み思案だったのに、今や不特定多数の大衆に平気で自分の姿を晒すようになった。努力家な面だけでなく、容姿やセンスを認められる喜びに思った以上に夢中になっている。

少し前まではインスタに寄せられる悪意あるコメントにも本気で傷ついていたのに、景子に感化されそうした雑音への耐性もついた。

そして不思議なことに、あおいは25年間慣れ親しんだ性格ではなく、今の強気な性格をより「本来の自分」だと感じている。

そんなことを考えていると、編集部から電話が入った。

「GLORY編集部の大沢です。ちょっと折り入ってお話がしたくて、ご連絡いたしました。」

普段はあまり接点のない副編集長からの着信に戸惑ったが、結局ランチをしながら話をすることになった。


編集部からの、連絡の内容とは?


インフルエンサーとしての最高の名誉


神楽坂の『ルグドゥノム ブション リヨネ』に呼び出されたあおいは、副編集長が来るまでの間にも、せっせとInstagramの更新に勤しんでいた。




もともと受験や資格取得の勉強などで培った、努力と根性には自信がある。「これ」と決めた目標に向かってコツコツ邁進するのは苦ではない。

そのうちに、副編集長の大沢が現れた。感情を表に出さず、論理的に喋りすぎる大沢のことを苦手だという読者モデルも多いが、あおいは彼女の分かりやすい人柄に好感を持っていた。

「単刀直入に言います。木下さんが、今度発売予定のスタイルブック出版企画の候補になりました。」

ランチコースの前菜である、リヨン風ソーセージのバーガーを持つ手が、思わず止まる。

「GLORYのムック本シリーズ、ご存知ですよね。新成人向けの振袖とか、ヘアアレンジに特化したりして年に数冊発行されるGLORYの別冊企画なのですが、現在までに6冊発行していて、売上もかなり良いんです。

それで今回、編集部で読者モデルの方の私生活や美容・ファッションの秘訣に迫るスタイルブックの発売企画が出たのですが、私は木下さんを候補に推薦させて頂きました。」

フォロワーが1万人を超えてから、いつかは私も…と意識していたスタイルブックの発売の話に、思わず胸が高鳴る。

「ですが、もちろん他にも候補の方がいらっしゃいます。」

大沢は、フォロワーが11.5万人いる景子、5万人いるリナ、そして3万人いる珠緒も候補であることを教えてくれた。誰のスタイルブックが出版されるかは、あおいも含めた4名の本誌での人気や、それぞれのインスタのフォロワー数を加味して決めるらしい。

しかし、フォロワー数が大事であれば1万人をようやく達成したようなあおいに勝ち目はない。ぬか喜びをした自分を恥じた。

明らかにヤル気をなくした表情をするあおいを見て、大沢は強い口調で言い放つ。

「フォロワー数は少ないですが、木下さんは本誌での注目度やインスタでの成長率が群を抜いて高いんです。早稲田卒で会計士の読者モデルさんということで、出版する時もかなり個性が出せますし…。ですから、G3の皆さんと並んで候補に推させていただいたんです。」

大沢の真剣な様子に、あおいも思わず引き込まれていた。


憧れていた相手と、ついに同じ土俵に立ったあおい


女の闘争心に火をつけるものとは


「え?じゃあ、あおいも出版企画の候補なのね!」

ザ・ペニンシュラ東京の『ザ・ロビー』で、珠緒とあおいはスタイルブック企画の話で盛り上がっていた。




景子は急なデート、リナは風邪を引いたということで、今日は2人きりでお茶をしている。優しい雰囲気の珠緒は、威圧的な感じがなくG3の中でも特に話しやすい。

スタイルブックの出版にはフォロワー数と本誌での人気が大事だという副編集長から聞いた話をすると、珠緒が身を乗り出した。

「ここだけの話、景子ってかなりの数のフォロワーを買ってるのよ。」

「えっ?」

「読モの間じゃ、有名な話よ。フォロワーを増やすアプリ使ってるのバレバレだし。」

フォロワーを購入できるらしいことは知っていたが、まさかあの景子がそんなことをしているとは思わなかった。珠緒によると、読モやインフルエンサーの殆どが普通にやっていることだという。

「でも、景子はやり過ぎよね。フォロワーが11.5万人もいるのに“いいね!”が1,500程度なんだもの。コメントもまばらだし、5万は水増ししてるんじゃない。」

珠緒はわざわざ景子のインスタ画面を開き、

『いいねの数÷フォロワー数×100=いいね率(%)』

が計算できることを教えてくれた。

平均の“いいね率”はだいたい3〜5%くらいだそうで、2%を切るインフルエンサーは相当人気とセンスがないか、もしくはフォロワーを買っている可能性が高いという。

「それにね、これ見て」

さらに珠緒は、美しいネイルが施された人差し指をスッとスライドする。

「この画面見ると、景子が定期的にいろんな写真に“いいね”したり、他人のアカウントにフォローを繰り返してるのが分かるでしょ。これもアプリの自動機能なのよ」

普段はおっとりしていてる珠緒の過激な発言に、あおいは困惑を隠せない。

「それに景子の彼氏って、結婚に前向きじゃないみたいでかなり焦ってるみたいなの。だから、あおいを気に入った斎藤さんのことも、未練がましくキープしようとしたのよ。」

明らかに景子に対する敵意を感じる発言が続く。あおいの怪訝そうな表情に気がついたのだろうか。珠緒は、意地の悪い笑みを浮かべた。

「景子ね、斎藤さんがあおいを食事に誘ったって知ったときも凄かったのよ。それで斎藤さんに色々LINEを送ってたみたいだけど、自分に脈がないとわかると、あんな子のどこがいいのか本気で分からないって、すごい剣幕だったの。

本当に景子って、自分が一番じゃないと気が済まない女なのよね。」

ザ・ペニンシュラ東京の特製だというブレンドティーを満足気に飲み干す珠緒を眺める。ピアノの生演奏が生み出す心地良さに一瞬逃避した後、あおいは今の自分の状況を客観的に理解した。

目の前で自分の味方のように喋る珠緒も、陰で自分の悪口を言っている景子も、誰もが自分の友人ではなく、敵だということだ。

そして、その敵に「負けたくない」という熱い思いがこみ上げてきたのもハッキリと自覚したのだった。

▶NEXT:3月2日金曜更新予定
ついに景子に立ち向かうあおい。訪れる試練とは...?!