佐川宣寿氏(写真:日刊現代/アフロ)

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 16日に確定申告の受け付けが始まって以降、佐川宣寿・国税庁長官の罷免を求めるデモ隊が国税庁・財務省の入る庁舎、各地の国税局に押しかけ、罷免を求める署名もすでに2万人集まっているという。一官僚に対してこれほど批判が集中するのは、極めて異例な事態だ。

 森友学園に国有地が破格の値段で売却された問題で、当時財務省理財局長だった佐川氏が「記録は速やかに廃棄した」と答弁をしたが、今年に入り財務省と森友側との膨大な交渉記録が残っていたことが発覚し、野党や国民から佐川氏に対する批判が一気に吹き出していた。

 野党は国会で佐川氏の証人喚問を求めているが、与党は拒否の姿勢を貫いており、再び森友問題が政局の重要マターとなっている。果たして今後の政局はどう動くのか――。

●政局流動化の可能性も

 一部報道によれば、税務調査の現場などでは税務署職員に対する納税者からの風当たりが厳しくなっているというが、政治ジャーナリストの朝霞唯夫氏はいう。

「安倍晋三首相は世論の沈静化によるタイムアップ(時間切れ)を狙っています。当初、逃げ切れるだろうという読みはありましたが、先週末の世論調査でも佐川長官を証人喚問すべきとの声が高く、デモも収まらないなかで、仮に佐川長官を証人喚問して、もし森友問題に関してなんらかの裏事情が明るみに出れば、一気に政局は流動化します。証人喚問に関する与野党の攻防は、3月に山場を迎えるとみられています」(朝霞氏)

 確定申告ではたった1枚の領収書で、経費として認められるかの判断が決まる。佐川長官への不満は個人事業主だけではなく、むしろ高齢の低所得者層からの声が高いという。

「佐川長官になったからといって直接、個人事業主の税金が高くなったわけではありません。むしろ、高齢の低所得者層の方が不満をぶつけるケースが多いようです。この方々は税金に非常に高い関心をお持ちだからです」(国会議員秘書)

 今はちょうどマスコミ報道は、平昌五輪一色。安倍首相も浮かれており、そうした国民の声が耳に入らないようだ。

「金メダルを獲得した羽生結弦や小平奈緒への国民栄誉賞授与の話もあり、安倍首相も麻生太郎財務相も逃げおおせようと考えているようですが、国民の声を一切無視し、木で鼻をくくった答弁を続けていることが異常です。自民党も“長いものには巻かれろ”という議員が多く、反安倍を鮮明にすると干されることを恐れているのです」(朝霞氏)

「自民党内には『安倍さんのやり方はまずいよね』という声もありますが、一方、安倍首相が佐川長官をかばうので各議員も仕方がないと沈黙しています。野党は日本維新の会など一部を除き、佐川長官の罷免を求めています。まず手始めに、佐川長官の証人喚問を求めていますが、自民党サイドは最後まで抵抗するでしょう」(国会議員秘書)

●「なぜ佐川氏が国税庁長官なのか」

 森友問題では、そもそも最初から資料を隠すというのは、首相官邸と佐川長官周辺の少数で決めたことで、財務省全体の意思ではなかったとの指摘もある。

「今回、破棄したとしていた資料が出てきたのは、課長レベルの判断とは思えず、財務省のもっと上層部の判断だろうといわれています。つまり、“財務省や国税庁が隠蔽体質を持つ役所である”と思われては迷惑だという判断があったのでしょう。『財務省をなめるなよ』という思いもあったでしょう。どの省庁にしても“国を支えているのは官僚である”という自負を持っています。そもそも財務省内には『ほかに優秀な官僚が多いのに、なんで安倍首相に好かれる佐川が国税庁長官なのか』という声もあります」(朝霞氏)

「財務省も本来このような隠蔽は苦々しく思っており、公僕だから仕方がなく官邸に従っているだけです。佐川長官はダメだという声があっても、安倍首相にかわいがられているため、佐川長官は罷免されないでしょう。今はどこの役所もそうですが、官邸の顔色をうかがい、忖度する官僚が出世しています」(国会議員秘書)

 官僚人事は事務次官、官房長、人事課長らの差配により、出身大学や年次などで決まることが通例であったが、今や官邸主導の人事により、安倍首相の覚えがめでたい人が出世するケースが増えた。

「政治主導の官僚人事は一理あります。ただ、今のようにあからさまな官邸主導で勝手に人事を行なうことに違和感があります。政治の側に常識が通じれば悪くはありませんが、悪い方向に進んでいます。以前の人事制度にも問題はあったので、査定を透明化し、素案を各省庁が作成し、官邸や内閣府とすりあわせを行うなど落としどころが必要です」(朝霞氏)

●カギは国民の声

 そうした政治や役所の振る舞いをチェックする立場にあるはずのマスコミにも問題があると、朝霞氏は指摘する。

「若い番記者は資料提供などで官僚に首根っこを押さえられています。官僚を批判するのは簡単ですが、次に官僚も報復のため記者に資料を渡さず、その記者が特オチして上司から怒られることになります。これは新聞社やテレビ局などの報道局長の意識が変わらないと、どうにもなりません。記事を1〜2本落としてもいいから、権力をチェックする姿勢にならないと現場の志気は下がります。安倍首相と嬉々として会食し、マスコミOB評論家が権力の太鼓持ちしている現状では、あまり期待できません。若い記者が正義感を持って取材できる環境を整えるべきです。今のマスコミは権力に媚びすぎています」

 では今後、佐川長官の問題はどのように展開するのか。

「安倍首相は落ち着くまで静観する構えです。予算案も数の論理で押し通すことでしょう。そもそも今の国会は与野党で議席数が違いすぎ、勝負になっていない。そこでカギになるのが国民の声です」(国会議員秘書)

 平昌五輪後、マスコミや国民の目は再度、国会に向けられる。その時、安倍首相や自民党が佐川長官の証人喚問要求に対してどう向き合うかがカギとなる。場合によっては政局も流動化し、政権基盤も危うくなる可能性も秘めている。
(構成=長井雄一朗/ライター)