【日本人特集コラム】全豪で見せた急成長。開花も間近か(大坂なおみ)

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 潜在能力とは、大坂なおみのような選手のためにある言葉だろう。多くの専門家が女王セレナ・ウィリアムズ(アメリカ)になぞらえて大坂に期待した。今季のブレークを予言したのはレジェンドの一人、クリス・エバートさんだった。グラウンドストロークの威力と、ファーストサーブの迫力はすでにトップクラスと遜色ない。

 ただ、テニスでは、心技体すべてをバランス良く伸ばし、習得すべき戦術をすべて学んだ選手だけがトップの仲間入りを許される。選手の伸び盛りは20歳前後だから、とりわけ心、メンタル面でのブレのなさ、その成熟度が結果を左右することが多い。その意味で、昨年までの大坂は、高い潜在能力を持ちながら、まだまだ発展途上の選手だった。

 2016年の全豪オープンで18歳にして四大大会デビュー。いきなり3回戦進出を果たすと、全仏と全米でも3回戦に進出する。この年の東レ パン・パシフィックではツアー大会初の決勝に進出した(カロライン・ウォズニアッキに敗れる)。ただ、当時の大坂は、未熟な部分をそのまま残し、圧倒的なスピードとパワーだけで勝っていたのかもしれない。

 心技体のバランスの悪さがあらわれたのが17年のシーズンだった。
 ウィンブルドンの1回戦では、最後は勝ったが、アンフォーストエラーを連発してフラストレーションをため、コートを囲むフェンスに隠れて目尻の涙を拭う場面があった。日本語の「頑張れ」の声が聞こえてくると、太ももを叩いて自分を励まし、なんとか最後まで戦い抜いた。

 無心で上位に挑めるときはいいプレーをするが、勝たなくてはいけない相手に苦戦することがあった。そうして、ネガティブな感情に支配され、自分を失う場面が時々あった。いかにポジティブに試合を進めるか。自分自身への期待をどう処理するか。難しい課題が突きつけられた。

 昨年のシーズンオフの取材で大坂はこんな話をした。
「プレッシャーやフラストレーションで、うまくいかないこともありますが、その都度、イライラとの戦い方、その抑え方を学んでいるところです」

 WOWOWが行ったインタビューでは、「選手にとって成熟するとは?」の問いにこう答えた。
「どんな状況でも動揺したりせず、自分がどうすべきか知っていることだと思います」
 課題を自覚し、それと取っ組み合いの格闘をして、もがいていたのが昨年の大坂だった。

 その格闘が、この1月の全豪で実を結んだ。なかでもシード選手のアシュリー・バーティ(オーストラリア)に挑んだ3回戦は圧巻だった。ミスで失点しても、動揺を見せない。相手の好ショットを拍手の仕草で称える場面もあった。そうやって、次のポイントに、自分のやるべきプレーに集中した。

 試合を振り返る記者会見で、こんな言葉が聞かれた。
「去年は1年間のすべてが(ポジティブでいるための)トレーニングでした。それがしっかり行えたので、今年は少し変われると思います。成長できていたなら、うれしいです」
 試合で涙を流し、力を出せずに悔しい思いをするたびに、そこから学んだ、成長するためのトレーニングをしっかりこなしてきた、そんな自負があったのだろう。

 4回戦で第1シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)に完敗したが、ここでもネガティブな感情をあらわすことはなかった。試合後、大坂は「彼女(ハレプ)のプレーが素晴らしかったし、私も悪くなかったと思います。なんとかいい試合になるように力を尽くしたし、ゲーム内容の進歩には満足しています。少しもネガティブになる必要はないと思っています」と振り返った。
 ハレプも20歳の対戦相手の成長を感じたようだ。

「彼女は落ち着いて見える。これは選手にとってとても大事なこと」「彼女はポジティブだった。私がリードしているときでさえ、そうだった」とその試合態度を称えた。

 心技体の成熟のいびつさは、みるみる解消されてきたと見ていい。課題を解決し、大坂は女子テニスの頂点へと続く階段を一歩上った。

(秋山英宏)

※写真は2018年「全豪オープン」での大坂なおみ(Photo by Pat Scala/Getty Images)