2012年から毎年、独立系エージェンシーのOMDは、テキサス州オースティンで人気のバーベキュー施設を占領し、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で毎年恒例の「ブートストラップ・バーベキュー(Bootstrap Barbecue)」を主催してきた。約100社の顧客を歓待し、そこに参加していなければ会うことがないであろう将来有望な新興企業に紹介していた。OMDとその顧客が、潜在的なビジネスの機会を求めると同時に、楽しめるひとときとして1年中待ち望むイベントだった。

だが、もう違う。今年のSXSWでは、ブートストラップ・バーベキューなどのイベントや顧客向けの活動は行わない。顧客や新興企業と結びつき、従業員を教育するOMDの取り組みにとって、SXSWはもはや重要ではないからだ。それに、SXSWは以前ほどクールなイベントではなくなった。

「組織化しはじめてしまった。SXSWの目的は常に、『人々』対『こうした組織的存在』だった」とOMDのデジタル&イノベーション担当最高責任者、ダグ・ローゼン氏は語った。

熱が冷めたクライアント



SXSWは長年、エージェンシーにとって確かな1年の区切りで、技術と創造性、酒、バーベキューが混じり合った、気持ちが浮き立つイベントだった。だが、無意味な活動を精査する動きがかつてないほど高まっており、フランスの大手広告企業ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)は昨夏、受賞式や有名イベントから手を引き、AIプラットフォーム「マルセル(Marcel)」の開発に時間と金を注ぐと発表。OMDなどエージェンシー数社は、来月開幕するSXSWのイベントから手を引くと述べている。メディアコム(MediaCom)、EP+Co、サピエント・レイザーフィッシュ(SapientRazorfish)、ケトル(Kettle)といった、ほかのエージェンシーは、以前のような形では参加しなかったり、送り込む人間を減らしたりしている。

「私の考えでは、SXSWは約4、5年前に落ち目になりはじめた」と、サピエント・レイザーフィッシュのコマース&コンテンツ担当シニアバイスプレジデント、ジェイソン・ゴールドバーグ氏はいう。

エージェンシーの情熱が冷めた大きな理由のひとつは、顧客自体がSXSWにそれほど執着していないことにある。OMDによると、通常参加する顧客100社のうち、参加するのは3分の1にとどまるという。 音楽ストリーミングサービスのSpotify(スポティファイ)は、大規模なパーティーを控えてきたし、靴メーカーのVans(ヴァンズ)も、今年は手を引こうとしている。

ほかにもイベントが多い



参加しない大きな理由は、顧客には参加すべき新たなカンファレンスやイベントがほかにたくさんあるからだ、と複数のエージェンシーが述べている。要するに、3月は移動で忙しい時期になっており、顧客が広範囲に散らばっているわけだ。SXSWは、Adobe SummitやShoptalk、IBM Think、SAPのSapphire Nowのようなカンファレンスと開催日が近いと、ゴールドバーグ氏は指摘する。

ゴールドバーグ氏によると、エージェンシーがサピエント・レイザーフィッシュだけだった2013年には、60人から成るコマースチームのうち約10人をSXSWに派遣したという。その数は数年後には1人にまで減らされたが、今年ははじめて、誰も派遣しない。

「3月は、コマース業者にとってイベントで忙しい月だ。それに、SXSWは、市場の多様な部門にアピールしようとしている幅広いイベントなので、予定に入れ続ける価値はなくなった」と、ゴールドバーグ氏はいう。OMDも、参加者が増えているCESのような、ほかのカンファレンスにリソースをシフトしている、とローゼン氏は語る。

無秩序に肥大化しすぎた



時期以外で、エージェンシーが今年、顧客であるブランドを参加させない大きな理由は、金だ。SXSWは多額の費用が掛かるようになった。推定42万2000人がオースティンに押し寄せるため、ホテルや地元の住民が、好機を逃すまいと料金を引き上げているからだ。

「コスト管理の観点からもっとも問題なのは、宿泊施設だ」とローゼン氏はいう。同エージェンシーはこれまで、男性用施設と女性用施設を用意してきたが、今年は、部屋数がはるかに少ないひとつの施設しかなく、正確な数字はまだ確定していない。同氏によると、オースティンから離れたホテルの部屋なら300〜400ドル(約3.2万〜4.3万円)で泊まれるが、市内のホテルの部屋だと1泊1000ドル(約11万円)を超えるという。「それに、ニューヨークの快適なホテルの部屋とは異なる」と、同氏は付け加えた。

SXSWがエージェンシーのホットスポットになったのは、たまたまだった。もともと音楽フェスティバルであるSXSWの「双方向」イベントが、新興企業に人気の場所として知られるようになった。Twitterは2007年にSXSWで世に出たことは有名で、位置情報SNSアプリの開発を手がけるFoursquare(フォースクウェア)も2009年にそれに続いた。すぐに、新興企業の輝きが自社に影響を与えることを期待して、Ford(フォード)やアメリカン・エキスプレス(American Express)、オレオ(Oreo)のような有名ブランドが、オースティン詣でを行うようになった。そして、顧客が行くところにエージェンシーがついて行く。だが、多くのイベントと同様に、SXSWはすぐに無秩序に肥大化した。

「SXSWの問題は、ビッグイベントになりすぎて、非常に注目されにくい点だ。だから、エージェンシーが活動を行う場合には、ポイントを突く必要がある」。広告世界最大手WPPの傘下にあるエージェンシー、ミルム(Mirum)で最高マーケティング責任者(CMO)を務めるジョン・ベイカー氏は、こう語る。

人が多すぎることも原因



メディアコムが今年、誰も派遣しないのは、顧客が人混みのなかで迷子になり、セッション全体に参加できないからだ。「人が多すぎる。並んで待つのと、予約の取りすぎのせいで、素晴らしいセッションを見逃すことが多い」と、同社のマネージングディレクターであるジェフリー・ヒンツ氏はいう。

大々的なイベントや活動を主催する代わりに、エージェンシーは現在、顧客とのもっと規模が小さい1対1の会合に方向転換しつつあり、騒がしいコンベンションセンターの外で会合が開かれることもある。

「イベントの規模がこれほど大きくなると、ブランドは、Googleのようにフル装備の施設の建設に全力投球するか、撤退してディナーや1対1の会合、単純なエンターテインメントを行うかだ。後者なら、現場で働くチームの規模はもっと小さくて済む」と、ベイカー氏は語った。

たとえば、OMDのローゼン氏は、ブートストラップ・バーベキューの代わりに、レイニー・ストリートでの顧客数人とのブランチなど、1対1の小規模な会合を予定するつもりだ。また、PMGは、「PMGハウス」でブランドの顧客をもてなそうとしている。PMGハウスは、Facebook、Twitter、Googleのようなプラットフォームの幹部と顧客が会う場所で、オースティン中心街の喧噪から10分の距離にある。

「ショッピングモールみたい」



ほかのエージェンシーは、オースティンのイベント会場で過ごす時間のバランスを取り、ソーシャルでの存在感をもっと高めようとしている。大手エージェンシーのハバス・メディア(Havas Media)の傘下にあるエージェンシー、ソーシャライズ(Socialyse)は、今年、SXSWに1人を派遣する。同社のグローバルプロダクト担当責任者ノア・キング氏によると、ソーシャルリスニングの作戦本部に誰かを配置するほうが、投資利益率(ROI)が良い可能性があるという。

「参加者からすれば、すべてを体験することが難しい場合がある。SXSWのリーダー兼まとめ役を務める機会を見出し、重要な瞬間をまとめたコンテンツを共有し、顧客とソーシャルのフォロワーが最も適切な詳細に焦点を絞ることができ、過剰な情報に埋もれないようにしている」と、キング氏は語った。

メディアコムのヒンツ氏は、誰かを現場に送るべきだとはもう思っていない。

「イノベーションを生むコミュニティを失っている。オピニオンリーダーやイノベーターはもう参加していないので、次のTwitterがSXSWで一旗揚げ、そうした人たちに接触することはないだろう。マーケティングコンテンツは、創造性を奪い、ニューヨークやサンフランシスコでのカンファレンスと同じようにプログラムされつつある。独自性がない。どこにでもある同じようなつまらないショッピングモールみたいだ」

「それに、朝食タコスなんて2009年の流行だ」と、ヒンツ氏は付け加えた。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)