「国民との意思疎通強化」を掲げて就任した韓国の文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)大統領。その目玉の1つが、青瓦台(大統領府)ホームページに作った「国民請願コーナー」だ。

 大統領への要求、不満、提案など何でも自由に書き込める。連日話題になり、この試みそのものを評価する声は多いが、仰天する内容も続出だ。

 書き込みは簡単だ。青瓦台ホームページに入り、「国民請願」コーナーに入れば、自由に書き込みができる。個人の中傷など、内容を見たうえで「書き込み」は公開される。

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同じような意見が20万件集まれば回答

 同じような意見が1か月間に20万件以上あれば、青瓦台がこれに対して何らかの「回答」をする。

 2018年2月20日、この「国民請願」が大きな話題を呼んだ。

 1つは、昼前の青瓦台ネット配信で新たな「回答」があったのだ。

 この日の「生放送」には、青瓦台のニューメディア秘書官が登場した。進行役が、「青瓦台への請願に対して秘書官が回答します」と紹介した。

 「これまで最も早い速度で請願が20万件を超えた内容ですね」と紹介したのは何だったのか。

 2月5日、ソウル高裁は、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)副会長に対する「賄賂罪」などの控訴審で、「懲役2年6か月、執行猶予4年」の判決を出した。2017年8月の地裁判決は懲役5年の実刑判決だったから、「大幅減刑」だった。

 李在鎔副会長は約1年ぶりにソウル拘置所を出たが、この判決に対して国民の不満と批判が沸騰した。

判事の監察と罷免を

 青瓦台の「国民請願コーナー」に、この判事に対する特別監察や罷免を求める書き込みが殺到した。あっという間に20万件を超えてしまったのだ。

 韓国も3権分立や司法権の独立は憲法で保障されている。だから青瓦台に判事の罷免を求めることはもちろん筋違いだ。

 この日、回答した秘書官は「国民が質問をすれば政府は回答するという哲学のもとに国民請願コーナーを始めたが、青瓦台が何でも解決できるわけではない。それでも、国民の意思を反映するために私たちが努力し、国民と意思疎通することが責務と考えて難しい質問にもお答えします」と述べて、回答を始めた。

 回答はもちろん、3権分立の原則を憲法などを引用しながら分かりやすく説明した。「青瓦台に判事の罷免を求められてもできません」ということだが、それだけで説明が終わったわけではない。

主権は国民にありすべての権力は国民による

 「司法部への批判は司法の独立を揺るがすと言う話もありますが、大韓民国憲法1条には、『主権は国民にあり、すべての権力は国民による』とある。民主主義国家で監視と批判に聖域がない以上、国民は司法部も批判することができます」と説明した。

 そのうえで、今回の「国民請願」の内容を司法部に伝えると明言した。司法に対してはかなりのプレッシャーになることは間違いないだろう。

 もう1つ。この日は、平昌(ピョンチャン)冬季五輪がらみで、韓国が大騒ぎになったのだ。

パシュート競技の悲劇

 19日夜のスピードスケート女子チームパシュート準々決勝。韓国チームは、全体の7位で準決勝進出を逃した。

 奇妙なレースだった。終盤になって3人の選手のうち若手2選手がスパートしてそのままゴールしたが、残りのベテラン選手1人は50メートル以上遅れてしまった。

 チームワークが大事なはずの競技では珍しい結果で、それだけでも「チームワーク」が問われかねないが、競技後のインタビューも問題になった。

 最後にゴールしたベテラン選手は泣き崩れてしまったが、あとの2人は特に気にするそぶりもなくインタビューに。

 自分のタイムを話して「思ったより記録は良かった。でも・・・最後に体力が落ちて遅れてしまって・・・」と苦笑いを浮かべて話した。

 自分はがんばったが、最後の選手のせいで準決勝進出を逃したという趣旨と取られても仕方ない発言だった。

 これが視聴者の怒りに火をつけてしまった。

 「スポーツ精神にもとる」
 「チームワークを何と心得るのか」

 ネットで2選手を批判する書き込みが急増した。ここでも出てきたのが青瓦台の「国民請願」だ。

国会代表資格を剥奪せよ

 「2選手の国家代表資格剥奪と『積幣』スケート連盟に対する厳正な処罰を」という内容の「請願」が殺到した。

 李在鎔副会長の控訴審判決を上回るペースで請願が増え続けた。21日15時現在で50万件を超えてしまった。

 ということは、これも「青瓦台の回答」が必要になり、近く何らかの回答があるはずだ。

 それにしてもこの「国民請願」は、かなりの話題を呼んでいる。「国民請願コーナー」で「回答待機中」、つまり1か月間に20万件を越えた請願があった内容には、こんなものもある。

国会議員を時給750円にしろ

 「国会議員の給与を最低賃金にせよ」

 与野党でもめてばかりいる国会に嫌気がさした国民からの請願なのだろう。国会議員の歳費を大幅に削減して最低賃金(時給7530ウォン、1円=10ウォン)にしろという内容だ。

 さらに国民から認められる仕事した場合、インセンティブを付与する歳費体系にしたり、昼食代も3500ウォンだけ支給するように求めてもいる。

 これにも、青瓦台は、回答しなければならない。20万件を超えるような「請願」ではないが、びっくりする内容も多い。

 韓国は、2月15日(木曜日)〜18日(日曜日)が、旧正月と週末を合わせた連休になったが、これに対してもさまざまな「請願」があった。

連休をなくせ

 「休みを1週間にしろ」という請願は分かるが、意外だったのが「休みをなくせ」という請願も多かったことだ。

 旧正月の連休となると、親戚一家が集まって食事をする機会も多い。食事の準備などで女性たちの負担が重く、「女性は奴隷ではない」という書き込みも目立った。

 ほかにもいろいろある。

 「米国と断行しろ」「中国選手を五輪から追放しろ」「不必要な比例選出国会議員をなくせ」「成人男性はアダルトビデオを自由に鑑賞できるようにして」「息子の就職を何とかして」・・・

 韓国でも店舗網を拡大している「ダイソー」についての論争も起きている。

 零細文房具店が苦しいとして「文房具の販売を規制してほしい」という請願が出ると、「規制反対」「ダイソーの文房具販売規制に反対」という書き込みがどっと寄せられた。

 青瓦台の「国民請願」をどう評価すればいいのか。

 若手の韓国紙記者は「国民の声を知るには役に立つ。政府が国民の声を聞こうとすることには一定の評価ができるのではないか」と語る。

 これに対してベテランデスクは「司法批判などは危うい一面がある。冬季五輪のパシュート選手についても『青瓦台の請願に批判が殺到した』という報道があって、さらに批判に火をつけてしまった」と指摘する。

 青瓦台が始めた「国民請願」はそれでも、着々と浸透しつつある。

筆者:玉置 直司