アメリカの2019会計年度(2018年10月1日〜2019年9月30日)の国防予算案の概要が公表された。

 2019会計年度の国防予算総額は6860億ドル(約74兆5000億円、基礎的国防予算6170億ドル、戦時補正予算690億ドル)である。トランプ政権が希望していた7160億ドルには届かなかったものの、2018会計年度の国防費6391億ドル(基礎的国防予算5745億ドル、戦時補正予算646億ドル)から7.5%増額することとなった。

 今回は、米国の国防費の増額が何に使われるのかをみていこう。

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兵員の増強

 海軍の兵員数は、およそ2%にあたる7500名の増員が認められた。この数字が達成されると海軍常備兵力は33万5400名となる。海軍と同じく陸軍も2%の増員が認められた。もともと兵員数は海軍より陸軍のほうが大きいため、陸軍は1万1500名が増員され、常備兵力は48万7500名となる見込みである。

 海兵隊と空軍の兵員数増強は2%には届かず、それぞれ1%に留まった。その結果、海兵隊は1100名の増員となり、常備兵力は18万6100名となる。空軍は4000名の増員で、常備兵力は32万9100名となる。

 米軍全体としては2万4100名の増員、常備兵力は133万8100名ということになる。

主要艦艇の建造

 国防費の増額に合わせて、以下のように強力な艦艇の建造が加速されることになる。

 敵の戦略原潜(核弾道ミサイルを搭載している原子力潜水艦)ならびに敵の攻撃原潜を発見し追尾し、いざというときには撃沈する攻撃原潜(ヴァージニア級攻撃原潜)を2隻。2隻の建造費は74億ドル(およそ8000億円)である。

建造中のヴァージニア級攻撃原潜(写真:米海軍)


 海上自衛隊のいわゆるイージス艦の“原型”となったイージスシステム搭載艦であるアーレーバーク級ミサイル駆逐艦を3隻、60億ドルで調達。

 沿海域戦闘艦1隻を13億ドルで建造。沿海域戦闘艦は各種トラブルが多発して建造計画が打ち切りとなっていたが、建造メーカーとの契約上の問題があるため、結局建造することとなった。

 このほかにも、とりわけ実戦では重要な役割を演ずる給油補給艦2隻(11億ドル)、オスプレイやヘリコプターなどの発着や兵員の補給など“海上に浮かぶ基地”の役目を果たすことになる遠征海洋基地船1隻(7億ドル)などが建造されることになった。

 さらに、これらの新造艦だけでなく、最新鋭ジェラルド・R・フォード級原子力空母とコロンビア級戦略原潜といった新型超高額艦艇の継続開発建造費にそれぞれ18億ドルと37億ドルが投入される。

建造中のジェラルド・R・フォード級原子力空母(写真:米海軍)


 上記のように、トランプ政権は莫大な予算を投入して海軍の増強に着手しており、2019会計年度だけでも主力戦闘艦6隻が建造を開始されることになる。ただし、建造に時間がかかる軍艦などの主要兵器の場合、建艦予算が割り当てられるということであり、2019年会計年度内に調達されるわけではない。

 また、トランプ政権が打ち出し法制化された海軍増強策によると、アメリカ海軍の戦闘艦艇数を最低でも77隻は増強しなければならないこととなっている。実際には現有艦艇には近々退役していく艦艇があるため、77隻増強ということは、90隻以上の艦艇を作り続けていかなければならないことを意味している。ということは、もし2019年会計年度のペースで建造され続けた場合、計算上は15会計年度が必要となり、軍艦建造に必要な時間を考えると「355隻海軍」が誕生するのは2035年以降になってしまう。

航空機の調達

 航空戦力も強化される。艦艇ほど単価そのものは超高額ではないものの、極めて高価な航空機も多数調達されることとなる。

 それらのうち“目玉”となるのは、航空自衛隊も調達を開始したF-35ステルス戦闘機である。F-35戦闘機には、空自が購入している空軍仕様のF-35A型、強襲揚陸艦からの垂直離着陸機能が付与されている海兵隊仕様のF-35B型、それに航空母艦からの発着が前提となっている海軍仕様のF-35C型の3種類がある。いずれもすでに運用が開始されてはいるものの、いまだに改良開発中である。これらの3種のF-35戦闘機を合わせて77機、107億ドルで調達する。

 このほか、
VH-92大統領専用ヘリコプター6機(海兵隊、9億ドル)
F/A-18艦載戦闘攻撃機24機(海軍、20億ドル)
KC-46空中給油機15機(空軍30億ドル)
CH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリコプター8機(海兵隊、海軍16億ドル)
AH-64Eアパッチ・ガーディアン戦闘ヘリコプター60機(陸軍、13億ドル)
P-8Aポセイドン対潜哨戒機10機(22億ドル)
などがある。

 さらに、航空機から発射される武器、たとえば統合直接攻撃弾(JDAM:無誘導爆弾に装着して精密誘導爆弾化するための装置)4万3594個(12億ドル)などが調達される。

 それらの兵器購入に加えて、新型長距離戦略爆撃機(核爆弾搭載機)B-21「Raider」の開発(ノースロップ・グラマン社が研究開発を推進)に23億ドル、核戦略の大転換と連動する形で戦術核搭載航空機発射型巡航ミサイル(LRSO)の開発費に6億ドル、空軍が運用することになる次世代地上発射型大陸間弾道ミサイル「GBSD」の研究開発費に3億ドルが投じられることになった。

開発中のハイテク長距離戦略爆撃機B-21(写真:ノースロップ・グラマン社)


軍用車輌の購入

 軍艦や軍用機のような高額兵器ではないが、国防費の増額に伴って多くの軍用車両も購入される。

 たとえば、
JLTV 統合軽戦術車輌(陸軍)5113輛(20億ドル)
AMPV多用途装甲車(陸軍)197輛(8億ドル)
ACV-1.1水陸両用装甲車(海兵隊)30輛(3億ドル)
M-1エイブラムス戦車(陸軍、海兵隊)近代化改修費(27億ドル)
などである。

5千両以上の調達が認められたJLTV(写真:米陸軍)


日本への影響は?

 アメリカ軍がどのような兵器を取り揃えようが、それが自衛隊や日本にとって直接影響を及ぼすわけではない。しかし、たとえばF-35ステルス戦闘機のように、自衛隊が購入すればするほどF-35の単価は低下するため、アメリカ軍が多数取り揃えていくためには、日本にも多数購入してもらった方が望ましいことになる。したがって、F-35に限らず、米軍による高額兵器の調達が加速されると、それらの単価を低下させるために、今後ますます日本政府当局に対する売り込み圧力が強まることは確実である。

筆者:北村 淳