「Thinkstock」より

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●仕事のスピードアップには記憶方法を見直すべし

「働き方改革」を進めようという風潮のなか、短い時間で多くの成果を出すことが我々ビジネスパーソンに求められています。そのためには新しいスキルや知識をスピーディーに身につけなければなりません。しかし、新しいことはなかなか覚えられないし、覚えたと思ってもすぐに忘れてしまうものです。それを年齢のせいにしている人もいるかもしれません。そこで今回は記憶力についてお話をします。

 突然ですが質問です。

 10フィートとは何メートルでしょうか?

 答えは、およそ3メートルです。正確には、1フィートは30.48センチメートルですから、3メートルと4.8センチメートルとなります。1フィートの長さは、皆さんが学校に通っている間のどこかで習ったはずですが、忘れてしまったという方が多いと思います。メートル法が基本の日本ではほとんど使われませんから、それも当然だと思います。

 一方で、仕事や日常生活でフィートを使わない人のなかにも、30.48センチというほど正確でなくとも、30センチくらいという感じで長さを覚えている人がいます。そのなかには、ありとあらゆることを自然に記憶してしまうという、特殊な才能を持っている人もいますが、それ以外の人は、物事を上手に覚える技術を持っているものです。ちなみに、私自身はもともと記憶力がよいとは思いませんが、覚えるべきことを覚えるのは比較的得意なほうだと思っています。

 ものを覚えるにはいろんなアプローチがありますが、たとえば私でしたら、次のように記憶します。

 まずフィートの語源を調べます。すると、英語で足を表すフット(foot)の複数形であることがわかります。フットは足だと言いましたが、英語のレッグ(leg)も日本語では読み方は「あし」、漢字では「脚」です。その違いを知るために、フットが足のどの部位を指すのかを調べると、足首より下にある部分を指すことがわかります。そして足のつま先からかかとまでの長さが、1フット、というわけです。

 ここまでわかればフィートは英語のフットの複数形であり、1フットはだいたい足のかかとからつま先までの長さである、というイメージをもって記憶することができます。私がこのように丁寧に調べるのは、純粋に知らないことをより深く、正しく理解したいという動機からです。しかし結果としてよく覚えられますし、必要な時に記憶から取り出しやすくなるというわけです。

 もちろん、忘れてしまうこともあります。たとえば30.48センチという数字はすぐに忘れてしまいます。それに靴のサイズが30センチという人はなかなかいないでしょうから、自分の足のサイズを頼りに数字を思い出すのも、簡単ではないでしょう。しかし少なくとも1フットは足の大きさであるということを理解していれば、1ミリとか、1メートルなどのように大きく間違うことはないはずです。

 ほかにも、1ポンドが何グラムかなど、いろんな長さ、量、重さの単位があります。これを度量衡と言いますが、度量衡以外にも英単語や歴史の年号など、昔は覚えたけど忘れてしまった知識はたくさんあるはずです。

 そのような知識というのは往々にして、覚えるのが大変だったはずです。そして、なぜ覚えるのが大変だったかといえば、丸暗記をしようとしたからではないでしょうか。

●丸暗記ほど非効率な覚え方はない

 実は丸暗記ほど効率の悪い覚え方はありません。ときどき単語帳や歴史年表で、英単語や年号を覚えようとしている学生を見かけますが、ずいぶん効率の悪いことをしているなと感じます。少なくとも私の知る限り、そのような勉強方法で優秀な成績を取っている学生はいません。優秀な学生が単語帳や歴史年表を使うとすれば、覚えられたかどうか、穴がないかを確認する目的であり、それ自体で覚えようとはしていないのです。

 ここで記憶というものについて整理しておきましょう。

 認知心理学の研究によれば、記憶には、大きく分けて短期記憶と長期記憶があるとされています。

 短期記憶とは頭の中に保管されている期間が短い記憶のことです。我々がとりあえず必要と感じたこと、興味を持ったことは短期記憶に保存されます。短期記憶の保存期間は20秒〜1分程度といわれています。また、一度に記憶できる情報の単位は7個前後といわれています。電話を掛けるために番号を覚えるときのことをイメージしてもらうと、わかりやすいと思います。ほとんどの人は発信ボタンを押した瞬間に忘れてしまうでしょうし、場合によっては3桁とか4桁ずつでないと覚えられないときもあるでしょう。我々は意味のない文字や数字の羅列を記憶するのは本当に苦手です。

 実際にエビングハウスというドイツの心理学者が、無意味に並んだ3つのアルファベットを被験者にたくさん覚えさせて、その記憶がどれくらいのスピードで忘れられていくかを実験しました。

 すると、20分後には42パーセントと、およそ半分が忘れ去られていました。1時間後には56パーセント忘れ、1日経つと74パーセント忘れます。つまり、意味のない情報は1日経つと4分の1しか記憶に残っていないんですね。逆に覚えることのできた25パーセントは1週間後も、1カ月後も割合覚えているそうです。

 この記憶が長期記憶です。長期記憶は、短期記憶の中から重要だと頭が判断して選んだ記憶です。長期記憶には主に3つの種類があるとされています。

 1つ目は、「意味記憶」です。これは机の上の勉強で得た知識や、人の名前などの記憶です。

 2つ目は「エピソード記憶」です。これは、過去の経験や出来事に関係した記憶です。

 3つ目は「手続き的記憶」です。自転車の乗り方など、体を使って覚えた記憶です。

 この3つは、今お話しした順番で忘れにくくなります。いずれも強く記憶に残すためには、繰り返し学習が必要になります。学生の頃は時間がふんだんにあり、勉強することが本業でしたから繰り返しが可能でしたが、社会人はそうはいきません。言ってみれば毎日の仕事そのものが試験のようなものです。そんななかでどうしたら効率よくものが覚えられるのでしょうか?

●知っていることが増えるほど記憶力は増す

 その答えは、興味を持つことです。

 なんとありきたりな答えだと思った人もいるかもしれません。でも、考えてみてください。好きな人の住んでいる場所やメールアドレスは一発で覚えられますよね。自分が好きなことの話は友達に何時間でもできますし、料理が好きならレシピはすぐに覚えられます。興味を持てば、深く知ろうと自然に思うものですし、その過程ですでに自分が知っていることとの関連性が必ず出てきます。関連が頭のなかにつくられれば、強く記憶され、また思い出しやすくなるのです。

 たとえばバンバンジーという料理が好きだけれども、どうしても自分のつくり方だと鶏肉が固くなってしまう問題を解決したいとしましょう。いろいろなレシピを見ると、「鶏肉はお湯を沸騰させずに20分ゆでる」と書いてあるものがあります。今までは強火で5分がいいと思っていたのだけれど、なぜだろうと、お湯を沸騰させない理由を詳しく調べてみれば、お湯の温度が高くなりすぎると鶏肉が固くなるからだとわかります。そして自分で試してみたらお店で出てくるような軟らかいバンバンジーができた……。

 レシピに書かれている調理法を作業順序だけでなくその理由をきちんと理解し、実践すれば、厚切りステーキを軟らかく焼いたり、ぶりの照り焼きをふんわり仕上げたりすることもできるようになるでしょう。

 ですから、ひとつのことを深く学ぶのはちょっと面倒に思えますが、実はそれが一番の早道ですし応用も利きます。

 このように考えていくと、物事を知れば知るほど、経験を積めば積むほど、理解できることや、記憶に残ることが増えていくはずです。その増え方は直線的というよりは、二次関数的です。ですから年を取って脳の働きが悪くなって物忘れがひどくなったというのは嘘で、実際は物事への興味が失せていたり、調べ方がいい加減だったりすることが理由です。

 物事を覚えるベストな方法は、まず興味を持つ、調べる、ストーリーを知ることです。そうすれば、結果として記憶に残る物事が増えていくというわけです。

 さて最後に、私が話の途中で触れたポンドの単位でもやもやしている人に、ストーリーをお話ししましょう。1ポンドはおよそ453グラムです。もともとは、古代メソポタミア地方で、ひとりの人が1日に食べるパンをつくるための小麦の量として使われ始めたのが起源といわれています。皆さんパウンドケーキを見たことがありますよね? カタカナの「ポンド」は英語ではpound(パウンド)と発音されます。

 パウンドケーキは小麦粉、バター、砂糖、卵をそれぞれ1ポンドずつ使ってつくることから、こう呼ばれるようになりました。ですからパウンドケーキをイメージしてもらえば1ポンドがどれくらいの量かを思い出すきっかけになりますね。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)