「フリット」か「グーリット」か 外国人選手名の表記と発音を巡る“永遠の難題”

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マルセイユが“中国語ユニフォーム”を着用 DFラミの背中には「拉米」

 マルセイユのユニフォームの背中に入っている選手名が、中国語になっていた。

 現地時間18日に行われた第26節のボルドー戦(1-0)が旧正月の時期なので、仏中友好でそうしたようだ。DFラミは「拉米」、FWトバンは「托万」、MFサンソンは「桑松」だった。「桑松さん」は日本にいそうである。

 中国語はカタカナがないので、外国人の名前は全て漢字になる。だいたい似た音の漢字を当てはめるわけだが、意味的にもなるべくそれらしい字を当てるのがベストだそうだ。

 これは筆者が香港で目にしたものだが、日本のヤクルトを「益力多」としていた。音も近いし、字面も体に効きそうである。サッカー実況では漢字表記の名前のほうを発音しているようで、若干分かりにくかった記憶がある。ペレは「ペリ」だし、クライフは「クリフ」、ライカールトは「リカルド」と聞こえた。

 さて、ではマルセイユに所属する日本代表DF酒井宏樹は中国語でどのように表記されていたかというと、「酒井宏樹」だった。実はこれも習慣のようで、日本企業の社名はそのまま漢字表記していることが多かったのを覚えている。例えば、日産は日産なのだ。

 ただ、読み方は中国語読みになることもある。酒井宏樹を中国語でなんと発音するのかは知らないが、そのまま漢字表記するのは普通だと思う。ただ、漢字のフルネームがユニフォームについたのは、おそらく酒井にとっても初めてだろう。

「スールシャール」か「ソルスキア」か

 日本でも中国人選手の名前はそのまま漢字表記していて、読み方は日本語の発音で読んでいることが多い。かつてマンチェスター・シティで130試合もプレーしたDF孫継海も、日本では「スン・チー・ハイ」だったり「ソン・ケイカイ」だった。同じ漢字を使っていながら読み方が違うので、少しややこしい。

 アルファベットを使っている欧米でも、やはり国によって読み方は少々異なる。日本語と中国語ほどは違わないが、フリットはイタリアでは「グーリット」、ファン・バステンは「ヴァン・バステン」だった。

 では、フランス人のアンリがイングランドで「ヘンリー」と呼ばれていたかというと、これはそのままアンリなのだ。プティも「ペティ」ではなかったし、英国は出身地の読み方をそのまま使ってくれるのかもしれない。ただ、オランダ人のオーフェルマルスは「オーバマルス」と呼ばれていた。同じオランダ人でも「ファン・ペルシー」は「ヴァン・ペルシー」ではなかったので、基準がよく分からない。スペインではファン・ハールではなく「ヴァン・ガール」だった。そもそもオランダ語の「G」が、発音しにくいのが原因だろうか。

 もっとも一番厄介なのは、外国人選手の名前を日本語に表記することかもしれない。

 マンチェスター・ユナイテッドで活躍したノルウェー人、スールシャールは「ソルスキア」と表記されたこともある。そのままアルファベットを英語風に読んでみたのだろうが、どうもそうではないというので英国人に聞いたら「スーシャーかな」という答えだった。

 カタカナにする場合に躊躇するのが、「ン」で始まる名前である。アフリカ人に多い「N」で始まる名前で「ンドラム」、「ンゴッティ」という選手がいた。どちらもフランスでプレーしたので覚えているのだが、フランスでの発音は「エンドラム」「エンゴッティ」だった。「M」始まりの選手名もだいたい同じで、Jリーグでもプレーしたエムボマは「ムボマ」ではない。同じく、ムバッペは「エムバペ」、あるいは「エンバペ」になるはずだ。

日本人として戸惑ってしまう名前は…

 しかし、なんといってもカタカナにする時に一番困るのが、一文字の名前だろう。

 かつてイブラヒム・バという名前のフランス代表選手がいた。アルファベットだと「BA」なので特に違和感はないのだが、日本語の文中に「バ」だけだと、けっこう読みにくくなる。「この試合でデビューのバは…」「右からドリブルで切れ込んだバからのクロスを…」「行けバ!」と、なんだか誤植みたいに見えてしまう。

 JSL(Jリーグの前身)時代の日本でプレーした選手で、「レ」という名前のブラジル人もいた。記録の得点者の欄に<得点=レ二、渡辺>なんて書いてあると、レが2得点なのか、レ二という選手が1得点なのか判別がつかない。レという名前を知っているか、チームの総得点を了解していれば大丈夫だが、これだけだと混乱する。

 そしてアフリカに多い「バカ」の付く名前にも、少々戸惑ってしまう。バカヨコはかなり多い名前なのだが、だいたい縮めて「バカ」と呼ばれている。チームメイトからあまりにもバカバカ呼ばれていて不憫になるが、そう思うのはもちろん日本人だけだ。

西部謙司●文 text by Kenji Nishibe

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images