ふんわりアクセルでの加速はクルマ単体で理想的な条件下なら有効

 燃費というのは交通状況によって、まったく違った答えが出てきます。よく「カタログ燃費なんて、実燃費と乖離(かいり)していて意味がない」みたいな意見もありますが、その意見が完全に間違っています。燃費というのは効率ではないのです。だから答えみたいなものはないし、機械がそれを保証することができません。あくまでドライバーが運用した結果に過ぎないのです。

 カタログ燃費というのは、そうした運転の傾向について反映できるように考えられた係数のようなものであって、他車と相対的に比較する意味はあっても、燃費の値そのものを鵜呑みにしようとする考え自体、ある意味間違っています。

 たとえば進行方向に路上駐車があり、通り抜けるのがギリギリな場合、アクセルを緩めますね。その行為自体が燃費を悪くします。しかしカタログ燃費のなかに、路上駐車を盛り込むことはできませんね。道路工事で止まることだって、暴走すり抜けをしてくるバイクを避けることだって、歩道に居る超セクシーな服装の美女や超イケメンに一瞬目を奪われてアクセルを緩めることだって、カタログ燃費に盛り込むことはできないのです。そうした燃費を悪化させる操作を、ドライバーは無意識にやってしまっていますね。

 交通状況に左右されるので、お役所が推奨している「ふんわりアクセル」も、有効な環境と無効な環境が存在します。有効な環境のほうがレアなのですが、(1)信号が細かく設置されている、(2)後続車がいない、という状況です。

 具体的にいえば、夜中の都市部みたいなところでしょうか。もし後続車が居れば、そのクルマの燃費を悪化させる可能性もあります。昼間の交通量の多いときには確実に道路の交通容量を低下させる、つまり平均速度を低下させ、交通渋滞の原因になります。つまり都市部の一般的なケースでは、「ふんわりアクセル」は完全なアンチ・エコドライブなのです。

 機械的なエネルギー効率のことでいえば、一気に加速するのがベターです。たとえばエンジンの効率は全開に近いところにあります。トヨタのハイブリッドシステムでは、アクセル開度でいえば85〜90%くらいのところでエンジンを回しています。そこが効率がいいからなんですね。だから、大きくアクセルを入れて一気に加速したほうが効率は良くなります。そして目標となる速度になったところで、惰性で走らせるのです。そういう乗り物、乗ったことありますよね? そう、ディーゼルカー(ディーゼルエンジンで駆動する列車の車両)や電車では設定された速度まで、いつも全開加速しているんですね。もちろん、そうした運転の効率が良いからなんです。

 しかしクルマの燃費が良くなるとは限りません。一気に加速したと思ったら、横道からクルマが出てきたり、追いついたタクシーが停車しようとしたり、横断歩道で人が渡ろうとしていたり、どうしてもブレーキを踏まされるケースがあります。都市部では細かく設置された信号機に行く手を阻まれたりしますね。

 ディーゼルカーや電車では、停止位置が予め決められていて、そこに向かって計画的に加速や減速ができるので、一気に加速する運転で機械的な効率の良さを引き出すことができるわけです。しかしクルマの場合は不確定な要素が多すぎて、効率の足を引っ張ってしまうんですね。その足の引っ張られ具合が小さくて済むのは、速度が低いほうです。それはブレーキを強く踏む必要がないからです。ゆっくり、まったり加速していたほうが速度が上がらず、足を引っ張られたときのエネルギーロスが小さくて済むわけです。

 結局、どっちがトータルで燃費が良くなるかは判断できないんですね。また、エコという観点でいえば、自分の燃費だけ良くければいい、というエゴドライブは論外でしょう。具体的な例をいくつか挙げれば、高速道路や幹線道路などの流れが維持できる場所では、一気に加速したほうがいいでしょう。また右折などで、後続車の交通の流れ(=燃費)を考えるとスッと加速するべきです。右折レーンに残ってしまうと、燃費が悪化してしまうわけですから。

 少なくとも慢性的に渋滞する都市部では、ふんわりアクセルなど自己中心的な運転はせずに、しっかりと発進加速させて交通の流れを妨げないのが、最低限のマナーだと思います。