by Naomi August

2017年、キューバのアメリカ大使館で「音響攻撃」が確認され、難聴や脳損傷といった被害が出たと報告されました。このような「謎の音が特定の地域に発生する」という現象はキューバ以外でも起こっており、「Hum」という低周波音は世界中で確認されています。カナダのオンタリオ州でも、謎の低周波音が数年にわたって継続しているものの、解決には至っていません。

This Canadian city is plagued by an obnoxious humming-and it’s getting worse | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2018/02/a-mysterious-and-maddening-hum-is-tormenting-residents-of-this-canadian-city/

There’s a Persistent Hum in This Canadian City, and No One Knows Why - The New York Times

https://www.nytimes.com/2018/02/19/world/canada/windsor-hum.html

2011年頃からカナダ・オンタリオ州のウィンザーでは「ウィンザー・ハム」と呼ばれるノイズが確認されています。この音は低周波の振動音で、「複数のディーゼル・エンジンがアイドリングしているような音」「遠くで鳴る雷」「ボイラーのうなる音」と表現されるもの。以下のムービーからウィンザー・ハムがどのようなものか聞くことができます。なお、ウィンザー・ハムを聞いた人の中にはうつ・吐き気・睡眠障害・動悸(どうき)・耳の痛み・頭痛などを訴える人もいるので、ムービーの再生は自己責任で行ってください。

Windsor Hum Clip - Windsor resident discussing the Windsor Hum issue - YouTube

ウィンザー・ハムは生じるタイミングや期間を予測できません。ノイズを聞いた人の中には「振動を感じた」「家の中の重いものが揺れていた」と報告する人や、うつ・吐き気・睡眠障害・動悸(どうき)・耳の痛み・頭痛などを訴える人も存在します。医師によると低周波音が聞こえ続けることで長期的な聴力の低下が起こるとは考えられませんが、継続的な耳鳴りのように、人を衰弱させることがあるとのこと。ウィンザー・ハムは聞こえる人と聞こえない人がいますが、これまでの調査から「聞こえる人」に特定の年齢や性別が関連しているとは考えられていません。

The Windsor/Essex County HumというFacebookのグループはノイズの原因を特定すべく活動を行っており、その運営に携わるMike Provost氏は6年間にわたって、4000ページにもわたるウィンザー・ハムの持続期間・激しさ・特性・発生した時の天候といったデータを集め続けている人物です。Provost氏のデータによるとノイズを聞いたという報告はウィンザーだけにとどまらず、オンタリオから20マイル(約32km)南にあるマクレガーや90マイル(約145km)離れたクリーブランド東部からも届いているとのこと。また、ウィンザー・ハムについては「極秘トンネルの存在」「UFO」「政府の秘密の活動」といったウワサが飛び交いますが、Provost氏はこれらの存在とウィンザー・ハムとの関わりについて否定しています。



謎の低周波音の発生については「海洋の波の圧力が海底に作用することで、地球全体に微小地震活動が発生しており、その結果Humのような低周波音が発生しているのだ」と説明する研究結果も発表されていますが、オンタリオ州で確認されているウィンザー・ハムがこの理論によるものなのかどうかは記事作成時点では確認されていません。National Resources Canadaが2011年に1カ月にわたって調査を行った結果、確かにオンタリオ州では35Hzの周波数が確認されており、その後、2014年にはウェスタンオンタリオ大学とウィンザー大学の研究チームがカナダ外務国際貿易省(DFAIT)の支援を受けて調査を実施したところ、研究チームがノイズの出どころを特定することはできませんでしたが、データや観測からツーク島にある「何か」が出どころであると見られています。

オンタリオ州はデトロイト川を挟んでアメリカ・デトロイト州と隣接しており、ツーク島はデトロイト川に浮かぶ島。産業に特化しており、数々の製造業の工場がひしめきあっています。研究者らはウィンザー・ハムの発生が工場煙突に青い炎が出るタイミングと一致することから、製鋼工場の溶鉱炉と不規則な操業がノイズの出どころだと見ているとのこと。しかし、溶鉱炉を動かすUSスチールはウィンザー・ハム問題の解決に非協力的であると近隣住民らは主張しています。また、ニュースサイトArs Technicaの取材に対してもUSスチールはコメントを返していないとのことです。

Humはインディアナ州コーコモーやニューメキシコ州のタオスなどでも確認されており、コーコモーのケースについては2003年に振動コンサルティング会社の「Acentech」が2つの製造工場に消音装置を導入することを推奨しています。一方でHumの正体は心理的なものであるとする主張も存在し、世界各地で確認されるノイズが同一のものでない、異なる原因を持つものである可能性も大きいようです。