冬の寿を濃紺の車体に反射させる20000系(撮影:塩塚陽介)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2018年4月号「まず相鉄線で運転開始20000系電車」を再構成した記事を掲載します。

相模鉄道は、都心直通運転に充当する20000系車両を新造、また、都心直通線の経路上に新駅の「羽沢横浜国大」駅を建設しており、この二つを1月17日に報道関係者向けに公開した。相模鉄道から相鉄・JR直通線および相鉄・東急直通線を経由して東京都心まで直通運転を行うプロジェクトは、2019年度下期にJR線と、2022年度下期に東急線との間でスタートが予定され、JR直通線は工事が大詰めの段階を迎えつつある。一方、新形式20000系は東急東横線や目黒線に乗り入れる車両で、相鉄線内において2月11日にデビューする。

JRと東急線への二大直通プロジェクト

相模鉄道の都心直通計画は、2000年1月の運輸政策審議会答申第18号に盛り込まれた神奈川東部方面線に基づくプロジェクトで、相模鉄道本線西谷駅〜JR東海道貨物線横浜羽沢駅付近間の「相鉄・JR直通線」と、横浜羽沢駅付近〜東急東横線・目黒線日吉駅間の「相鉄・東急直通線」の2つの連絡線で構成される。2006年に都市鉄道等利便増進法に基づく認定を受けて事業がスタートした。

相鉄・JR直通線は延長約2.7kmで、西谷駅で相鉄本線から分岐したのち地下線経由で横浜羽沢駅(貨物駅)に達し、その構内でJR東海道貨物線に合流する。横浜羽沢駅と隣接する地下に新駅(仮称:羽沢)が建設されており、昨年12月に「羽沢横浜国大」と駅名が決定した。整備主体は鉄道・運輸機構で、営業主体は相模鉄道となる。

一方、相鉄・東急直通線は新駅「羽沢横浜国大」で分岐して日吉まで約10.0kmの地下線で、途中に新横浜(仮称)、新綱島(仮称)の2駅を設置、相鉄・東急ともに東海道新幹線にもアクセスする。整備主体は鉄道・運輸機構、営業主体は相鉄と東急の2社となる。

これにより、相鉄線二俣川・海老名や湘南台方面から新宿・渋谷・目黒方面との間で相互直通運転を行い、横浜市西部や神奈川県央部と東京都心の間の速達性向上や、広域鉄道ネットワークの形成と機能の高度化が期待される。計画では、二俣川〜新宿間は44分、二俣川〜(東急)目黒間は38分で結ばれ、現行の横浜駅での湘南新宿ライン乗り換えに対して15分程度短縮される。相鉄は東京都心を走る電車の一員に加わり、沿線への定住増加をねらう。

新形式車両20000系は東急線との直通用車両である。運行が3年も早く予定されているJR直通用の車両ではなく、東急用を先に新造したのは、以下の理由による。

高度成長期に沿線人口が急増した相鉄ではラッシュ輸送改善のため、車両限界を国鉄と同等に拡大したこと、また近年は、車両更新や車両管理を効率的に行うため、JR東日本のE231系、E233系をベースとした車両を導入している。したがって仕様も操作性もJR車両と共通部分が多い。それに対して東急の車両は、車体の最大幅が20cmも狭いなど車両規格が異なり、機器の配置や方式、操作性もさまざまに異なるため、相鉄サイドにおいては馴染みが薄い。そうした条件から、試験や訓練を重ねなければならないという事情がある。

そのため、既存の7000系の代替用車両として10両1編成を先行して新造した。当面は自社線内の運行に供し、次は新たにJR直通用車両2編成の新造を挟み、その後に第2編成以降を増備する計画となった。

安心・安全・エレガント

一方、20000系の仕様は、相鉄のデザインブランドアッププロジェクトに基づいて決められた。この事業は、相鉄グループ100年の節目に「これまでの100年を礎に、これからの100年を創る、Thinking of the next century」のキーワードの下、駅・車両・制服を統一性のあるものとしてブランド力を高める。鉄道としての「安全・安心」にエレガントを加えて、沿線のゆたかな生活を訴求するというもの。この方針に則り、新たな車体色にYOKOHAMA NAVYBLUEが定められ、その第一弾として2016年4月に新塗色を採用したのが9000系リニューアル車。その車内もシックに改められ、編成中の一部に設けられたクロスシート座席では、表地に本革を採用した。この20000系は、そうしたコンセプトによる初の新造車である。


20000系は東急線直通用の車両であり地下トンネル断面の規格から先頭部には非常扉を備える(撮影:杉山 慧)

メーカーは日立製作所で、統一された素材や工法で質の高い車両を効率的に作る、同社標準車両のA-trainを採用した。このためアルミ合金ダブルスキン構体で、その接合にはFSW(摩擦攪拌接合)を用い、滑らかな車体となる。前頭部は横浜の進化を表現するべく、デザイナー、メーカーと共同して立体的でインパクトの強い形状とした。デジタル技術を駆使するとともに、実際の製造段階では特徴的な部分に“匠の技”も用いている。

こうした概要説明をかしわ台駅隣接の車両センターの棟内で受けた後、実際の車両のお披露目。そのあと試乗を兼ねた車内撮影となり、車両センターから出区して、かしわ台駅から厚木操車場へ向かった。厚木操車場は、海老名駅手前の信号場で分岐し、JR相模線厚木駅に連絡する貨物線上の車両留置基地で、JR線経由での車両輸送の経路ともなっている。かしわ台駅で発車を待つ編成の種別行先表示には、「試運転」の文字と一緒に、相鉄のキャラクター「そうにゃん」が鮮やかに浮かび上がっていた。

厚木操車場では外観撮影。改めて、編成を通して眺めることとなった。YOKOHAMA NEVYBLUEは日本語に置き換えれば濃紺。艶のある車体が周囲の光景を反映する。ラッピングを施すという案もあったが塗料のもつ深みにはかなわないとの理由で塗装が選ばれた。柔らかい輝きは、パール顔料を配合した多重層反射の効果である。

一方、当日は雨も降り出しそうな曇り空だった。晴天の場合は深い青が強調されるはずだが、明るい色とは異なり曇天だと黒く沈んだように見える。果たして、この色が新しいブランド色として提案された際、社内でも論議を呼んだそうだ。しかし若い社員の間では評判がよかったため採用に踏み切った。今後の相鉄沿線に住んでほしいと願う年齢層だからであろう。シックであることを重視して、あえて帯などは入れていない。

そしてまた、フロントマスクが注目される。切れ長のライトケースとともに、自動車のようなグリルに関心が集まっていた。しかし、じつは空気孔の機能は持っておらず、造形として構体の一部を彫り込んだものである。

前面グリルのデザインは「機関車」がベース

デザインブランドアッププロジェクトに参画した「くまモン」の生みの親、クリエイティブディレクター水野学氏の育った地が茅ヶ崎であり、東海道本線を疾駆するブルートレインを身近に見ていた。車両のデザインに携わることになり、「そう言えばあの機関車にはグリルがあった」という思い出から、インスパイアされたのだと言う。よもや相鉄20000系が、国鉄最強のEF66形電気機関車と結び付くとは、驚きの秘話である。


今までにない車両を目指して「横浜らしさのある顔」が検討された。緩やかな曲面ガラスにグリル状の造形で大きな特徴を出している(撮影:杉山 慧)

もう一点、この先頭部でとくに鉄道誌カメラマンの話題となっていたのが、LEDの種別・行先表示器だった。何の気遣いもなく撮影すると、通電する電気の周波数の関係から文字が欠けてしまうのがLED表示器である。きれいに文字を写すにはなるべくスローシャッターを切る必要があるが、それは高速走行する列車を撮影する術とは相反する。そこでカメラマンの間では、何分の一のシャッター速度であれば大丈夫かが重要な調査項目となる。相鉄20000系の表示器は1/1000でも文字切れすることなく写った。

じつは相鉄では、以前に導入した車両での事態が問題になったと言う。自社の最大商品である車両が、アピールすべき沿線の地名も読み取れない不完全な状態で大勢の目の前に出てしまう。それを避けることから今回は判読性に優れ、結果的に高速シャッターに耐える装置を選択した。高性能のぶんは価格に反映する。しかし、これから最大限に売り込んでゆく車両、そして路線なので、強いこだわりをもって採用した。

そのほか、新型素子(SiC)を採用したVVVFインバータ装置と高効率主電動機の併用による消費電力の低減、密閉型主電動機や防音車輪による騒音の低減、急曲線の安定性を向上させた台車、イーサネットによる車両情報装置の導入など、最近の高性能車両に多く見られる技術を取り入れている。

事業計画に記載された開業時の運転計画は、JR線方面が朝ラッシュ時毎時4本、その他の時間帯は毎時2〜3本、東急線方面は朝ラッシュ時毎時10〜14本、その他時間帯は毎時4〜6本を予定する。現段階では、認可されたJR線方面の直通先は新宿までとされている。ラッシュ時に1時間4本は首都圏の路線としては少なく感じるが、朝方の貨物線、まして横須賀線や湘南新宿ラインの状況からすると、実際はかなりタイトなダイヤになると言う。

これより先は憶測を交えるが、相鉄線内を運転可能なのは10両編成までで、トイレやグリーン車は設けないとの話からは、直通列車の姿は湘南新宿ラインというよりも埼京線がイメージされる。現状では新宿で折り返している埼京線電車と結び付くのだろうか。なお、東海道線とも線路は繋がっているので、相鉄側としては、いずれは東京方面とも直通運転を…との意向もある。

西武、東武にも乗り入れ?

東急線方面は本数が多い。東急は東横線の複々線という形で目黒線が日吉まで達しているので、それと結ぶこととなる。だが、渋谷のウェイトは言うまでもないため、ある程度は東横線に直通させる計画で進められている。


ところで、都心直通がJR・東急あわせてラッシュ1時間に18本もの本数となると、相鉄線自体の横浜方面列車が気になるところ。こちらについては、一部に横浜〜西谷間の区間運転を交えてダイヤが組まれるようである。

一方、東急両線と繋がるとなれば、目黒線はその先、東京メトロ南北線・埼玉高速鉄道や都営地下鉄三田線、東横線は東京メトロ副都心線からさらに西武池袋線や東武東上線と直通運転を行っている。相鉄はどこまで入ってゆくのかという関心は尽きない。

現時点における計画は東急線との直通運転となっているが、見学した20000系の運転台の保安装置切換スイッチには、西武と東武の表示もあった。直通可能な路線が多岐にわたるため、直通区間を延ばすたびに相手方の保安装置を追加してゆくのは対応が困難として、ソフトウェアの改修で済むような万能型の装置を搭載している。