手堅く儲けるはずが思いどおりにいかない典型例を紹介します(写真:freeangle / PIXTA)

サラリーマンの間で不動産投資がブームとなってから数年が経ちました。融資も徐々に厳しくなり始め、物件価格高騰のピークは過ぎたと言われますが、まだまだ盛り上がりを感じます。

関連書籍もたくさん発売され、「中古のRC造マンション、築古の木造アパート、かなり古い戸建物件といった高利回りの物件を購入する」「都市部の狭小マンションに投資する」など、“小資金で始められ、大きく儲かる”ことをうたった、さまざまなノウハウを解説した本がたくさん書店に並んでいます。

しかし、拙著『高家賃でも空室ゼロ! これからの不動産投資は地方の新築デザイナーズアパートが狙い目です』でも詳しく解説しているように、どのような方法にもメリットがあれば、デメリットも存在するのが現実です。儲かるはずの不動産投資がうまくいかず、後には空室が埋まらない古い物件と借金だけが残った……という人たちも、少なからずいらっしゃいます。

どんな不動産投資が失敗しやすいのか。典型的な3パターンを紹介しましょう。

(1)不動産会社や建築会社の言いなりになってしまう

営業マンのセールストークを鵜呑みにしない

まず不動産会社や建築会社から提案された事業計画を鵜呑みにしてしまうパターンです。特に、たくさん土地を所有する地主系大家さんには、そういったケースが非常に多く見られます。

広い土地を所有していると、さまざまな建築会社やハウスメーカーが「アパートを建設しませんか?」と提案してきます。そういった不動産会社やハウスメーカーの営業マンのセールストークは、非常にたくみです。アパート経営のことを知らないおじいちゃんやおばあちゃんならば、思わず「うん」と言ってしまうのも無理ありません。

特に高齢者は、「孫のため、子どものために」という言葉に弱いので、「財産をお孫さんの代まで残してあげましょう」などの口説き文句に思わず判子を押してしまうのです。だから、「アパートを建てたら相続対策になりますよ」というのは、営業マンの決まり文句になっています。

実際、国土交通省が7月31日に発表した2017年上半期(1〜6月)の新設住宅着工戸数を見ると、前年同期比2.1%増の47万3206戸と3年連続のプラスとなっています。その内訳を見ると、アパートやマンションを建設する「貸家」が前年比4.7%増の20万1580戸となっており、いかに「貸家」の新築が過熱しているかがわかります。

なぜ「貸家」の新築が増えているのかと言えば、2015年の相続税の改正が原因です。ただ土地で持っているだけでは多額の相続税がかかりますが、賃貸用の不動産を建てれば節税効果を狙えます。

そこで、多くのハウスメーカーが地主さんに対して、「アパートを建てたほうがいいですよ」と営業をして、その結果、どんな田舎に行っても同じようなメーカー製のアパートが建ち並ぶ様を見るようになっているのです。

ただ、いくら相続税の評価額が下がったところで、賃貸経営に行き詰まれば意味がありません。結局のところ、アパートを経営し、リスクを負うのは大家さんである投資家そのものなのです。

ハウスメーカーの営業マンの仕事は「アパートを売ること」「建築すること」です。はっきり言ってしまえば、物件が出来上がった後、私たち大家さんが成功しようが失敗しようが、関係ありません。

そのことをきちんと理解して、彼らの言うことを鵜呑みにするのではなく、「リスクを負うのは自分自身なのだ」と認識すること。それが、不動産投資で成功するための第一歩と言えます。

(2)「家賃を下げれば何とかなる」と思ってしまう

家賃を下げても空室が埋まらない現実

不動産投資でいちばん怖いのは、空室です。空室が埋まらなければ、その部屋からの収入はゼロになってしまうからです。

それでは、どうすれば空室を避けられるのか? 多くのオーナーが間違えてしまうのが、「家賃を下げれば空室は埋まる」と考えてしまうことです。特に「中古アパートを安く買えば、安い家賃でも採算が取れる」というのは、不動産投資の典型的な失敗パターンでしょう。安い中古物件には、値段が安いだけの理由があります。

家賃を下げると、周りの競合物件も同調して下げてきて、過当競争に陥ってしまいます。家賃を下げることで入居者の質が下がり、家賃滞納が発生し、より手間がかかることにもなりがちです。

どのような物件が選ばれるのかを具体的に言えば、より便利な場所にある、よりキレイで、使いやすい間取り、充実した設備、豊富な収納、日当たりが良いといった、住環境の良い物件になります。

そして、それ以外の選ばれない物件は、さらに家賃を下げることになり、それこそ底なしの値下げ競争になってしまうのです。

実際、北海道から九州まで日本全国のアパートの家賃を見ていくと、単身者向けのワンルーム物件では3万円を切ることも珍しくありません。最安値で調べてみると、なんと2万円以下の物件がありました。

しかも、2万円台であっても風呂・トイレが付いてエアコンも完備されています。これは決して特別な部屋ではなく、新幹線が停車する駅の徒歩圏であっても、このような家賃なのです。これでは、もはやアパート経営は成り立ちません。

家賃を下げると客付けされにくくなる

さらに言えば、入居募集を行う客付け業者にとっても、低家賃の物件はやっかいものなのです。

客付けというのは、入居希望者に部屋を案内して、成約すれば仲介手数料が手に入るというビジネスです。たとえば、家賃が2万円の物件では、仲介手数料1カ月だとすると、客付け業者には2万円しか入ってきません。しかし、10万円の物件であれば、10万円の手数料が入ってくるわけです。

同じ10万円を稼ぐにしても、家賃2万円の部屋では5人の入居者を見つけて5回契約を行う必要がありますが、これが10万円の部屋であれば、1人の入居者を見つけて1回契約を行うだけで良いのです。

客付け業者も商売ですから、儲けになる部屋を優先して客付けしていくのは当然なことになります。

もちろん、それでも家賃2万円の部屋のほうが圧倒的に決まりやすいのであれば、薄利多売が成り立つかもしれませんが、実際には家賃が低い物件というのは、古い物件、汚れが目立つ物件、不人気物件ということがほとんどです。そうなると、入居者から選ばれにくいため、結局、客付け業者も積極的に扱いたがりません。

つまり、空室を埋めようと家賃を下げれば下げるほど、客付けされにくくなり、結果、さらに空室が埋まりにくくなってしまうという皮肉な現象が起こってしまうのです。

このように、「家賃を安くすれば何とかなるだろう」と安易に考え、客付けが難しいアパートを購入すると、負の連鎖が止まらなくなります。

想定した家賃収入が得られない中で、毎月のローン返済に追われ、キャッシュフローどころか完全に持ち出しに。こうなると、自分の体力が続くかぎり持ち出しを続けなければならなくなり、最終的には破綻……という最悪のシナリオになることすらありえるのです。

こうした負の連鎖に陥らないためには、家賃を下げるのではなく、むしろ高い家賃でもお客様に選んでもらえるような物件にすること。つまり、いかに差別化を図って、個性的で魅力的な物件にするかが大切です。

そう考えると、設備や内装は後から変えることができますが、根本的なコンセプトについては、やはり新築時が肝心です。そのため、安い中古アパートを購入するよりは、多少初期コストがかかっても、自分自身の手で新築をプランニングした方が成功率を高くすることができるのです。

(3)立地が良ければ大丈夫だと油断してしまう

人気立地の新築アパートですら空室に苦しむ現実!

アパート経営において、立地は大切です。誰だって不便なところより便利なところに住みたいですから、当然なことになります。ただし、立地さえ良ければ大丈夫だと油断してしまうと、意外な落とし穴が待ち構えています。

少し、ショッキングな話を紹介しましょう。

最近、横浜あたりでは、新築のアパートであってもなかなか入居者が決まらなくなっているそうです。これはなぜかと言うと、サラリーマン投資家を対象にした新築の建売アパートが大量に作られ、販売されているからです。横浜ですからそれなりの賃貸ニーズはあるはずですが、そのニーズ以上に物件が供給されてしまったため、部屋が余ってしまっている状態なのです。

こうなると、新築物件は家賃設定も高いため、なかなか埋まりません。それにもかかわらず、いまだに次から次へと狭小のアパート物件が建てられているようです。


同じ規格の新築アパートが大量に供給されれば、必ずだぶつく、これは何も横浜に限った話ではありません。次々と金太郎飴のように、同じ規格の新築アパートが大量に供給される地域では、いくら好立地だとしても埋まらずに、空室が出るケースもあることを知っておいたほうが良いでしょう。

実際、名古屋や福岡など大都市のベッドタウンでも、同様な新築の供給過多が起こっているそうです。それどころか、私の地元でも同じような現象が起こっています。

アパート投資を行うにあたって、立地条件は非常に重要ですが、考えることは皆同じ。好立地の場所には、似たようなアパートが次々と建てられて、どれだけ豊富な需要があったとしても、いずれ飽和してしまいます。

その結果、立地は良いのに入居者が決まらない物件が出てきてしまう……こうした落とし穴にはまるのも、不動産投資で失敗する典型的なパターンと言えるでしょう。