米ゼロックスと富士ゼロックスを統合すると会見で発表した富士フイルムHDの古森重隆会長

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 「富士ゼロックスの良さは、なくなるのかな」。ある複写機メーカーの社員は、競合相手ながら富士ゼロックスの行方を心配そうに話した。米ゼロックスコーポレーションとの統合と同時に、国内外で1万人の削減を含む構造改革も発表された。個の思いを大切にする富士ゼロックスの自由な社風は、ライバルからも認められている。改革の行方が注目される。

 ある富士ゼロックス社員は「携わっている事業が続くのか不安」と打ち明ける。2017年春の不適切会計の発覚後、富士フイルムホールディングス(HD)から経営幹部などが送り込まれた。

 その後、社内で「富士ゼロックスが、なぜこの仕事をしているのか」という質問が繰り返されているという。同社は個を尊重した結果、多様なビジネスが生まれたが、社会貢献目的などのように現状では利益が低かったり、本業との関係が曖昧な事業も存在したりしていた。

 一方で別の社員からは「米ゼロックスとの統合で全世界をカバーでき、競合と真っ向勝負できる」という前向きな声もある。いずれにしろ立て続けの大きな変化は、企業を根本から変えうる。

 富士ゼロックスは長らく富士フイルムの子会社だったが、成長を支えた社風や企業文化はそれぞれで異なる。特に経済同友会代表幹事を務めた元社長の小林陽太郎氏に感銘を受けた社員が多く、独自の文化を作ってきた。小林氏が会長を退く頃に入社した30代社員の中にも「憧れている」と話す人もいる。

 小林氏の足跡は、モーレツ社会へのアンチテーゼとなった「ビューティフル・キャンペーン」や、TQC活動の推進、個の発想を重視した新しい働き方の提唱、売り上げ・利益だけでなく地域社会や環境、働く人への貢献も含めた「よい会社」構想など、現在の企業のあり方を先取りした。

 これが自由な雰囲気を作り、サービスへのシフトなど他社に先駆けたさまざまな提案が生まれ、堅調な業績を支えた。また一時期は就職先の人気上位企業で、優秀な人材を集めた。

 産業界を見渡せば、自由の尊重を成長に結び付けている企業は少なくない。例えば、米3Mには、会社のために役立つと思うならば、通常の仕事以外に15%を別のことに使ってもいい「15%カルチャー」がある。

 ヒット商品の「ポストイット ノート」や「マスキングテープ」などの誕生にも関係する。東レには、自由裁量で探索研究をする「アングラ研究」の文化がある。

 1月31日に公表された構造改革には国内外の営業や開発体制の再編、製品構成の見直しなどが盛り込まれており「抜本的に実施する」(富士フイルムHD)という。だが、効率の追求だけでは成長しない。米ゼロックスが好調だった時代に研究所から生まれた自由な発想も、結果的に他社で花開いたとはいえ、産業界に多大な影響を与えた。

 新たな成長に向け歩み始めた富士ゼロックス。構造改革の成果に加え、企業風土のあり方にも関心が集まる。
(文=梶原洵子)