後半国会は紛糾必至。平昌五輪が終われば国会審議への関心も高まる(写真:共同)

平昌五輪での日本選手大活躍で列島にあふれる歓喜とは裏腹に、安倍晋三首相の政権運営の前途に暗雲が立ち込めている。森友学園問題をはじめとするいわゆる"炭水化物疑惑"に加えて、首相が自ら名づけた「働き方改革国会」の中核となる裁量労働制導入に絡む不適切データが野党側の「絶好の攻撃材料」となりつつあるからだ。

森友問題では、国有地払い下げ交渉に関わる大量の財務省資料の公表で、昨年の通常国会において「資料はすべて廃棄」と繰り返した佐川宣寿財務省理財局長(現国税庁長官)の「虚偽答弁」の可能性がますます強まった。さらに裁量労働制の根拠ともなる厚生労働省のずさんな調査データは、首相を答弁撤回と陳謝に追い込む失態となった。

こうした騒動は今のところ、平昌五輪男子フィギアスケートでの羽生結弦選手の二大会連続金メダルや、スピードスケート女子500メートルの小平奈緒選手の金メダル獲得などメダルラッシュの陰に隠れ、新聞、テレビの報道も限定的だ。しかし、来年度予算成立後の後半国会は「もり・かけ・スパ」疑惑や不適切データ撤回問題によって、働き方改革関連法案など重要法案の審議は紛糾が必至だ。今後の展開次第では、9月の自民党総裁選での首相の3選にも影響が出かねないだけに、首相もいらだちを隠せない。

野党は「もり・かけ・スパ」の追及に勢いづく

前半国会の最重要課題である来年度予算案の審議は、21日に衆院予算委中央公聴会を開催することで、政府与党が目指す月内衆院通過・年度内成立にメドが立った。政権絡みとされる一連の疑惑など野党側は追及材料に事欠かないが、ここにきての世界同時株安などによる経済不安拡大で、野党も予算案を人質にした審議拒否はできず、結果的に審議が順調に進んできたからだ。

そうした中、野党側は国会審議で安倍晋三首相の泣き所とされる森友問題の追及に血道をあげている。野党第1党の立憲民主党は、加計学園問題やスーパーコンピューター事件も含めた政権絡みとされる一連の疑惑を炭水化物食品になぞらえて「もり・かけ・スパ」(辻元清美立憲民主党国対委員長)と名付け、1強首相に一太刀浴びせることを狙う。

これに対し、自民党は日本維新の会取り込みなどで野党陣営の足並みの乱れを誘うなど、手練手管を駆使してガードを固めるが、森友問題やスパコン事件での捜査当局の動きがなお見極めにくいこともあり、党内からは「炭水化物疑惑を早く収束させないと、後半国会での重要法案審議が厳しくなる」(国対幹部)と危惧する声が出始めている。

なかでも、国有地売却をめぐる森友問題は、財務省が値引き交渉に絡む新たな内部文書公表を余儀なくされたことで、佐川氏の虚偽答弁問題を含めて一段と疑惑が拡大した。ただ、政府は麻生太郎財務相らが「払い下げ価格の交渉記録ではない」と強弁し、佐川氏の国税庁長官への昇格も「適材適所の人事」(麻生氏)として野党側が迫る佐川氏の国会招致にも応じない構えだ。

森友問題は大阪地検が捜査中だが、昨年夏に逮捕された籠池泰典、詢子夫妻は半年以上も収監されたまま。永田町では「籠池夫妻が釈放されて色々しゃべるのを嫌う首相への当局の"忖度"では」(司法関係者)との見方もささやかれる。しかも、会計検査院が疑問視したように、同問題が国有地の不当な値引きによる払い下げとなれば、交渉当事者の近畿財務局も背任罪などに問われかねない。だからこそ野党側は佐川氏の国会招致を強く求めているわけだ。

「佐川カードを切ったら歯止めが利かなくなる」

与党内には「もはや佐川氏は隠しきれない。(国会招致を)どこかで決断しないと状況が悪化するばかりだ」(自民国対幹部)との不安が広がる。捜査を続ける大阪地検が国有地売却交渉に関わる多くの証拠を集めているだけに、捜査結果で佐川氏の虚偽答弁が立証される事態も有りうるからだ。

ただ、野党側は森友問題で佐川氏だけでなく籠池夫妻と親しかった首相の昭恵夫人、さらには加計学園問題で「首相の腹心の友」の加計孝太郎同学園理事長に対し、証人喚問を含めた国会招致を求めている。このため、自民党は「佐川カードを切ったら、次は昭恵夫人や加計理事長がターゲットとなり、歯止めが利かなくなる」(国対幹部)との不安から、当面、招致拒否を続けるしかないのが実態だ。

一方、東京地検が昨年12月に強制捜査に着手し、2月中旬までに立件したスーパーコンピューター助成金詐取・脱税事件にも、なお「政権絡み」の疑惑がつきまとう。野党側は「首相と親しいとされる元民放記者が、同事件の被告となったスパコン会社社長と組んで、政府側との仲介役を務めた疑いがある」などと追及を続けている。政府側は疑惑を完全否定しているが、「今後、公判などで東京地検の捜査が政権関係者にも及んでいたことなどが判明すれば、スパコン疑獄にもなりかねない」(公明幹部)との危惧も広がる。

こうした中で「政府の大失態」(自民国対)となったのが裁量労働制に関する不適切データ問題だ。首相は1月29日の衆院予算委で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁した。しかし、野党側から「データの根拠が疑わしく、ねつ造の可能性すらある」(共産党)などと追及され、政府部内での精査を前提に首相が2月14日に答弁を撤回する事態となった。

首相は20日の衆院予算委集中審議で「(厚生労働省が)性格の異なる数値を比較していたことは不適切だった」と謝罪し、官邸からの指示も否定した。だが、野党側は「働き方改革の目玉ともなる裁量労働制の根拠となるデータが不適切だったのなら、今国会での関連法案提出は許せない」(立憲民主党)と態度を硬化させている。

首相が「今国会は働き方改革国会」と位置づけ、関連法案の会期内成立に強い意欲を示してきただけに、首相サイドは「法案の本質には影響がない」と反論する。しかし、2月末に予定されていた関連法案の閣議決定・国会提出が、3月上旬以降に先送りとなる可能性も取沙汰されている。

そもそも、「裁量労働制導入が労働時間短縮につながるという話は通用しにくい」(厚労省関係者)のが実態だ。このため、永田町では「厚労省の担当者が、首相の意向を過度に忖度して無理なデータ抽出を行ったのではないか」と"1強政権の歪み"の影響を指摘する声も出る。

麻生財務相の失言に、江崎沖縄・北方担当相の入院

今国会は与野党対決法案が多く、佐川氏の国会招致も含めて「後半国会で与野党攻防が激化すれば、何が起こるか分からない」(自民国対)という状況でもある。それだけに、首相が目玉政策として打ち出した働き方改革法案の会期内処理が失敗すれば、政府にとっては大きな誤算で、「首相の総裁3選への悪影響も避けられない状況」(自民長老)となる。

振り返ると、森友問題に絡む大量の財務省資料が公表された9日は、五輪開会式の当日だった。3連休の始まる直前でもあり、「五輪報道によって、疑惑が大きく取り上げられるのを防ぐ思惑がミエミエ」(共産党)との批判にさらされたが、「政府がこうした姑息な手段に出るのは、国会運営への危機感の表れ」(自民長老)ともみえる。首相は総裁選出馬表明のタイミングを「緑が深くなるころ」と表現したが、後半国会が混乱すれば「真夏までの大幅先送りも検討せざるを得ない事態となる」(細田派幹部)ことも想定される。

16日にスタートした国民の税務署への確定申告に合わせて、東京など各都市で佐川氏の国税庁長官罷免を求める抗議デモが行われた。これについて、麻生財務相が19日の衆院予算委で、「立憲民主党の指導で街宣車がやっておられたという事実は知っている」と述べ、その後の同党の抗議で訂正するという失態もあった。

同日夜には江崎鉄磨沖縄・北方担当相が「軽い脳梗塞」で検査入院し、20日の閣議も欠席した。江崎氏は衆院予算委で「北方領土の日」を「沖縄北方の日」と言い誤るなど、就任以来、問題発言や答弁ミスが積み重なっており、永田町では「病気を理由に交代させた方がいいのでは」(自民国対)との声も広がる。

"逃げ恥"作戦なら首相3選への黄信号点滅も

9日の平昌五輪開幕以来、新聞・テレビの報道はオリンピック一色で、国会での与野党攻防など政治関連のニュースは片隅に追いやられている。従軍慰安婦問題による日韓関係悪化の中での五輪開会式出席という首相の勇断などで内閣支持率も上昇傾向にあり、安倍1強政権は表向き盤石とみられている。しかし、予算案の衆院通過が予定される月末以降は、国会攻防や自民総裁選絡みの政局にメディアの関心が戻ってくる。

"安倍1強"の構図は変わらないが、疑惑解明も進まず政権の失点が続く現状には首相も苛立ちを隠せない。政府与党は、政権運営を危うくする火種となる"炭水化物疑惑"について、「時間がたてば国民の関心も薄れる」という昨年来の"逃げ恥"作戦を続ける構え。だが、永田町では「このままの状態では政権がじわじわと追い込まれて、首相の3選にも黄信号が点滅し始める」(自民長老)との不気味な予言も出ている。