米国司法省は2月16日、2016年の大統領選へのロシアの介入疑惑を捜査しているモラー特別検察官が、ロシア側の13人の個人と3つの組織を起訴したことを発表した。

 捜査の核心は大統領選でのトランプ陣営とロシア側との共謀である。だが今回の起訴では、それらの事実はなくロシアの介入が選挙結果を変えた証拠もないことが明らかにされた。この捜査はなお続くが、今回の起訴は共謀の否定を明らかにした証左だとしてトランプ支持派から歓迎されている。中には、ロシア疑惑捜査は終わりの段階に入ったとの見解も現れている。

 米国の主要メディアはそれでも「共謀の疑惑は消えていない」との立場を変えていない。日本の主要メディアも米国の主要メディアの報道に従い、トランプ陣営とロシアとの共謀はないとされた点にはほとんど触れていないようである。だが米国の反トランプ陣営は今回の起訴の内容に失望をみせ、大統領攻撃の勢いはやや後退させられた観がある。

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ローゼンスタイン次官が発表した起訴の内容

 2月16日、この捜査を監督する立場にある米国司法省のロッド・ローゼンスタイン次官が記者会見して、起訴を発表した。発表の骨子は以下のとおりである。

・ワシントン大陪審は、モラー特別検察官の手続きを受けて、ロシアのセントペテルブルクなどに在住のロシア人ら13人とロシア企業3社を米国の刑法の詐欺、身分盗用、不正送金などの罪で起訴した。

・起訴された被疑者は、2014年6月頃から米国に対する秘密政治工作を実行した。大統領選の前段階の2015年頃には、民主党のサンダーズ候補や共和党のトランプ候補を支援する宣伝をした。

・大統領選挙戦が本格化した2016年になると、ロシア人被疑者たちは米国民を装い、ツイッター、フェイスブック、ユーチューブなどソーシャルメディアを駆使して、民主党のクリントン候補を攻撃し、共和党のトランプ候補を支持するメッセージを流した。

・今回の起訴の範囲では、こうしたロシアの犯罪行為に、実状を知りながら加わった米国民はいない。また、このロシアの違法工作によって米国大統領選挙の結果が変えられることはなかった。

 以上のように、ロシア側は米国民、米国組織に成りすまし、米国の有権者をだまそうとしていたというのだ。その過程でロシア側は一般の米国民に接触し、その政治プロパガンダを伝えた。そのなかにはトランプ選挙陣営の関係者もいたという。

崩された民主党側の主張

 だが、ローゼンスタイン司法次官は、今回の捜査と起訴の範囲内では「実状を知りながらこの違法活動に参加した米国人はいなかった」と強調した。要するに、ロシア側の工作の標的となった米国人はだまされており、自分たちにアプローチしてきたのは一般の米国人だと思っていた、というのだ。

 この点の意味は大きい。なぜなら、この発表に従えば「ロシア側とトランプ陣営が共謀した不正な選挙活動はなかった」ということになるからだ。

 モラー特別検察官の本来の任務は、「トランプ陣営がロシアと共謀して、大統領選挙の票を不正に動かした」という疑惑の捜査である。その疑惑が否定されたということだ。

 同時に、ローゼンスタイン次官が「ロシアの工作によって、米国の大統領選挙の結果が変わることはなかった」と明言したことも重みを持つ。民主党側の「トランプ氏はロシアの工作の力で不正に当選した」という主張を崩すからである。

 トランプ大統領はこの起訴に対して、2月17日に以下のようにツイートした。

「ローゼンスタイン司法次官は記者会見で『起訴状には、アメリカ人が故意に違法行為に加わったという主張はない。告発された行為が2016年の選挙結果を変えたという主張もない』と発言した」

「私が大統領選に出るよりずっと前の2014年にロシアのグループが活動し始めていたことをフェイクニュースが言いたがらないのは、なんて馬鹿げているのか。私でさえ知らなかった私の出馬を、あいつらは知っていたんだろう」

 共和党系の著名な政治戦略専門家であるジェフリー・ロード氏は、ロシアとトランプ陣営の共謀がなかったというローゼンスタイン次官の言明を根拠として、「この起訴の結果、モラー特別検察官の捜査は“終わりの始まり”を迎えた」と米国の複数のメディアに述べた。モラー検察官がここまで捜査を進めても「共謀」の事実が出てこないとなれば、やはりそんな事実がないのだろう、とも語り、捜査はもう終わりがみえてきたと総括した。

米国メディアは多様な立場から報道

 この起訴についての米国の主要新聞の伝え方は多様だった。

 トランプ政権への批判もするが全体として共和党寄りのウォール・ストリート・ジャーナルは、一面の記事の冒頭で、「この犯罪に、実態を知りながら加わった米国人はいない」という点と、「ロシアの工作が選挙結果を変えることはなかった」という点を強調しながら、ロシアの米国政治介入を厳しく糾弾した。

 また社説では「ロシアとの共謀がなかったことは、トランプ大統領にとって朗報だ」と述べ、「このロシアの違法活動が続いた2014年から2016年の間、オバマ政権のクラッパー国家情報長官やブレナン中央情報局長官は一体なにをしていたのか」と批判した。

 これに対して反トランプ政権の基調を続けているワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズは、「共謀がなかった」「選挙結果は変わらなかった」といった部分はほとんど無視し、「ロシア疑惑の捜査はなお続く」として、トランプ陣営への疑惑は決して消えていないのだ、という点を強調していた。

 ワシントン・ポストもニューヨーク・タイムズも、今回の起訴の発表自体は大きなニュースとして扱ったが、それに関する論評や解説が異様なほど少ない点も目立った。起訴の翌々日の2月18日の紙面ではこのテーマを取り上げた記事も評論もほとんどなく、起訴自体をさほど重視しないとも思える姿勢だった。同時にそれは、従来の一貫したトランプ大統領非難が一息ついたようにも受け取れた。

 日本の主要新聞のスタンスも、米国の反トランプ・メディアの姿勢に近いといってよい。だが、ロシア疑惑の今後を正しく読むには、やはり米国の両陣営の態度をみておく必要があるということだろう。

筆者:古森 義久