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労働生産性向上のためのデータ活用が
かえって現場に混乱をきたしている実情

 政府が「働き方改革」を推進する中、全国の企業では労働時間の短縮に務めると同時に、労働生産性の向上を図るため、データ活用による収益向上に取り組んでいる。

 しかし企業は、営業部門だけでなく、財務部門、広告宣伝部門、店舗などの売り場、EC部門などでそれぞれ異なったデータを保有しており、それを集めて分析したり、統合して活用したりしようと思うと、かえってそのための膨大な作業が発生する。

 そこで企業では各データを一元管理するため、マーケティング活動をIT技術によって自動化するツール、マーケティングオートメーション(MA)の導入を図っているが、導入するために必要な作業もまた膨大だ。

 そのためMA導入を図る企業のマーケターたちは、データ収集やデータ変換の作業に追われてしまう。マーケティング戦略を立てて実行するという本来の仕事ができず、データ活用で収益を上げるという目的も達成できていないのが実態だ。

 つまり、働き方改革を実践するにはデータ活用が必要だが、その仕組みを整える作業に負担がかかるため、なかなか企業のデータ活用が進んでいかないのだ。

 そうした状況の中で、ここ数年、大手企業が続々と導入しているサービスがある。それがフロムスクラッチというITベンチャーが3年半前に開発、発表した「b→dash」だ。

 「b→dash」は、企業が保有する膨大で多岐にわたるユーザデータ、広告データ、購買データなどのビジネスデータを一元的に取得・統合・活用・分析するSaaS型のマーケティングプラットホームで、AIによる解析で最適なマーケティング施策を割り出し、実行する工程までを自動化するというものだ。

 2014年10月にb→dashのサービスが始まって以来、導入に必要な作業にかかる労力と時間が少なく、使い勝手が良いことが支持され、キリン、日清食品、DeNA、ABCクッキングスタジオ、シダックスなど大手企業数百社が導入している。

 ベンチャーキャピタルもその将来性を見込んでおり、昨年には産業革新機構、Rakuten Ventures Japan Fundなどが32億円を投資。フロムスクラッチは累計で約45億円の資金を集めている。

 そのフロムスクラッチが2月5日、b→dashに4つのコア・テクノロジー(特許申請中)を実装するなど、大幅な改良を加えた「b→dash Prime Update」と、中小ベンチャー向けの新プロダクト「b→dash Lite」を発表した同社初の記者会見を取材した。

データ活用にかかる面倒な作業の
ほとんどを削減

 多数の取材陣が集まった記者発表の会場で、フロムスクラッチの安部泰洋代表取締役CEOは冒頭、膨大な作業に忙殺されているマーケターの実態とともにその問題点を提起し、その解決策として「b→dash Prime Update」を紹介した。

 今回のアップグレードで実装された4つのコア・テクノロジーとは下段のとおりだが、各項目で明らかにされた成果(数字)には目を奪われる。

●Data Preparation Engine(データ プリパレーション エンジン)

 データ設計の自動最適化を支援するデータ予測整形エンジン。これまでエンジニアがMA導入のために185時間かけて実施していた前処理工程を、AIによって自動最適化することで20時間に短縮。作業工数を80.3%削減。

●Data Reactor(データリアクター)

 過去累計3TBのデータ統合処理プロセスをAIが学習し、データ統合業務を自動最適化する技術。エンジニアが要していた133時間の作業が8時間に短縮。作業工数の94%以上を削減。

●Data Pallet(データパレット)

 データの変換時に必要だった「SQL業務」を不要にする、高速クエリ生成技術。エンジニアが要していた123時間の作業が1時間に短縮。作業工数の99%を削減。

●Data Learning Drive(データ ラーニング ドライブ)

 データの取得から統合、活用までをワンプラットフォームで学習し続けることで、チャネルや施策、タイミングを横断したプロモーションの自動最適化を行う。世界唯一の自己学習プラットフォームで、施策のPDCAサイクルを自動最適化する。

 上記にあるとおり、これまでマーケティング担当者が時間と労力をかけて行っていた導入にかかる作業のほとんどが自動化され、さらには社内にある雑多なデータ統合も、個々の顧客に向けた複雑なマーケティング施策も自動最適化されるという。

「b→dash Prime Update」を紹介する安部泰洋CEO(フロムスクラッチ提供)


 導入にかかる時間と労力が恐ろしく削減できたことは分かるのだが、ではb→dashを導入することで具体的にどのような効果があるのか。

 たとえば、ある企業でAさんというマーケターがいるとする。そのAさんが上司から「1週間後の経営会議までに、先月のプロモーションの結果をまとめておいてくれ」と頼まれたとすると、これまではAさんが営業部門からセールスデータをもらい、財務部門から売り上げデータをもらい、広告部からは広告測定データをもらい・・・というふうに、社内の各部門からデータを集める作業から始めなければならなかった。

 しかし各部門でデータが扱える人は1人いるかどうか。いない場合は情報システム部門(情シス)のエンジニアか、場合によっては外部の運用パートナーのスタッフにお願いしなければならず、データを収集するだけで時間と手間がかかる。

 そのうえ、集まったデータは種類がバラバラなので、それを綺麗に整理してまとめていく作業をする。これも相当に手間と時間のかかる作業だ。

 ここでようやく、データを活用してリポート作成作業に入るが、当然、この作業も時間がかかる。たった1つのリポートを作るのに、丸々1週間かかってしまうこともざらにある。

 ところがb→dashを導入すると、すべてのデータを統合して一元管理できるので、データ収集の手間もなく、さらに結果や表なども1クリックで出せるようになるため、わずか1時間程度の作業でリポートが作成できるようになるという。

 ただし、b→dashの狙いは作業時間と工数短縮ではなく、本当の価値は収集したデータから、次にどんな施策をすれば収益に結びつくのかを「ビッグデータ×AI」の技術で割り出し、最適なマーケティング施策を打つことで、収益向上に結びつけるところにある。

 たとえば、ある教育系の大手企業では、教室予約をした生徒の出席率が低下し、それが収益率低下の原因になっていた。

 通常なら社内のスタッフが一人ひとりにメールを送ったり、スタッフから電話を入れたりするなどして出席を促す施策をとる必要があるわけだが、なかなか顧客への個別対応をする余裕がなかった。

 そこでb→dashを導入したところ、予約を入れた後に欠席する傾向のある生徒を特定し、一人ひとりにどのようなタイミングでどのような内容の連絡を入れるのがいいか――メールがいいのか、LINEがいいのか、電話がいいのか――最適な手段を選び、さらに一人ひとり個別の内容とタイミングでメッセージを送るよう設定したところ、150〜200%も収益性が向上したという。

 また大手旅行会社では、b→dashが過去のデータをもとに、どの層に向けてどんな内容のメールを、どんなタイミングで送るかを割り出し、自動でメールを送るように設定したところ、メール経由での売上が従来のやり方の2倍以上になった。

 「b→dashは、労働生産性を、データテクノロジーで飛躍的に高めて、『働き方改革』を推し進めていくためのプロダクトです」

 b→dash開発に込めた思いを、安部CEOはそう力強く語る。

 同時にリリースした「b→dash Lite」は、「b→dash Prime Update」の機能を生かしつつ、中小ベンチャーに必要な機能に特化することで、簡易で安価な利用を可能にしている。その特徴は、^族舛法↓△垢阿法↓4蔽韻法△3つ。

 月額5万円から利用可能で、過去数百社のデータ活用により、導入から成果創出までの期間をこれまで91日から7日に短縮。

 エンジニアやデータサイエンティストがいない企業や部署でも扱えるほど簡単に扱えるものに仕上げたことで、これまでコストや工数、リテラシーなどの問題で、データ活用ができなかった中小ベンチャー企業にも、手軽に始められる内容になっているという。

 実際に「b→dash Lite」の作業手順を見てみたが、マーケティング施策を設定する作業も、メニューを選択するだけのシンプルな操作で設定ができるため、専門のリテラシーがない人にもすぐに使えそうだ。

 さらに、今後フロムスクラッチでは、アクセンチュア、電通、博報堂、サイバーエージェント、DeNA、NTTコミュニケーションズなど、大手企業12社とパートナーシップを結び、共同研究・提供を行っていくことも明らかにした。

 同じ発表会の席上には、タクシーや駅などで流される予定のCM動画に出演する、ブランドキャラクターの笑いコンビ「おぎやはぎ」も登場。

 データに翻弄されるマーケターの役を演じる2人の動画が披露された後、2人が撮影の秘話やサラリーマン時代の体験談を語る一コマもあり、「働き方改革が進むよう、僕たちも応援している」とのメッセージを送った。

人の手で追いつかない作業は
すべてAIに任せてしまえばいい

 記者発表会の後、安部CEO(最高経営責任者)への個別インタビューに臨んだ。

 まず聞いたのは、マーケティングのソリューションであるb→dashの開発を進める大きな目的として、「働き方改革」の推進という大テーマを掲げていることだ。

 これについて安部CEOは「働き方改革は、労働時間の最適化とともに、労働生産性向上の戦略をセットで考える必要がある。その戦略がないまま労働時間を削減するだけでは単なる働き方の“改善”であって、“改革”ではない」と語る。

 政府が推進している働き方改革の根本には、人口減少とGDP(国内総生産)の相関関係の問題がある。

 働く人が減少する中で日本経済を維持していくためにはどうすればいいか。解決策は大きく2つある。

 1つは労働人口を増やすこと、もう1つは労働生産性の向上だ。前者はどれも簡単ではなく時間もかかる。そこで後者の生産性の向上を図るため、政府がデータ活用を推進しているというのが現在の状況だ。

 「データを活用してソフトウエアによる自動化が進めば10人の仕事が1人でできるようになり生産性は10倍に上がる。仮にすべてソフトウェアがやれるようになれば人は不要となり、労働生産性はn倍、つまり無限大に上がる」(安部氏)

 しかし、前述したように、企業の現場ではデータ活用のためにかえって膨大な作業が発生し、現場に混乱をきたしており、それが現在企業の抱える“闇”となっている。

 なぜ混乱するのか。「リテラシーを持つ人材が少ないのに、データを駆使して収益アップを図りたいとの要請が急激に高まっている」(安部氏)からだ。

 「電通の女性社員の過労死も、まさにそうした現場の事情から生まれた悲劇だった。しかし私たちエンジニアからみると、データ活用に必要となる作業の多くは、言葉を選ばず言えば、“雑務”の範疇だ。そこにマーケティングの専門知識を持った作業員が張りつかざるを得ないのが現場の実情」(安部氏)

 フロムスクラッチでは設立後、しばらく企業のマーケティングに関するコンサルティングサービスを提供していたため、安部CEO自身も現場の仕事を見てきた。

 そして「これは本当に人間がやるべきなのか?」との疑問を持ち、まず自社で使うために自動化、簡易化のシステムを作ったのが始まりだったという。

 その自動化プログラムを使うことで、顧客企業にリポートを提出する時間を大幅に短縮することができ、驚いた顧客から「うちにもそのシステムがほしい」と相談され、プロダクト開発を開始。2014年10月に企業導入をスタートした、というのがb→dash開発の経緯だ。

 ちなみに、今回の大規模アップデートにより、もっとも面倒で時間を要するSQLというデータ変換と加工作業は、99%削減に成功している。

 「ここまでの改良を進めてこられたのは、作業に振り回されて疲弊しているマーケターたちに本来の仕事――マーケティング戦略を立ててPDCAを回し、さらに効果的なマーケティング戦略を考える――をしてもらいたいという思いからだ」(安部氏)

 「b→dashとは何かと聞かれたら、24時間365日働くマーケターでありデータサイエンティストだと思ってもらえばいいと答えている」

 「AIは疲れないし、どれだけ働かせても『辞めさせてくれ』とも言わない。それどころか最適なマーケティング施策を提案してくれるほか、実行管理までしてくれる」(安部氏)

 一方の「b→dash Lite」のサービスを提供する目的とは、中小ベンチャーにも「データ活用」を促すことにある。

 「中小企業の場合、そもそもデータを扱うためのリテラシーを持つ人が不在で、データ活用ができていないところが多い。作業工数の削減というより、データ活用を取り入れることによる収益性アップに貢献できる」(安部氏)

 これまで月額30万円だったサービスを月額5万円〜というリーズナブルな価格に設定できたのは、「b→dash Prime Update」から中小ベンチャー企業の成果につながる機能のみに機能を絞り込むことで実現したという。

 とはいえ搭載されているAIは「b→dash Prime Update」であることに変わりがなく、収益を向上のための最適なマーケティングプランを提案してくれる精度に違いはない。

 スマホにアプリを入れる感覚で手軽にダウンロードでき、あとは案内動画だけで誰でも使える程度に使いやすいものになっている。

 社員数数十人のあるベンチャー企業では、それまでマーケティングといえばメールを送りまくるだけだったが、「b→dash Lite」を導入したことでどのような層に、どのタイミングで、どの内容のメールを送るか、といったシナリオに添ったマーケティング施策を行えるようになり、1回のメールによる施策による売上は2倍になったという。

 「これまでデータを活用していなかった企業がデータを活用すれば、簡単に1.5~2倍の収益アップを見込める」(執行役員 三浦將太氏)

 b→dash Liteはこれまでデータ活用に縁のなかった中小ベンチャー企業の現場に、「ビッグデータ×AI」のシステムによるデータ活用の道を切り開き、働き方改革の裾野を広げるのに有効なツールだと安部CEOは言う。

 ただし、b→dashはそれまでデータを蓄積してきた企業では効果を発揮するが、WEBやメールを利用したマーケティングを全くしていなかった企業では、元になるデータがないため、利用することはできない。

マーケティング分野以外の領域にも広がる、
データテクノロジーの活躍

 フロムスクラッチ創業からマーケティング分野で事業を展開してきたが、マーケティングに領域を限定しているわけではない。「b→dashは私たちにとってファーストステップだ」と安部CEOは言う。

 「当社はデータ統合技術、データ高速処理技術、人工知能(AI)技術をコアコンピタンスとするデータテクノロジーカンパニーであり、データドリブンになっていくこれからの社会で、さまざまな事業領域で私たちの技術力を生かしていきたい」(安部氏)

 たとえば生産の現場なら、職人技と言われる技術をAIが学習して再現する技術や、医療の現場でカルテのデータと過去の症例をAIが照合することで、医師の技量にかかわらず、正確な見立てと治療方針を提示する技術なども実現可能だと言う。

 しかし、当面の目標は、マーケターの仕事環境の改善を促すためにより多くの企業にb→dashの導入を進めることだ。課題は大手企業の経営陣にデータ活用経営の重要性を理解してもらうことだという。

 「日本の大手企業では優秀な人が多いため、経営層の方々にはデータ活用の重要性をいまだにご理解いただけないことが多い」

 「データ活用による労働生産性の向上は収益性を確保するだけでなく、専門スキルを持った人が本来の重要な仕事に専念すること。それが働き方改革につながるということを伝えていきたい」(安部氏)

 それはデータを活用すれば必ず収益性がアップするという確信を持っているからだが、逆にデータが活用できなければ、これからの企業経営は危ういという意味もある。

 このことに関して、執行役員の三浦氏は「少し前にユニクロがウエブでの売り上げを全体の30%に伸ばすことを目標に掲げている。これは、従来のような店舗型の販売ではもう利益率を上げることはできないということを示唆している」と語る。

 つまり、店舗を構えてそこに教育を受けた人を配置し、商品を販売するというものの売り方自体が非効率になっているということだ。

 「その意味で、働き方改革の本質とは、人員や残業を減らすなどのコスト削減による効率化のことではなく、儲け方そのものを変える“儲け方改革”だ」(三浦氏)

 効率的に売り上げを上げる新たなビジネスモデルを構築するには、情報ツールの活用が不可欠。「だからこそすべての企業がデータにもとづいたデータ活用経営に切り替える必要がある」と安部氏も言う。

 最近では、AIと人間が仕事を奪い合う対立関係で語られることが多いが、人口が減少し労働人口が減っていくこれからの日本には、経済力を維持していくために労働生産性を向上させることが大命題となる。

 もはやAIを使うかどうかではなく、いかに有効に活用するかが企業に問われているようだ。

(おわり)

筆者:大島 七々三