証券取引等監視委員会の委員がパブコメを寄せるのは異例中の異例(撮影:尾形文繁)

東芝のバイセル取引などが見逃される状況を考慮すれば、最終的な顧客以外の他の当事者に対して計上した売上高、売掛金を注記事項とすることも有用である」(太字は記者注)

昨年秋に提出されたパブリックコメント(以下パブコメ)が関係者の間で注目を集めている。このパブコメの主が「公認会計士・浜田康」。すなわち、証券取引等監視委員会(証取委)の浜田康委員だからだ。

企業会計基準委員会(ASBJ)は、会計基準の新設や改定をする際、原案を公開し、広く意見を募集するパブコメを行う。会計士や弁護士、大学教授などの識者や、企業から寄せられたパブコメを参考にしたうえで新たな基準を最終決定している。パブコメは、意見の内容だけでなく、個人や法人の実名や所属・肩書も公開される。

浜田委員のパブコメは、ASBJの「収益認識に関する会計基準(案)」という公開草案に対するコメントだ。

前委員長は立件に意欲的だったが

バイセル取引とは有償支給取引とも呼ばれるもので、メーカーが製品の加工を製造委託先に委託する際に、必要な部材をいったん販売した後、加工後に買い戻す取引のことだ。

2015年に不正会計が明るみになった東芝は、台湾のODM先(開発段階からの製造委託先)との取引で、このバイセル取引の会計処理を悪用した。ODM先への販売価格を帳簿上操作することで、パソコンの製造・販売で625億円の利益をかさ上げしたことで知られる。東芝の不正会計の4割を占め、当初注目されたインフラ関連工事の不正額よりも多額だった。

証取委は佐渡賢一氏が委員長だった2016年に、粉飾を指示したとみられる東芝の歴代社長立件の可能性を模索した。誰よりも東京地検特捜部出身の佐渡委員長が並々ならぬ意欲を持っていた。


2016年12月、退任の挨拶をする佐渡賢一・証取委前委員長(撮影:梅谷秀司)

ただ、「必要な部材を有償支給するバイセル取引自体はありふれたもの」とする東京地検の現役検事と、「毎四半期末に不自然に集中するバイセル取引は通常の取引ではなく粉飾目的以外の何物でもない」とする佐渡委員長との見解の溝は埋まらなかった。

佐渡氏は2016年末に退任。後任の長谷川充弘委員長は就任時、「(東芝の)資料は前委員会からすべて引き継いでいる」と歴代社長への調査継続を示唆していた。

だが、就任から1年強が経った現在、証取委は東芝の歴代社長の立件を金融庁に勧告するには至っていない。

前代未聞のパブコメの真意は何か

浜田委員は1952年生まれ。早稲田大学理工学部を卒業後、公認会計士試験に合格した異色の人物だ。中央青山監査法人、あずさ監査法人を経て、2015年に青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授に就任した。

教授時代の2016年に著した『粉飾決算』で東芝の不正会計を分析。問題となったバイセル取引について、「監査人が問題視した形跡がない」「監査人が本当に(不正を)知らなかったとすると、ほとんど監査らしい監査をしていなかったからではないか」「実態を監査人が『見ている』にもかかわらず、適切な監査になっていない。同じ公認会計士として暗澹たる思いだ」などと書き、注目を集めた。

浜田委員はこの著書の出版後、2016年末に委員に就任。東芝の不正会計を鋭く批判する専門家の委員会入りで、「歴代3社長の立件に本腰を入れるつもりなのでは」と就任当時に注目を集めた。

証取委の現役委員がASBJにパブコメを寄せるのは前代未聞である。浜田委員は、証取委の事務局に事前報告や調整などはしていないようだ。浜田委員自身、パブコメはこれが初めてという。

前代未聞のパブコメであえて東芝のバイセル取引に言及した真意は何か。不正会計を指示したと見られる歴代3社長のうち西田厚聰氏は昨年12月8日に死去したが、佐々木則夫氏、田中久雄氏はまだ生きている。

佐々木氏や田中氏の立件は本当にありうるのか。上場廃止の危機が遠のき、東芝の不正会計への関心も薄れつつある中、浜田委員のパブコメは少なくとも事件の風化を押しとどめる意味はありそうだ。