2月15日の社長交代会見に登場した、日本電産の永守重信会長兼社長と、次期社長に指名された吉本浩之副社長(写真:共同通信)

「創業以来の大波が来ている」。モーター大手、日本電産の永守重信会長兼社長は今年1月、興奮した様子でそう語っていた。自動車業界は電動化にまい進し、ロボット市場は広がっている。家電にも日本電産のモーターが数多く採用されるようになってきた。同社の稼ぎどころが急激に増えてきたのだ。

そんな大波を前に意気込む中、永守氏は社長の座を譲ることを決めた。2月15日、後任には車載事業を率いる吉本浩之副社長が就くことが発表された。6月の株主総会を経て正式に就任する予定だ。永守氏はCEO(最高経営責任者)の職は継続し、吉本氏はCOO(最高執行責任者)に就く。創業から45年、日本電産は新たなステージに進む。

1973年に永守氏など4人の手で立ち上げた日本電産は、HDD(ハードディスクドライブ)用モーターなどで急成長してきた。数多くのM&Aも手掛け、2014年度には売上高で1兆円の大台を突破し、2017年度は1兆4500億円を見込む。

永守会長は大学の理事長にも就任

そんな成長期のまっただ中で、永守氏はなぜ社長職から離れるのか。背景には、2018年3月に永守氏が京都学園大学理事長に就任することがある。私財を投じて2020年に工学部を新設するなど、日本電産で活躍できる人材を育成したい考えだ。


日本電産は創業から45年が経過、今や1兆円企業へと成長した(写真は京都本社、編集部撮影)

社長職を吉本氏に譲り、日本電産の仕事のうち3割を吉本氏に渡す。空いた時間の3分の1を大学理事長の職務に充てる。残りの3分の2の時間は、これまでやりたくてもやれなかった仕事や新たな課題に取り組む時間に割くという。

「1兆円企業になった2015年の時点で、まずは社長職(COO)のみ後継に譲りたいと思っていた」。社長交代会見の場で、永守氏はそう明かした。「当社は同族企業を否定しているので息子には譲らないが、中長期の高い成長を持続させるために同世代の若い人が必要だった。後継人材の決定が計画より3年遅れたが、吉本という実績を伴った若く意欲的なプロ経営者が出てきた」。

その言葉通り、吉本氏に白羽の矢が立った理由は2つ。実績と年齢だ。永守氏が”若いプロ経営者”と呼ぶ吉本氏は、現在50歳。その経歴は華々しい。大阪大学卒業後、日商岩井(現・双日)に入社。その後は日産系の自動車部品メーカー、カルソニックカンセイで再建の実績を作った。日産自動車へ移るとタイ現地法人社長などを務め、2015年に特別顧問として日本電産に入社した。

入社からわずか2カ月で、吉本氏は傘下で自動車の変速機用コントロールバルブなどを手掛ける日本電産トーソクで社長に就く。営業利益率10%以下は”赤字”と見なされる日本電産グループの中で、約1年というスピードで日本電産トーソクを”黒字化”させ、その手腕が認められた。

「自分がその年齢のときに何をしていたか」。現在73歳の永守氏が後継者を考える際に重視していたことだ。たとえば日本電産が上場した1988年、永守氏は41歳。当時の売上高は300億円だった。しかし吉本氏は40代で、2010年から当時売上高6200億円のカルソニックカンセイの専務を務めていた。1兆円企業となった日本電産の船頭を任せるには、大企業の経営経験が必須要件だったのだ。

そんな吉本氏が自らの経験を基にあぶり出したのが、日本電産の抱える2つの課題だった。


吉本次期社長が率いる車載事業を成長させるべく、日本電産は仏自動車大手グループPSAと車載モーターの合弁会社設立を発表。2017年12月の記者会見では"永守節"が炸裂した(撮影:風間仁一郎)

1つは、大企業病だ。「オペレーションの海外シフトの進展に伴って、スピード感にばらつきがある」と吉本氏は指摘する。規模を追い求めると同時に、中小企業のような俊敏さを持つ必要があると見ている。

もう1つが、海外との対話である。日本電産の場合、2000年以降に海外企業の買収が一気に増えた。直近では仏自動車大手グループPSA(プジョーシトロエン)と車載モーターの合弁会社設立を発表している。「現場に入り込み、グローバルなコミュニケーションを丁寧にとっていきたい」と英語が堪能な吉本氏は意気込む。

2030年10兆円達成までは「辞めない」

永守氏と吉本氏の2人がその先に見据えるのが、「2030年売上高10兆円」の目標だ。記者会見で永守氏が強調したのが、「自分が辞めるわけではなく、会長兼CEOとして引き続き2030年の10兆円達成まで経営の舵を取る」ということ。ただますますグローバル企業になるグループの経営は分担が必要だ。「(吉本氏には)海外関係、特に買収企業のPMI(買収後の融合)を中心に任せたい」という永守氏は、「将来的にはCEOの引き継ぎも考えている。後継者を自分以上に育てるのが最大の責務」とも話した。

今後吉本氏は、シャープで会長職を務めた片山幹雄副会長兼CTOなど、年長の経営陣にそれぞれの得意分野を任せ、集団指導体制で率いることになる。創業者の剛腕で業績拡大を続けてきた日本電産にとって、スピード感と集団指導体制を両立させるのは、経験したことのないシステムであり時に相反する。

日本電産で重視されるのは、何よりも実績だ。先述の通り、それこそが吉本氏の抜擢理由であり、永守氏の期待も大きいだろう。その期待に沿えない場合、体制が変わる可能性もある。それだけ、「永守会長の後継」という責任は重い。