高学歴・高収入・男性に引けを取らない仕事への情熱。

都内の高級エリアに住み、欲しいものは何でも自分で買うことが出来、食事は本当に美味しいものしか食べたくない。

にゃんにゃんOLのように自分の生活を誰かに変えてもらおうと、必死で結婚相手を探す必要もない。

そんな無敵のような女に訪れた苦難。あなたは、どう感じるだろうか?

上司から突然NYへの赴任辞令を言い渡された可奈子(34)。子供を欲しがる夫・清との話し合いは難航したが、最終的には単身NYへ赴任し、仕事をしながら限られた環境の中で子作りにも取り組んでいこうとなり、可奈子は日本を後にした。

今回は夫である清が、妻の海外赴任について語る。




最終的には、可奈子の希望を全て受け入れた清だったが、この一ヶ月間は清にとって青天の霹靂のような日々であった。

可奈子の出発の日、オフィスで清はこれまでのことに思いを馳せていた。

可奈子から「帰ったら重大な話がある」とメールを受け取った日、妙な胸騒ぎがしていた。

そして、実際に可奈子の口から辞令の通りNYへ行くつもりだと聞かされた時、頭の中が真っ白になったことを今でもよく覚えている。

自分は可奈子のことを一番理解しているつもりでいたが、実は全くわかっていなかったのだと気付いたからだ。


僕は可奈子のことを、ちっとも理解していなかったのか?


「実は今日、異動の内示が出たの。それでね、異動先がNYだったの。」

そう言われた時、僕はてっきり可奈子がその辞令をどうやって断るかについて相談しようとしているのだと思っていた。

それが、想像に反して、行くつもりでいると聞かされ、一体何を言っているのかと、可奈子のことがわからなくなった。

可奈子が仕事に一生懸命なのはよくわかっているし、パートナーとして最大限それを支えるのが僕の役目だと思っている。

だけれど、それよりも前に家族を優先させることが、お互いの前提条件じゃないのか?僕のために日本にいてもらう必要があるとは思わないが、子供については一体どう考えているんだ?

僕が想像していた、二人で考えているはずの夫婦のあり方と、可奈子の考えるものは違ったのだろうか?




そもそも可奈子がそこまで、海外駐在をしようとする気持ちが正直理解出来なかった。

実は僕自身も、数ヶ月前に海外赴任を打診されていたが、可奈子に相談することなく断っていた。

海外になんて行かされたら、仕事を続けたい可奈子と離れ離れになってしまう。これから子供を作っていこうと考えている僕ら夫婦にとって、いい決断とは思えなかった。

僕はそこまで海外駐在に興味がなかったし、海外に行く事がキャリアを追う上での必須条件とも思えなかった。

考えれば考えるほど、可奈子は一体何に縛られているのか?と理解に苦しみ、可奈子の訴えを受け入れる事が出来なかった。

「子供のことを最優先するべき」

そう主張したのは、本当は僕と同じように考えているはずの可奈子が、どうしてもNYに行かなければいけないという、会社への義務感を感じているのだと思ったから。だから夫として、その誤解を解いてあげる必要があると感じたのだ。

だが翌朝、冷静になってみると、そもそもこれまでの可奈子に対する自分の理解そのものが、間違っていたのではないかと不安になってきた。

二人が結婚することを決めた後、可奈子に子供が欲しいかを尋ねた事があった。

「清とだったら…欲しいと思う。でも私は、世間一般の女性ほど子供への執着がないのかもしれないって思う。もし、私がすっごく子供が欲しいタイプの女性だったら、この歳になる前にもっと必死になって結婚したはずだしね…

実は、結婚したいともずっと思ってなかったんだ。独身っていうだけで周りから可哀想がられるストレスがあったから、なんとなく結婚しないとなって思ってたけど、正直それ以外に結婚したい理由が見つけられなかったっていうか。」

可奈子はそう言って、最後にこう付け加えた。

「でも、清と出会って初めて幸せな結婚生活が想像出来たよ!きっと家族が出来たらもっと幸せなんだろうなって思う!」

僕はこの言葉を、可奈子は今まで結婚・出産への憧れをあまり持っていなかったが、僕と出会ったことによってようやく、人並みの執着を持ち始めたのだと解釈していた。

男も女も異性に言われた言葉については、まあ、不思議なほど自分に都合良く解釈ができる生き物なのだとつくづく思う。

可奈子がお母さんを夢見るタイプの女性でないのは、結婚する前から明らかにわかっていた事だ。

自分も結婚相手を探している段階では、母性よりも知性のある女性に惹かれたことは否定出来ない。

きっと可奈子は僕が考えていたほどには、この結婚によって考えが変わった訳ではなかったのだろう…

そんなことを考えていた矢先に、可奈子から電話がきた。


遠距離になった時こそ夫婦の絆が試される?


「今ね、NYの件で橘さんと話したよ。海外に行っても子供は諦めなくてもいいって言われたの。会える機会が少なくなるから、可能性は低くなっちゃうけど…

でも、有給使って出来る限り帰国するから、そうやって二人で子作りにも励んでいくっていうのではダメかなあ?」

嬉しそうなトーンを努めて抑えながら、申し訳なさそうに可奈子は言った。

可奈子は可奈子なりに、僕の理想と自分の理想を最大限叶えられる方法を考えているようだ。

なんでこの辞令にそこまで拘るのか理解しきれてはいないが、今はこれで十分だろう。

可奈子を生涯幸せにすると誓って結婚したのだ。男としてその約束を守る必要がある。自分の理想を押し付けても彼女が幸せになるとは限らない。

「そっか。わかったよ。とりあえずそれだったら僕の一番の心配は解消されたよ。後は、二人でどうやって会う回数を増やしていけるか、色々考えていこう。」

それだけ言って電話を切った。

―結婚なんていうのは一種の不平等条約のようなものなんだよ。ー

昔、上司にそんなことを言われたのを思い出した。

「夫婦でゴルフをしていても、嫁のボールがOBになったら僕が探しに行くのに、僕のボールがOBになっても、嫁は当たり前のように気にせずプレーを続けているからね。」

その時はなんて小さいことを言う人なんだ、と思ったが、今思うとあれは例えのひとつであって、基本的にはそういう合意のもので物事が進んで行くということを言いたかったのだろう。

実際に僕は常に可奈子の心配をし、可奈子は自由奔放に生きていく。

それでも僕は一人でいた時とは比べものにならないほど、幸せだと感じてしまうのだから仕方がない。

可奈子がNYへ行ってしまった今、また元のように週末の大半を会社で過ごす生活に戻った。

可奈子は毎晩、オフィスの会議室から僕にLINE電話をかけてくる。

その電話で、これまでより1時間ほど早く目覚めている。お互いの顔を見ながら、毎朝1時間程度電話で話してから出社する生活になった。

日本で一緒に暮らしていた時よりも、毎日たくさん話している気がする。

月末には、可奈子と有給を合わせてカリブに行く予定だ。




最初こそ離れて暮らす事に不安を感じもしたが、始めてみるとこれはこれで夫婦の絆が確認出来て楽しい部分もある。

会社の同僚に、妻に会いにNYまで行ってきます、と言うのもそう悪くない気分だ。

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