一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、彼を忘れるためにハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

ワインスクールで知り合った、外資系証券会社で働くユウスケの財力とハイスペックぶりに目が眩んだ瑠璃子。しかしクラスメイトから、彼にはある秘密があると忠告されてしまう。




瑠璃子は、ワインスクールのクラスメイトであるアキと麻布十番の『カラペティ・バトゥバ』に食事に来ていた。先日アキが放った一言が、ずっと心につかえていたのだ。

―ユウスケさんの本当の正体、知りたい?

結局あの日は聞きそびれてしまったが、今日こそ真実を聞き出そうと、少しそわそわしながらこの日を迎えた。

あれからユウスケとは、変わりなく連絡を取り続けている。パリに行っていた彼は、帰国するなり空港から瑠璃子にLINEをくれたのだから、彼も瑠璃子のことを気に入っているのだろう。

「高級スポーツカーで、フランス縦断ワイナリー巡りしてきたよ!」
「腕時計を家に忘れてきちゃったから、現地で買ったんだ。毎日ヴァンドーム広場のジュエラーに通いつめていたら、すっかり顔を覚えられたよ!」
「ホテル“ル・ムーリス”のバーに飲みに行ったら、一流ブランドのデザイナーが居合わせて、すっかり仲良くなったよ。今日も“ユースケ、サヴァ?”なんてメールが来ていたっけ!」

―たしかに、言われてみたらすごい自慢のオンパレードかも…?

前は全く気にならなかったはずなのに、アキに言われてからはやたらと不自然に飛び出す固有名詞が鼻につく。

「それで…アキ。ユウスケさんの話なんだけど、この間の続き聞かせてもらえないかな?」

瑠璃子は何かを祈るような気持ちで尋ねる。するとアキは小さく笑って、語り始めた。


ユウスケは、ただの自慢男ではなかった…!?


「私、ワインつながりで、ユウスケさんとは共通の知り合いが何人もいるのよ。それで、色んな人から聞いた話なんだけど…」

そこから彼女が話してくれた内容は、どれも瑠璃子には信じがたい話ばかりだった。

俳優のNと親友だと吹聴しているが、実際は行きつけのワインバーが同じなだけで、俳優とは一度軽く飲んだことがある程度。ユウスケの飲み友達は、彼らが親しくしている様子を未だかつて一度も見たことがないそうだ。

さらには、ユウスケの家に行ったことのある友人の証言によると、たしかに高級タワーマンションには住んでいるが、ワインセラーは40〜50本入りのタイプだったらしい。200本入りのセラーだと聞かされていた瑠璃子は、目を丸くした。

そして極めつけは、ハリーウィンストンをねだり、ルイ・ヴィトンを列買いさせたという伝説の元彼女についての話。

「実際ユウスケさんって、かなり長いこと彼女はいないらしいわよ。その“元カノ”とも付き合っていたどころか、2、3回デートしただけなんだって。

その女の子曰く、一度ルイ・ヴィトンに連れていかれて携帯カバーを買ってくれたらしいんだけど、列買いなんてとんでもないみたい」




一体、これはどういうことなのだろう。瑠璃子がアキの話を飲み込めないままポカンと口を開けていると、アキは笑いを堪えながらこう言った。

「わかった?ユウスケさんは、単なる自慢男じゃないの。つまり、“全ての話を5倍に盛る男”なのよ!」

-そうなんだ…。でも“正体”だなんてちょっと大げさじゃないかしら。話を面白おかしくするために誇張するのは誰でもすることだし…。

瑠璃子は戸惑ってオロオロする。そのときテーブルの上でスマホが振動した。誰かと思えば、噂のユウスケからLINEだ。

-瑠璃子ちゃん、ついさっきあげてたインスタみたよ!今『カラペティ・バトゥバ』にいるの?今、俺も十番で飲んでるんだ。友達と一緒にいるから、よかったら合流しない?

少し迷ったが、アキから衝撃的な話を聞いたばかりで、今はまだ頭の整理がつかない。瑠璃子は、もう食事も終えて帰るところなのだと、断りの返信をした。

-1杯だけでいいからおいでよ!IT企業経営者と、シンガポール帰りの商社マンと飲んでるよ!超優秀な男たちだから君たちに紹介するよ。

ユウスケの友達が優秀かどうかなんて、正直言って全く関心がない。困惑した瑠璃子がアキにそのことを告げると、アキはいたずらっぽく笑って言った。

「面白そうじゃない。瑠璃子もまだ信じられないみたいだし、ユウスケさんの正体、この目で確かめに行こうよ」



バーにつくと、ユウスケが二人に気がついてヒラヒラと手を降った。

瑠璃子とアキは席につき、ウーロン茶をオーダーする。すでに二人でワインをボトル一本分飲んでいたので、今夜はもうお酒を控えることにしたのだ。

ユウスケは嬉しそうに二人の男友達のことを紹介してくれた。

「彼らとは高校からの仲間なんだ。こっちの彼はミッドタウンのオークウッドに住んでいて、えーと、家賃はいくらだったっけ…」


ユウスケは本当に“話を盛る男”なのか!?




聞いてもいないのに、男たちはマンション名や家賃まで語り出し、瑠璃子は思わずぎょっとした。アキは瑠璃子に目配せし、その瞳には“始まったわよ”と書いてある。

「いやいや、俺の家賃なんてユウスケに比べたら大したことないよ。ユウスケは俺たち同級生の中でも一、二位を争う高給取りだからな。ボーナスの金額、いくらだったっけ」

「いやいや、この業界も昔に比べたらすっかり落ち込んだからなあ。ま、3,000万くらいってところですかね」

こんな調子で次々と数字が飛び交う男たちの会話を黙って聞きながら、瑠璃子は呆気に取られていた。

-ボーナスの金額が、3,000万?次元が違うわ!…でも普通、こんな風に金額を人前で口にするかしら…。

結局瑠璃子とアキに話がふられることは一度もないまま、男たちの自慢大会は幕を閉じた。

「あの…私たち、明日も早いからそろそろ失礼するね」

するとユウスケは、拍子抜けした顔で、もう帰っちゃうんだ、と残念そうに言った。

「そっか、またあらためて飲もうね。じゃあ二人はウーロン茶代、ひとり1,200円ずつお願い」



結局、ユウスケが話を盛っているか否かは、その場では見破ることはできなかった。麻布十番商店街を歩きながら、アキはどっと疲れた顔で吐き捨てるようにつぶやく。

「あー、疲れた。それにしても、ボーナス3,000万を自慢する男が、ウーロン茶代をきっちり100円単位まで請求するとはね。自慢したなら奢ればいいのに、カッコ悪い。どうせボーナスの金額も、4倍とは言わないけど、2倍くらいは盛ってるんじゃない」

そしてアキは、友人から聞いた話の続きを語ってくれた。

ユウスケが高校に入学してから仲良くなったのは、小学校からの内部進学組が多かったらしい。内部進学組は全員ではないものの、非常に裕福な家庭の子が多く、いつもつるんでいるメンバーの中で親がサラリーマンなのは、ユウスケくらいだった。

ユウスケは、生活レベルが全く違う彼らについていくためとにかく必死で、その頃から「話を盛る」クセがついてしまったようなのだ。

外交的な性格と口のうまさが功を奏して、就職してから仕事も順調だ。そして自分を良く見せれば見せるほど、上司から気に入られ、評価も上がっていく。

今となっては社会的に成功し、十分な年収を稼ぐユウスケ。今さら見栄をはる必要なんてもうないはずなのに、自慢をしてさらに話を盛るクセがどんどん悪化していったようだ。

「でも勤務先と肩書きには嘘はないみたいよ。ハイスペなのは間違いないから、瑠璃子がよければそれでいいんじゃない?」

アキはそう言って笑う。でも、瑠璃子が今後、ユウスケとクラスメイト以上の関係になることはないだろう。

どこからどこまでが本当の話なのか結局分からないままだが、それだけは間違いないと、瑠璃子は確信するのだった。

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ちょっと話が噛み合わない。ボンボンすぎる男。