銀座三越(「wikipedia」より)

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 筆者は消費動向を探るために、さまざまな店舗を訪れる。百貨店も例外ではなく、買い物の予定がなくても定期的に足を運ぶようにしている。百貨店内のあちこちを見て回り、何が売れているのか、消費者は何に注目しているのか、といったことをつぶさに観察している。

 百貨店では、伊勢丹と三越によく足を運ぶ。特によく訪れるのは、伊勢丹新宿店と銀座三越の2店舗だが、両店舗の2017年の客の入りは16年よりも多いように感じた。

 伊勢丹新宿店は巨大で圧倒的な売上高を誇る店舗だ。本館とメンズ館があり、店舗面積は6万5976平方メートル(17年4月1日時点)で東京ドーム1.4個分の広さにもなる。特にファッション関連が強く、百貨店のアパレル不況が叫ばれるなかでも、同店に関してはどこ吹く風といわんばかりに、いつも盛況だ。ファッション関連以外も好調のようで、17年の客の入りは16年よりも多いように感じた。

 銀座三越は、近くにJ.フロントリテイリングが展開する大型商業施設「GINZA SIX」ができて客を奪われているかと思いきや、GINZA SIXと共存するかたちでそれなりに盛況を見せている。筆者が銀座三越を訪れた時は、地下の食品売り場は客で溢れかえり、化粧品コーナーや宝飾品コーナーでは裕福そうな身なりの人や訪日外国人らしき人が商品に群がっていた。やはり、17年の客の入りは16年よりも多いように感じた。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)の業績不振が伝えられるなか、伊勢丹新宿店と銀座三越の状況は意外な感じがしていた。三越伊勢丹HDの17年3月期の売上高は、前期比2.6%減の1兆2534億円。売上高は長らく同程度の水準で推移し、成長が止まっている状況だ。三越伊勢丹HDは08年4月に三越と伊勢丹が経営統合して誕生したが、統合直後の売上高(1兆4266億円)と比べると12.1%も減っている。

 最終的な儲けを示す純利益は近年、減少傾向を示している。17年3月期は前年比43.5%減の149億円。売上高に占める割合はわずか1.2%となっている。いつ赤字に転落してもおかしくない状況にあるのだ。

●三越伊勢丹の好調さの裏側

 そうしたなか、三越伊勢丹HDが1月31日に発表した17年4〜12月期決算が、前述の2店舗の客の入りをそのまま反映したかのような内容となっていた。売上高が前年同期比2.3%増の9517億円、本業の儲けを示す営業利益が13.1%増の222億円だった。増収・営業増益で、前年同期よりも良い内容となっていたのだ。

 伊勢丹新宿店と銀座三越の好調さは、両店舗の業績にも表れている。前年割れを起こしている店舗が少なくないなか、17年4〜9月期の伊勢丹新宿店の売上高は前年同期比2.7%増の1261億円だ。銀座三越に至っては同8.6%増の408億円と、大幅な伸びを示しているのだ。

 背景にあるのは株高による資産効果と訪日外国人客の衰えぬ購買力にある。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)は上昇が続き、17年の1年間だけでそれぞれ約2割も上昇している。17年の訪日外国人は16年と比べ約2割増えて2869万人を記録し、過去最高を更新している。

 17年の百貨店の免税売上高も過去最高となり、爆買いが目立った15年(1943億円)を上回る2704億円(前年比46.3%増)となった。伊勢丹新宿店と銀座三越がある新宿と銀座は、大都市で日本の文化の中心地でもあり、訪日外国人も多く訪れる場所だ。そのため、より多くの恩恵を受けたかたちだ。

 このように、伊勢丹新宿店と銀座三越は好調だ。しかし、ほかの多くの店舗が前年割れを起こしている状況で、特に地方店は相当厳しい状況にある。現在、好調な店舗も不調に陥らないとも限らない。

 株高による資産効果が永く続くとも考えにくい。昨年までの株高は日本銀行による資産買い入れ、いわゆる量的緩和政策によるところが大きかったと考えられるが、将来の金融引き締め効果を狙って量的緩和政策を縮小させる「テーパリング」に踏み切るとの観測が高まるなど、株高がいつ終わってもおかしくない状況にある。

 訪日外国人頼みも危険だ。確かに訪日外国人は増加している。前述のとおり17年は2869万人もの外国人が訪れ、さらに政府は20年に4000万人、30年には6000万人に増やす目標を掲げており、訪日外国人による売り上げ増を期待してしまうのも無理はない。ただ、今後は訪日外国人の興味が地方観光や体験型の「コト消費」へ移っていくなどの影響で百貨店での爆買いがそれほど広がりを見せないという懸念が一方である。しばらくは免税売上高の伸びを期待するにしても、いつまでも続くとは思わないほうが賢明だろう。

●三越伊勢丹の未来は暗い?

 伊勢丹と三越は老舗でブランド力がある。そのブランド力に惹かれる消費者は少なくない。しかし、ブランド力に甘えきっていることが三越伊勢丹HDの停滞につながっているとの指摘もある。「三越」や「伊勢丹」の看板があれば何もしなくても売れるという慢心がどこかにあるのだろう。

 一方、ライバルのJ.フロントはブランド力に甘えていない。たとえば、17年4月に開業したGINZA SIXが最たる例だ。GINZA SIXは、性別や商品の種類に応じて階ごとに売り場を分けるという従来の百貨店の商品分類にこだわらないフロア構成になっている。また、従来の百貨店で広く行われている、商品が売れたときに売り上げと仕入れを計上する「消化仕入れ方式」から脱却し、入居しているテナントから賃料を受け取る方式に軸足を移している。これまでのビジネスモデルにこだわらず、積極的なチャレンジを試みているのだ。三越伊勢丹HDには見られないものだろう。

“お家騒動”も影を落としている。17年3月31日付で大西洋社長(当時)を解任し杉江俊彦専務を社長に昇格させた人事がそれで、三越伊勢丹HDのイメージ悪化につながった。大西氏の改革に反発するかたちで杉江専務が社長になったと世間ではとらえられ、イメージの悪化に加え、改革の後退を印象付けることにもつながっている。

 こうした状況のなか、新たな体制で再出発することになったわけだが、今のままでは前途多難と言わざるを得ない。昨年11月7日に発表された21年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画の内容が、期待を裏切る乏しいものとなっていたためだ。当初掲げていた「19年3月期に営業利益500億円」という目標を取り下げ、「21年3月期までに350億円」と後退した目標を提示するなど、明るい材料は示されていない。

 17年4〜12月期決算が増収・営業増益になるなど一部明るい話題もあるが、今後それが続く保証はどこにもない。逆に、痛みが和らいだことで改革のさらなる遅れにつながる可能性も否定できないだろう。いずれにしても、三越伊勢丹HDの苦悩はしばらく続きそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)


●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。