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面談が治療の有力ツールである精神科では、患者さんと主治医の関係は他の科にもまして重要です。ただ、なかには自らの考えを患者に押し付ける「ちょっと困った精神科医」もいます。信頼できる精神科医を見分けるにはどうすればいいのでしょうか。国際医療福祉大学の原富英教授が解説します――。

■ちょっと困った精神科医たち

どの病気でも患者さんと主治医の関係はとても重要です。本サイトでも池上晴彦氏、冨家孝氏が、いかにして主治医と患者の信頼関係を構築するかについて述べておられます。とくに精神科では、面談が治療の有力ツールであるため、両者の関係はなおさら重要です。それでは信頼できる「精神科医」を見つけるにはどうすればいいのでしょうか。

精神医学の教科書には「人間を3つの要素の複合体とみよ」と書いてあります。それは以下の3つの要素の複合体としての「存在(Being)」と人間を理解せよということです。

■生物学的(Biological・脳を想定→主に薬物を用いて治療する)
■心理学的(Psychological・心を想定→主に言葉を用いて治療する)
■社会学的(Social・環境を想定→環境調整→休職や入院などを進言する)

初診時は、この3つのうち、患者さんのどの要素が不調の主な原因なのかを探ることが重要になってきます。患者さんの不調の原因により、主な治療のアプローチも決まってきます。

ここではどの要素が原因かまだ不明のうちに、そのひとつだけに拘泥してしまう「ちょっと困った精神科医」をご紹介しましょう。

タイプ1:すべて脳に問題があるとする医師。特徴は内科的で切れ味がいい。しかし、心理的・環境的要因はほとんど考慮しません。「器質論者」とも言います。治療は薬物一辺倒になりがちです。
タイプ2:すべて心に問題があるとする医師。「あなたは、こういうストレスにさらされている」と唱えるので、「心因主義者」ともいえるでしょうか。どこにストレスがあるのかを必死に探そうとしますが、人は多くのストレスにさらされており、簡単に見つけるけることはできません。しかしこのタイプの医師は「これがあなたのストレスですね」とすぐに決めつけがちです。
タイプ3:環境(社会学的要因)に問題があるという医師。家族や社会に要因があると考え、「あなたは悪くない。あなたの母親が悪い。上司が悪い」などと息巻くタイプです。

かつてイギリスでこの立場に近い反精神医学が勃興し、従来の精神医学を否定した時期がありました。環境論者ともいえるでしょうか。たとえば頭部CTで抑うつの原因が「脳腫瘍」とわかっても、なお「社会体制が悪い」と主張する医師もいました。3つの要素の不調を診たてるバランス感覚が大切ですから、こういう医師には要注意です。

私は精神科医はできるだけ中立的であるべきだと考えています。それは診断・治療方針に関して言えば、「1つの立場に偏らない(Flexible)」と翻訳できるでしょう。

■信頼できる精神科医の条件とは

では、困った精神科医を避け、信頼できる精神科医を見つけるには、どうしたらいいのでしょうか。私は「信頼できる精神科医」には以下の3つの条件があてはまると考えています。

1.患者さんに対して尊厳を持つ1人の人間として接する医師。これが一番大事なことです。病気を持つ弱者にどう接するか。これはおのずと態度に現れます。

2.話をよく聴く医師。「聞く」のではありません。ところどころに質問や納得の言葉を入れつつ、興味を持って「聴く」のです。このことにより、患者さんの考える病気の原因や苦しみのお話(ストーリー)が明らかになります。

聴くと言っても、だらだらと時間を費やす必要はありません。診察時間がやたらと長い医師は、技量が未熟だったり、すがり付く理論(診断基準や原因論)に当てはめようとしていたりするようです。ちなみに私の場合、診察にかける時間は、初診で30分〜45分程度、再診で10分〜15分程度です。

患者さんの話をよく聴くことは、治療のアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)を上ることにもなります。この過程で治療上のヒントが見つかるのもよくあることです。

3.「よくわからない」と正直(Genuine)に伝える医師。すぐに「分かった」と解釈を始める医師はちょっと考えものです。精神科には、「困ったときは正直(Genuine)に」という諺(ことわざ)があります。「そこがよくわからないのですが?」と口に出す医師は信頼できます。

人間は、脳・心・環境という3つの要素が複雑に入り組んでいる存在です。どれかが傷み始めると、ほかの2つにも悪影響を及ぼし、相互的な悪循環を引き起こして全体が不調になると考えるのが合理的だと思います。脳・心・環境の3つに常に気を配り治療を進めていく医師がおすすめです。

この3つの条件と「偏らなさ(Flexibility)」を満たしていれば、あとは「相性」「波長」「フィーリング」などがあえば、あなたにとって信頼できる「主治医」となるはずです。

■待合室まで患者を迎える私流

私自身は、診療に際して以下のようなことを心がけています。参考までに挙げてみます。

1.診察室や身なりは、不快にならない程度に清潔に

2.応対のちょっとした工夫
・初診の場合は待合室まででかけて患者さんに自己紹介し、診察室に招き入れる(ここで得られる情報は結構多い)。
・できるだけ同伴面接を心掛ける(お互いの誤解、特に家族間の誤解が生じにくい)。
・診察の初めに必ず「よくいらっしゃいました」と話しかける(来院した勇気に敬意を払う)。

3.面接中の工夫
・できるだけ頭部CT(MRI)をすすめる(脳病変など器質的原因は時間が勝負)。
・困っていることを中心にできるだけ自分の言葉で話してもらう。
・困ったときの対処法を訪ね、うまくいっていれば讃める(強化する)。少なくともその努力を認める。

4.診察(面接)の終わりに
・現時点で考えられる今後の予測も含めた診断名を告げる。
・お薬は1〜2種類を適宜使う。副作用の説明後、必ずお薬にメッセージを載せる。「薬がうまくあえば少しずつ怖い感じが消えるかもしれないよ」「久しぶりにぐっすり安心して眠れるといいね〜」。
・歳時記や気候を用いて再来日を印象付ける。たとえば3月3日が再来日であれば「ひな祭りの頃にまたお会いしましょう」と一言添える(手前味噌ですが、再来日の間違いやその結果の怠薬などのうっかりミスなどが減るように感じます。こうした対応は先ほど述べた治療のアドヒアランスを上げるひと工夫です)。

以上、35年の臨床経験から得た、わたしのやり方の一部です。これがスタンダードというわけではありませんが、信頼できる精神科医を選ぶうえでの参考になればと思います。

■主治医を変えることができるのか

1度は通院を始めたものの、「説明が不十分で納得できない」、あるいは「態度が高飛車に感じられて不満」といった時には、どうしたらよいでしょうか。

以下の2つのケースに分けて、解説します。

1)開業医(クリニックなど)の場合
開業の先生は、ほぼ1人で業務をこなしており、経営者も兼ねることが多いようです。そのためか、いわゆる一方的な父権主義(パターナリズム)になりがちです。自分の判断がつかないときに手際よく専門の医師を紹介してくれる先生、セカンドオピニオンを申し出てもいとわない先生は良医でしょう。
2)同じ科に複数の医師がいる大病院の場合
一般に、所属科には経験年数により3〜5人の医師が在籍します(部長・副部長・指導医・レジデント《数年目》・研修医など)。良心的な科であれば、主に患者さんを担当する医師は、常に上級医師にアドバイスを受けています。そのようなスタッフ間の風通しの良しあしはなんとなく雰囲気で察知するしかないでしょう。医師間の関係が複雑な場合には、別の医師の診察はあきらめ、病院を変えるしかありません。

1,2どちらのケースも結局セカンドオピニオンの活用が味噌ですね。

現代の医療では、セカンドオピニオンは当然の権利として認められています。「先生のご説明には納得いたしましたが、念には念を入れてもう1人の先生の意見も聞いてみたいのですが……」と、少しへりくだって切り出すのがいいようです。拒否する先生のところからはさっさと退散するほうがいいでしょう。

セカンドオピニオンを聞き「こちらの先生が自分にあっている」と感じたら、「先生にお世話になりたいのですが」と意思表示すれば、きっと引き受けてくれるはずです。

次回は「うつ病はなぜ発見が遅れるのか」をお送りしたいと思います。

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原 富英(はら・とみひで)
国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授。
1952年佐賀県生まれ。九大法学部を卒業後、精神科医を志し久留米大学医学部を首席で卒業。九州大学病院神経科精神科で研修後、佐賀医科大学精神科助手・講師・その後佐賀県立病院好生館精神科部長を務め、2012年4月より現職。この間佐賀大学医学部臨床教授を併任。

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(国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 精神医学教授 原 富英 写真=iStock.com)