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第2次世界大戦中のプロペラ戦闘機のプラモデルを作った経験がある方なら、操縦席の直後に立てた支柱、あるいは主翼端から、尾翼に向けて伸ばしランナー(パーツを取り付けてある棒状の部材を融かして、細く伸ばしたもの)を取り付けた経験がおありではないかと思う。あれは何のためのパーツかというと、無線機のアンテナである。

○飛行機で使用する無線機

飛行機がいったん空に舞い上がったら音信不通、「圏外」では困る。この後で取り上げる管制ができなくなってしまうし、飛行機同士で連絡ができないといけない場面もある(特に軍用機)。

空を飛んでいる飛行機で外部との通信手段を用意しようとした場合、まさか電線をズルズル引っ張って飛ぶわけにはいかないから、必然的に無線通信になる。そこで使用する通信機は、大きく分けると2種類ある。

1つは見通し線圏内で使用するもの。見通し線とは読んで字のごとく、通信する当事者同士が互いに相手を直視できる位置関係にあるという意味で、英語ではLOS(Line of Sight)という。この場合、超短波(VHF)や極超短波(UHF)の通信機を使用する。

航空用の通信機は一周波単信方式、つまり同時に両方が話すことはできない。VHFの場合、使用する周波数は118〜137MHzの範囲内で25kHz間隔となっている。空中線電力は、大型機で30W程度、小型機で10〜15W程度。台数は、大型機は3台、小型機には1〜2台となっている。

もう1つは見通し線圏外で使用するもの。通信する当事者同士が地平線、あるいは水平線の向こう側にいて、互いに相手を直視できない位置関係にあるという意味である。この場合、VHFやUHFの電波は届かないので、短波(HF)、あるいは衛星通信を使用する。

短波はご存じの通り、地面・海面と電離層の間を反射しながらジグザグに進むため、十分な送信出力があれば見通し線圏外との通信が可能である。ただし、ジグザグに進むので、断続的に不感地帯(スキップ・ゾーン)ができる点に注意が必要だ。また、電離層の状態は時間帯によって変わるので、それによる影響もある。

HF通信機の周波数は2,850kHz〜22,000kHz。空中線電力は150W程度というから、かなり大きい。大型機は2台、小型機は1台を設置するのが一般的。

衛星通信は、宇宙空間にいる通信衛星を介して通信を行うもので、近年では旅客機の機内インターネット接続サービスでおなじみだ。筆者は長距離国際線に乗ると、有料なのに、つい使ってしまう。太平洋の上から原稿を送ったこともある。

おっと閑話休題。このように複数の通信手段を使い分けるために、飛行機は複数の通信機を搭載するのが一般的だ。昔は無線電信を使用していたが、今は無線電話、またはデータ通信である。

○複数台を設置する理由

小型機は別として、同一周波数帯の通信機を複数搭載することが多い。もちろん冗長化という意味もあるのだろうが、それだけではない。

地上から管制を受けながら飛ぶ場合、領域ごとに担当の管制が分かれているため、飛行の過程で順次、交信する対象が変わる。通信機が1台しかないと、交信相手が変わったときに、まず周波数を設定し直さなければならない。

そこで複数の通信機を搭載してあれば、異なる種類の通信を使い分けるのは容易だ。複数の管制圏をまたぐ場合はいうまでもないが、1つは管制交信、1つは国際緊急周波数(121.5MHz)の傍受、といった使い分けもできる。つまり、テレビを2台並べて同時に複数の番組を見るようなものである。

通信機が1台しかなくても、2種類の周波数をプリセットできれば、片方は現在の交信相手、他方は次の交信相手、と異なる周波数を設定できる。交信相手を切り替えたら、用済みになったほうのプリセット値を、その次の交信相手が使用する周波数に合わせ直せばよい。

こうした操作を円滑に行うために、操縦席には複数の通信機を一括して扱う設定用パネルがある。例えば、VHF通信機が3台、HF通信機が2台ある場合、「VHF」のボタンが3個、「HF」のボタンが2個あり、押し込むと、それぞれに設定した周波数で行われている交信を聞くことができる。

民航機の場合、さらに客室乗務員との間の連絡に使用するインターホンや、客室向けの放送も、同じパネルで扱っている。

インターホンや機内放送のために、いちいち別のマイクを取るのでは煩雑だし、そんな余裕がないこともある。1つのヘッドセットをかけたままで管制交信もインターホンも機内放送も行えるほうが便利だ。その代わり、選択を間違えると、とんでもないことになるかもしれない。

それとは別に周波数設定用のパネルがあり、ボタンを押して選択した通信機について、使用する周波数を指定できるようになっている。ボーイング747-400の場合、1つのパネルでVHFを3台とHFを2台、まとめて面倒を見ている。

無線機は双方向の交信だけでなく、一方的に放送している内容を受信する際にも使用する。といってもラジオ放送を聞きながら「ながら操縦」をするわけではなくて、気象通報や空港状況に関する放送をモニターするためだ。

○戦闘機の場合

ここまでは基本的に民航機の話だったが、ついでに戦闘機の話も。手元にあるF-15Eストライクイーグルのフライトマニュアルに、通信機に関する記述もあった。F-15Eの場合、見通し線圏内通信にはVHFではなくUHFを使用しており、2台のUHF通信機を積んでいる。

そして、通信機のために専用の設定パネルを用意する代わりに、計器盤の正面最上部、HUD(Head Up Display)の下にあるUFC(Up Front Control)に、通信機の設定機能を組み込んである。

UFCは小型のディスプレイ装置と、左右に5個ずつのボタン、下部にテンキー(アルファベット兼用)など並べた配置で、ボタン操作によってさまざまな設定を行える。その中に、UHF通信機の選択やオン/オフの指定、周波数やチャンネルの設定も含まれている。

画面には、現在使用している通信機(UHF1またはUHF2)の別と、選択しているチャンネル、設定周波数を表示している。周波数帯は225〜399.975MHzで、20種類の周波数を通信機にプリセットしておける。プリセットしたチャンネルの選択は、UFCの左右にあるノブで行う(それぞれUHF1とUHF2に対応)。マニュアル設定した周波数を選択することもできる。

単信方式の無線機を使う場合、こちらが話す際は送信ボタンを押し込む必要があるが、戦闘機だとマイクは酸素マスク、イヤホンはヘルメット、送信ボタンはスロットル・レバーに組み込んである。だから、無線で話すために手を離す必要はない。

F-15Eで面白いと思ったのは、UHF1に限って、使用するアンテナの選択ができるところ。全周をカバーするために機体の上面と下面にブレード・アンテナを取り付けてあるが、そのうち一方だけを選んで使えるようになっている(UHF2は常に下面側のアンテナだけ)。傍受される可能性を減らすために、用がある側のアンテナだけを使うということだろうか ?

軍用機らしいところで、UFCにはKY-58暗号化装置に関する設定項目もある。暗号化キーは毎日のように変わるので、その度に設定し直さなければならない。このほか、耐妨害機能のオン/オフも指定できるようだ。