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1.習近平政権第1期で注目を集めた三中全会

 2012年11月の中国共産党第18回党大会で習近平総書記が選出され、第1期習近平政権が発足した。その1年後の2013年11月に開催された三中全会で世界中が注目した重要決定が発表された。

 それは市場メカニズムの積極的導入により中国経済の構造改革の全面深化を目指すものだった。そこで示された政策運営方針が予想以上に意欲的な内容だったことから、新政権の構造改革断行に対する期待が高まった。

 確かに反腐敗キャンペーンによる政治家、軍人、官僚などの汚職摘発の断行は過去に例を見ないものだった。これによって習近平主席は政権基盤を強固なものとした。

 同時に、「新常態」、「供給側改革」といった政策運営の基本方針を掲げ、過剰設備および過剰在庫の削減、それらを助長してきた金融面のレバレッジの削減を実行した。

 その果実として、足元のマクロ経済は雇用、物価とも初めて長期にわたって安定を保持しており、1990年代前半に市場経済化への移行を開始して以降、最も安定した経済状態を実現している。

2.実際の政策運営はやや期待外れ

 しかし、第1期の政策運営はやや期待外れだった。国有企業改革の目玉だった民営化や混合所有制の導入は依然として捗々しい進展が見られていない。

 金融自由化についても、人民元がSDRバスケットに組み入れられたが、米国の強い元高要求圧力もあって、元安を招く恐れの高い資本移動の自由化には慎重にならざるを得なかった。

 所得格差、農村・都市格差、地域格差など様々な格差の是正は元々難しいだろうと予想されてはいたが、やはり予想通り目覚ましい改善は見られていない。

 環境問題の改善については、北京や上海ではPM2.5の数値が大幅に低下し、青空が広がる日が増え、目に見える改善が実感できるようになるなど、一定の成果は示された。

 しかし、全国レベルでは依然多くの地方都市が深刻な大気汚染・水質汚濁などの環境問題に苦しんでおり、多くの国民が納得するような抜本的な改善は実現していない。

 以上のように、習近平政権第1期の三中全会で示された政策運営基本方針は意欲的であり、その実行に対する期待が高まっていただけに、その後の具体的な政策運営の成果は多くの人々が期待していた水準に達していないのが実情である。

 習近平政権は政策公約として、2020年までに国民が安心して経済生活を送ることができる「小康社会」の実現を目指している。

 大多数の国民がその目標達成を実感できるようにするためには、残された短期間の間に所得格差の是正、環境改善等のための政策実行のさらなる強化と加速が必要となっている。

 2017年10月の第19回党大会において習近平主席は、国家として取り組む最重要課題をこれまでの生産力拡大から、経済の不均衡是正、質の向上、非効率の改善へと重点を移すことを強調した。

 この経済政策の基本方針の大転換は上記のような現状認識に立ったものであると考えられる。

3.主要地方政府の政策運営に新たな変化が始まった

 1月下旬から2月初旬まで、筆者は定例の中国出張で、北京、成都、上海を訪問し、中央地方政府関係者、中国人エコノミスト、日本の政府関係機関・日本企業の現地駐在幹部などと面談を重ねた。

 北京ではマクロ経済の現状分析と先行きの見通しに力点を置いて情報収集したこともあって、経済政策運営方針についてとくに大きな変化を感じることはなかった。

 しかし、成都で四川省政府幹部と面談した際に、四川省の日本企業誘致姿勢が以前に比べて明らかに積極性を増しているように感じられた。

 また、成都と欧州主要都市を直通で結ぶユーラシア大陸横断鉄道の本格活用や成都での自由貿易試験区のスタートなど新たなインフラや制度設計に基づく前向きな政策運営姿勢が目立った。

 さらに、上海でも新たな広域政策構想が動き出していた。

 2017年10月の党大会直後に同市の書記に就任した李強氏が主導する形で、上海市、江蘇省、浙江省、安徽省の1市3省一体化構想が打ち出されていた。

 しかもこれは中国の地方政府でよく見られる、具体的な施策の中身が不透明な大風呂敷の計画ではない。

 第1に李強書記の指示の下で徹底した経済実態調査の実施、

 第2に空港・高速鉄道・主要幹線道路が集中する交通の要衝である上海市の虹橋地区を長江デルタの結節点として産業集積を進める大虹橋構想、

 第3に杭州湾に新たな経済開発区を建設する杭州湾経済圏建設、

 第4に上海市と浙江省の一部の地域を対象に社会保障制度、交通カード、電話番号などの統一化を進める計画など様々な具体的な政策が動いている。

 しかも、これらの政策の背景には長期的に練り上げられた計画とそれを動かす人事が組み合わされており、実効性の高い政策運営が行われている点が特徴的である。

 例えば、習近平主席が浙江省の書記だった当時(2002年11月〜2007年3月)、浙江省と上海市の一体化を進める「接軌上海」構想を主唱していた。

 新たに上海市の書記に就任した李強書記は、当時の習近平書記の側近である同省党常務委員会秘書長だった。その後浙江省の省長、江蘇省の書記を歴任し、現在の地位に至っている。

 本来江蘇省は上海市に対するライバル意識が強く、上海市と一体化する構想には抵抗感があることは明らかである。

 しかし、直前まで江蘇省の書記だった李強氏が上海市の書記として1市3省一体化構想を主唱すれば、江蘇省もこれに反対することは難しい。

 この李強書記の人事配置と習近平主席との関係を見れば、上記の一連の構想の背景に習近平主席の強力な支持があることは明白である。これが政策運営の実効性を高めることは言うまでもない。

4.学者も経営者も政策運営の変化を実感

 こうした上海市、四川省等の政策運営の変化を見れば、第19回党大会後に習近平主席の強力な支持を背景に政府の有力な幹部層が本格的に始動し、これまで停滞していた政策運営を加速させているように見える。

 このほかの地方政府でも似たような事例が多々見られている。

 例えば、習近平政権第2期の中核プロジェクトと目される雄安新区の建設については、深圳市の発展モデルをベースに進められると見られているが、雄安新区を主管する河北省の省長には深圳市の前書記兼市長が任命されている(2017年4月)。

 同新区開発の総合計画は近々河北省政府から発表されると言われている。

 また、中部地区の中核都市である武漢市では、習近平主席が浙江省書記時代に同省党常務委員会副秘書長(当時の秘書長は李強上海市書記)だった陳一新氏が同市書記に任命され(2016年12月)、長江新城という新たな経済開発区の建設や企業誘致を強力かつ大胆に推進している。

 この人事配置は同じ長江流域の中流にある武漢と下流にある上海の経済政策の連携を狙っているものと考えられる。

 今回の出張で面談した中国の著名な政治学者が、第19回党大会後の大きな変化点として、これまでずっと新たな政策実行に慎重だった役人が数年ぶりに動き出したことを指摘した。

 また、現地駐在の日本政府関係機関幹部は、ある中国人経営者が、これまでは5年に1度の党大会の決定内容は自分たちのビジネスには関係ないことと思っていたが、今回の第19回党大会の決定内容は今後の中国経済が向かう方向を示しており、身近なものに感じたと語っていたという話を教えてくれた。

 過去5年間、強力な反腐敗キャンペーンが展開されていたため、役人が積極的に動けば周囲の誰かに過去の腐敗を暴かれて足を引っ張られるリスクを強く懸念せざるを得ない状況が続き、役人の仕事に対する姿勢が極めて消極的になっていた。

 それが政策運営に与える深刻な悪影響は明確に認識されていたが、それを打破するような動きは見られていなかった。

 その膠着状況が昨年10月の第19回党大会後に大きく変化し始めているように見える。

 習近平政権が第2期に入り本格的に動き出しているのは間違いなさそうである。今後の政策運営の具体的な展開からますます目が離せなくなっている。

筆者:瀬口 清之