金融機関が「初心者向けの、リスクが少ない良い商品があるんですよ」と言ってきたら要注意だ(写真:ふじよ / PIXTA)

皆さんは「投資歴何年」でしょうか? もし投資の経験がない、または浅い人ならどの金融商品を選ぶか、迷うのではないでしょうか。そんな人を狙い打ちにしているのか、金融機関が販売している商品の中には「投資初心者向け」と銘打ったものが結構あります。

初心者もプロも、市場ではみな同じ土俵で勝負している

でもよく考えてみると、「初心者向け商品」というのは、本当に適切なものなのでしょうか? 株式にしても債券にしても「初心者向けの市場」などというものがあるわけではありません。市場はつねに自由で、誰もが参加できるものですからプロもアマも初心者だってベテランだって、同じ市場で勝負しているのです。初心者だからハンディをもらえるというわけでもありません。そんな市場で運用する金融商品に、本来なら初心者向けなどというものがあるはずはないのです。

たとえば、初心者向けの自動車とか初心者向けのサッカーボールのようなものがあるでしょうか? 子供向けのおもちゃなら別ですが、そんなものはありません。あるのは車の運転にしてもスポーツでも、初心者が気を付けておくべきことや、知っておくべき心構えだけです。投資も同じです。初心者として注意すべき点は確かにありますが、初心者向けの商品などというものは、本来存在しないのです。

一般に投資初心者向け商品としては、あまりリスクを取りたくないという人向けに「リスク限定型投信」というものが発売されています。

発売する側は、「投資初心者は『価格が変動するリスクが怖いから、できるだけリスクを取りたくない』という気持ちを持つ人が多いだろう」と考え、こうした種類の商品を勧めているのでしょう。でも、初心者であれベテランであれ、リスクを取りたくないという人は必ずいます。

そういう人、つまりリスク許容度が低い人で、それでも投資をしたいというのであれば、リスク限定型投信など購入する必要はないのです。ではどうすればいいでしょうか。

まず自分の資産運用全体の中でリスク商品の割合を決め、残りは定期預金などの無リスク商品(価格変動のない商品)で運用すればいいのです。まったくリスクを取りたくなければ、そもそも投資はしないほうがいいし、少しぐらいのリスクは取ってみようということであれば自分の金融資産全体のうちの10%とか20%を、リスク資産に回せばいいのです。

アメリカの経済学者であるジェームス・トービンが提唱した資産運用理論の中に「分離定理」というのがあります。これは簡単に言えば「リスク許容度が高い人も低い人も、リスク資産のポートフォリオの中身は同じものでよく、リスクの度合いはそのほかの安全資産をどれぐらい持つかで調整すればよい」というものです。つまり初心者向けのポートフォリオなどというものは存在せず、自分のリスク許容度に合わせてリスク資産の割合を決めればよいというだけなのです。

「リスク限定型投信」が割高な理由

リスク限定型投信が、商品としていかに問題があるものか、具体的にある投資信託「A」の中身を見てみましょう。Aの中身を見ると、全体の資産配分の中で内外の株式に10%程度、残りは短期金融商品となっています。そして、この投資信託Aの信託報酬(運用管理費用)は0.8%を上回っています。

仮にこの投資信託Aを100万円買えば、毎年支払う信託報酬は8000円を超えることになります。一方、同じ100万円でも、10万円分だけ国内と海外のインデックス投信を購入し、残りの90万円を預金にしておけばどうなるでしょう。この場合、かかるコストは、ローコストのインデックス投信なら0.2%ぐらいの手数料のものもたくさんあります。すなわち10万円分の0.2%ですから200円程度の運用管理費用を払えばいいわけです。リスク限定型投信Aを購入する場合と比べると手数料は40分の1で済みます。

もちろん、どちらの運用成績が良くなるかは株式部分の運用次第ですから一概には言えません。しかしながら、コストだけは確実に安くなるのであれば安いものを選ぶほうが賢明と言えるでしょう。これは確定拠出年金において商品を選ぶ際にも言えることです。「自分で運用しろといってもどうやっていいのかわからないだろうから、初めての人にはリスクの低い商品が適している」という考えから、リスク限定型投信を提供しているところもあります。しかしそんな手数料の高いものを購入するぐらいなら、前述の方法のように簡単に自分で組み合わせれば済む話なのです。

先ほど出てきたトービンの「分離定理」は、最適なポートフォリオを1つ決めれば、後は無リスク資産の割合を決めるだけでいいというシンプルなものです。

では、ここで言う最適なポートフォリオとは、いったい何を指すのでしょうか? 私は世界の市場全体を、それぞれの時価総額の割合で構成するポートフォリオが最も合理的だと考えています。世界の中には成長する市場も停滞や衰退する市場もありますが、それがいったいどこなのかは、事前にはわかりません。でも世界の人口が増加し、人間の経済活動が行われていくかぎり、全体としては成長するからです。したがって市場全体を買っておく(日本だけではなく世界全体の)ことが合理的なポートフォリオだと思うからです。昔と異なり、現在であればそういうポートフォリオを1万円からでも購入できる投資信託がたくさんあります。

大事なので繰り返しますが、初心者だからとかベテランだからとかは関係なく、自分がどれだけリスクを取れるのかによって、投資信託などのリスク商品と預金などの割合を決めておけばよいだけです。これはとてもシンプルな方法ですが、往々にして金融商品はシンプルなほうがコストも安いしわかりやすいという面があります。「これは初心者向け商品です」と言われても素直に信じるのではなく、きちんと中身を調べることが大切ではないでしょうか。