埼玉西武ライオンズの本拠地、メットライフドーム(撮影:風間仁一郎)

東洋経済オンライン1月20日付の筆者記事「『日ハム新球場』どっちの候補地がベスト?」では、北海道日本ハムファイターズの本拠地移転構想が、鉄道・プロ野球・地域の連携のあり方について関心を深める契機となる可能性があることを紹介した。そして、多くの鉄道事業者がプロ野球球団のオーナーとして名を連ねた時代があったことから、プロ野球界は鉄道と関係の深い業界であったことを指摘した。


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鉄道事業者は鉄道の乗車人員増や知名度向上などの効果を見込んで球団を保有したが、球団に対する支援を上回る効果を見いだせなくなってプロ野球経営からの撤退が相次ぎ、現在鉄道事業者を親会社に持つのは西武ライオンズ(チーム名は埼玉西武ライオンズ)と阪神タイガースの2球団にとどまっている。

40周年を記念しドームを改修へ

西武ライオンズ(以下、ライオンズ)には身売り危機が訪れたことがあった。西武鉄道は有価証券報告書の虚偽記載で経営危機に陥ったことを契機に、米サーベラス・キャピタル・マネジメント(サーベラス)などの出資を受け、持ち株会社である西武ホールディングス(西武HD)を中心とする企業グループへ再編された。

西武HD上場後の株式売却益の極大化を狙うサーベラスは西武秩父線などの不採算路線廃止とライオンズの売却を要求したが、西武HD経営陣は拒否する。サーベラスも西武HD経営陣の退陣要求や同社株買い増しなどで対抗し、両者の対立は激化した。その後、西武HDは上場し、両者の対立は徐々に収束していく。サーベラスは保有株の売却を進め、2017年8月10日付で全株の売却を完了した。西武秩父線などの存続が図られるとともに、ライオンズの売却も回避されたのである。

そして2017年11月15日、西武HDとライオンズは連名で、本拠地球場であるメットライフドームについて、「株式会社西武ライオンズ40周年記念事業 メットライフドームエリアの改修計画及び周年イベントについて」(以下、記念事業)を発表した。

プレスリリースによると、「西武グループでは、西武ライオンズの40周年記念事業として、メットライフドームエリアの改修工事を『ボールパーク化』と『チームと育成の強化』の2つの観点から、約180億円を投じて進める」という。

記念事業の狙いと効果、西武鉄道をはじめとする鉄道事業者や埼玉県内の各地域との連携に向けた方針について、同球団の井上純一事業部長に聞いた。

ボールパーク化で何が変わるか

――記念事業の狙いと、見込まれる効果は何か。


メットライフドームとその周辺の路線図(筆者作図)

「1979年にメットライフドームの前身である西武ライオンズ球場として開業したが、1997年シーズンオフから1999年シーズン前までのドーム化工事以外、大規模改修を行ってこなかった。開業当時から比較するとレジャー・娯楽・サービスともに多様化・高度化している。世代や性別を超えて楽しめ、ファンの皆さまが快適に観戦でき、さらにこれまでの球場にない『新しい価値』を提供する必要がある。『ボールパーク化』を進めることで、新たなお客さまにもご来場いただき、現状では少ない平日の観客動員数を増やしたい」

「また、試合休催日にライブやイベントを積極的に誘致し、稼働率を高める狙いもある。選手が練習に専念できる環境整備としては、若獅子寮、室内練習場、西武第二球場などの刷新を行う。前身の西鉄ライオンズ球団創設から70年を迎える2020年も意識して、さらなる飛躍を図るために、記念事業を着実に進めていく」

――ボールパーク化は、周辺のにぎわいにプラス効果をもたらすか。

「施設所有者である西武鉄道との協議が必要になるが、供用開始から相当の年数が経過している狭山スキー場や西武ドームテニスコートの改修とともに、西武園や現在休園中のユネスコ村との一体的な再開発を検討できたらと考えている。エリア全体ににぎわいが生まれれば、ボールパークの活性化にもつながると思う」

――ライオンズは西武鉄道のブランド価値向上や利用促進、グループの精神的シンボルとしての役割を期待されてきたと思う。西武鉄道との連携策はほかにあるか。

「西武鉄道の利用促進は当球団の重要なミッションだ。試合の開催日によって数字は異なるが、当球場への来場者数のうち、鉄道利用の割合は6〜7割。西武鉄道と連携して、西武線で『L-train』を走らせている。初代は2010年7月から2013年12月まで運行された。今年度末に引退する9000系使用の2代目の後継として、3代目が1月15日に池袋線と新宿線などで運行を開始した。20000系2本を活用して、外装だけでなく、座席などの内装にも装飾を施し、より西武鉄道とライオンズとの一体感が生まれるよう工夫した。西武鉄道の乗車人員と球場来場者の両方の増加につながればいい」

――西武鉄道の特急レッドアローには、『レッドアロークラシック』や、秩父夜祭・川越まつりのユネスコ無形文化遺産登録を記念した『プラチナ・エクスプレス』がある。ライオンズラッピングのレッドアローを導入したら面白いのではないだろうか。

「西武グループに対するひとつのご提案として承りたい」

――埼玉県には西武鉄道のほかにも、東武鉄道や秩父鉄道など複数の鉄道事業者がある。グループ外の鉄道事業者との連携拡大についてはどのように考えているか。

「西武鉄道との連携を中心に、他の鉄道事業者との連携も徐々に検討していきたい。個人的な話になるが、私の出身地である秩父は西武グループの力によって発展してきたという思いがある。当球団と秩父市は連携協定を締結しているが、秩父鉄道とも何らかの形でコラボできればと考えている」

――西武線と直接つながっていない地域でもライオンズファンを増やすことが重要ではないか。

「将来的には、埼玉県全市町村との連携協定締結を実現し、ファンをさらに増やしたい。そして、自治体、学校などと協力したスポーツを行うきっかけの提供、他スポーツ団体との連携や活動の推進、および自由に野球、スポーツができる環境整備への支援を通して、地域に貢献していくつもりだ」

西武沿線外にも連携拡大を


西武秩父駅に乗り入れた秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」(右)。初乗り入れ時のテープカットの様子(編集部撮影)

ライオンズの井上事業部長は、鉄道事業者や地域との連携強化をさらに進める意向を示した。親会社の西武鉄道は秩父鉄道への直通列車の運行などにより連携してきたが、さらに2016年からは、秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」の西武秩父駅への乗り入れも数回行われており、ライオンズをはじめとする西武グループと他の鉄道事業者・地域の連携拡大の機運は高まっている。今後は、ライオンズを意識させる内装を備えた観光列車を導入し、秩父鉄道から西武球場前行きの直通列車として走らせてはどうだろうか。

また、西武グループと東武鉄道が連携し、2016年8月24日から9月18日の期間限定で、東武東上本線での「『東武×西武』ライオンズトレイン」の運行が実現したことも記憶に新しい(詳しくは東洋経済オンライン2016年9月16日付記事「西武と東武、埼玉の"宿敵"が手を組んだ理由」を参照)。

さらに、西武沿線外の埼玉県民へのPR策として、ライオンズの1軍の試合が開催されている埼玉県営大宮公園球場が沿線にある東武野田線でのライオンズトレインの運行を優先的に実施するとともに、埼玉県内で鉄道路線を運営する東日本旅客鉄道(JR東日本)、埼玉新都市交通、埼玉高速鉄道、東京地下鉄(東京メトロ)、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)とのコラボも積極的に検討したいところだ。

多摩都市モノレールでも、2017年3月31日から6月30日までの期間中、埼玉西武ライオンズ一色に装飾した「Lモノレール」を運行したほか、昨シーズンは「多摩モノレール&バス往復乗車券付 メットライフドームプロ野球観戦セット券」を販売した。同社総務部事業課は「今後も西武ライオンズと協力し、『観戦セット券』販売を続けていきたい」と期待する。筆者としては、3月10日に運行開始する「拝島ライナー」に使用する40000系の「L-train」化と「Lモノレール」を同時に実施すれば、大きな効果が見込めると考える。

一方、西武沿線を含む埼玉県および県内のすべての自治体も持続可能な地域経営を実現するために明確な街づくりビジョンを広く社会に明示し、ライオンズを含むステークホルダーと連携することが望まれる。

連携協定を締結した自治体のひとつである埼玉県秩父市は「市内在学の小学生・中学生や市外からの転入者へのライオンズ観戦チケット引換券の配布や野球教室等の開催、ライオンズのフレンドリーシティであることをPRする懸垂幕の市役所庁舎への掲出を行っており、市民から喜ばれている。引換券はライオンズのご厚意によりご提供いただいており、大変ありがたいと思っている」(市長室 地域政策課)と感謝の意を示す。

埼玉の「誇り」となるために


メットライフドームの周辺とその外観。ボールパーク化ではドーム前広場の刷新も計画されている(写真:Kunihisa Ogawa / PIXTA)

鉄道のさらなる利用促進のためには、引換券を渡すだけで終わらせることなく、たとえば西武鉄道乗車券と引換券を西武球場前駅などで同時に提示することでライオンズグッズのプレゼントを贈呈する特典を検討してはどうだろうか。ボールパーク化により魅力が高まるメットライフドームをテコに、西武鉄道を利用した球場観戦を促すことが、西武鉄道とライオンズの利益を増やし、結果として鉄道および球団が存続する形で地域に利益が還元されるのである。

そして、「埼玉」を冠する球団として、西武ライオンズが埼玉県民の誇りとなることができるかどうかは、2021年3月に完成予定のボールパークを機軸とした鉄道・球団・地域の連携をどれくらい拡大できるかにかかっているといってよい。そして、ファンサービスをさらに増やし地域密着の球団となることが、西武グループと地域の持続的発展につながるはずだ。記念事業が、西武グループと地域・ファンが絆を再確認する契機となることを期待したい。