アパレル業界の風雲児はなぜ学び続けるのか(撮影:梅谷秀司)

「アースミュージック&エコロジー」をはじめ女性に人気のブランドを全国に1200店舗以上展開するストライプインターナショナル。創業者の石川康晴社長は、経営者でありながら京都大学大学院のMBA(経営学修士)コースに通う学生でもある。

2月19日発売の『週刊東洋経済』は、「ライフ・シフト 学び直し編」を特集。アパレル業界の風雲児はなぜ学び続けるのか、石川社長に話を聞いた。

大学院に通うことになったきっかけ

――現役の経営者が大学院に通っているという話はあまり聞いたことがありません。

きっかけは2つありました。1つは、企業は社長の身の丈以上に成長しないと気がついたこと。社長の能力が低いと経営戦略を立てられないし、部下がすばらしい提案をしても、それが良いか悪いか見抜けずにはね返してしまう。それでは会社が伸びません。売上高が1000億円前後になったときに、「もう1回勉強しないと、自分の能力のせいで会社の成長が止まってしまうな」と危機感を覚えました。


そんな頃に、銀行に勤めているテニス仲間の女性から、会社に内緒でこっそりMBAに通っているという話を聞きました。ハッと気づいたのが、「会社に隠してでも勉強したい人がいるんだ」ということ。そして、僕みたいに比較的自由がある立場なら、「行けない理由はない」と受験を決めたのです。

ところが、ユニクロの柳井正社長に相談に行ったら、反対されました(笑)。「MBAは(経営者が)取るものではなくて、(取得者を)雇うものだ」と。僕がカチンと来て言い返すと、「そんな暇な時間があったら仕事しろ」と諭されました。

それでもわれわれのようなベンチャーは、学習意欲のある人を応援できる体質にしなければいけない。いまは希望する社員にもMBAを取りに行ってもらっていますが、まずは、トップである僕が第一歩を踏み出しました。

――実際に大学院に行って得られたことは?

4年間通って感じていることは、一言で「行ってよかった」。今は最終学年なので、週1か隔週で京都に行って授業を2コマ取っていますが、1年生のときは週に3回、12コマ入れていました。


石川 康晴(いしかわ やすはる)/ストライプインターナショナル社長。1970年岡山市生まれ。1994年にクロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を創業。経営のかたわら、2013年岡山大学経済学部卒業、2014年から京都大学大学院に在学中(撮影:梅谷秀司)

何がいいかというと、まず会社から抜け出す時間があること。会社にいると、30分刻みで会議、商談、取材。LINEやメールも用を足している30秒で1本返すほど意思決定やアウトプットの連続で、考える時間がなくなります。

新幹線で東京から京都に行く2時間半は一見無駄ですが、頭を整理するのに最高です。名古屋辺りでいい経営のアイデアが浮かび、最後の40〜50分でまとめる。社員には「いつも会社にいない」と怒られますが、逃げるきっかけがないといいアイデアは生まれません。

大学院で学んでいる人を見ていると2種類います。学歴やMBAのタイトルがただ欲しいという人はダメで、いかに使うかが大事。ゼミでは有名コンサルティング会社出身の教授がマンツーマンで指導について、僕の事業へのアドバイスをくれます。寝る暇がないほど刺激の連続で、それがほとんど全部、翌日の仕事に生かされます。

今はちょうど最終試験の最中で、修士論文のテーマはシェアリングエコノミー。会社のリアルデータを突き合わせて、論文にまとめました。服を定額で借り放題にする「メチャカリ」というサービスも大学院の中で生まれたんです。

「ありがちな会社」になりそうだった

――2008年から5年間、岡山大学経済学部にも通っていますね。

それは売上高が100億円を超えたときです。社長が情緒的に自分の成功体験だけを社員に語っていたら、朝礼が長いのに何を言っているのか分からず貧血になる、「ありがちな会社」になりそうでした。当時は40手前ぐらいの年齢でしたが、もう1回経営を基礎理論から学ばないといけないなと思いました。

もう一つの理由は学校に行けば、学生と触れ合ってリアルな感覚も身につけられると思ったことです。僕たちはF1層(若い女性)のマーケティングをして商売する会社なのに、ほとんど10代後半〜20代前半の人たちとの接点がなくなっていました。実際に行ってみるとすごく良くて、周りが18歳とか19歳の子たちの中にスーツを着た自分が一人だけいる。

学部は124単位、4年間で60以上の講義を受けなければいけません。これは吐きそうなほど大変で、卒業には5年間かかりました(笑)。だけど、基礎を学んだ上でMBAに行ったので、ついていけました。20代〜30代前半でMBAに行くのだったら、わざわざ学部に行かなくてもいいと思いますが、40歳前後ではMBAに行くとなると遠回りも必要です。

――アパレル業界はどこも不況で苦戦しています。これまでの経営手法は通じなくなってきているのでしょうか。

アパレルの経営者は足りないところだらけです。経営戦略や事業戦略、ファイナンス、もっと言うとマーケティングのベースすら「全然分かっていない人」が多い。今までのアパレル経営者は好きなこと、やりたいことをやって、100億円や200億円のブランドを作れました。だけど、これからは少子高齢化でデフレが続きながらeコマースまで出てきて完全に向かい風。戦略性を持たなければ生き残れません。

例えば、僕たちは同じブランドでも立地と価格を戦略的に変えていくことを、経営学を学んで実践しています。最初はラフォーレ、パルコで客単価1万円の価格帯で勝負をして、そのあとに客単価7000円の製品でルミネ、アトレに移る。最近では客単価5000円でららぽーと、イオンにと、販売チャネルと価格を緩やかに、3〜4年ごとに何度も引き直しています。

それが団塊世代の経営者だと、渋谷や原宿の良き時代を引きずっている方が多い。「お客さんに向き合っているかどうかがいちばん大事なんだよ」という浪花節経営で、売上高が500億円あった会社が400億円になり、その100億円ダウンを「お前らの接客能力が落ちているからだろ」となってしまう。

確かに20年前は、雑誌に広告を打つとお客様が来店してくれて、そこでお客様にブランドのフィロソフィーや商品の説明をしており、そのうまいか下手かで商売の結果が分かれました。でも今の時代は、SNSで自ら発信をするインフルエンサーの子たちがいて、その子たちがつぶやくものが売れる時代になっています。


もしかしたら販売員は8時間もずっと接客をする必要はなくて、6時間接客をして、残りの2時間は自分のSNSで「こういう商品が入ってきてかわいいよ」と配信したほうが、明日お客様が来てくれるんじゃないか? 売るために接客トレーニングをするよりは、SNSトレーニングをさせたほうが売れるんじゃないか? 僕たちはそういう議論をしています。

いまは役員や事業部長クラスにも大号令をかけて、「希望者はMBAに行け」と言っています。普段から学ぶ意欲がある、もしくは最近急激に意欲が出てきた社員たちに、会社が環境を作ってあげて、時間もおカネも提供しようという考えです。

団塊世代の経営者の方はすばらしい人脈を持っていますから、夜おいしいワインを飲んで交流している。そのあいだに、われわれの世代は夜学校に行って勉強する。そうして、次のリーダーとして日本を背負っていきたいと考えています。

怠け者の自分を追い込むために学校がある

――石川社長は勉強好きなのでしょうか?

逆だと思います。勉強好きな人は毎日1冊本を読んだり、月に2本カンファレンスを聴きに行ったりしますけど、僕はほっとくと何もしない。大学や大学院に行くと課題が出されて調査もします。やむなしで本を読まなければいけないのです。怠け者の自分を追い込むために学校があって、行くと提出日や期日が出てくるので、さらに追い込まれる。だから学ぶ。そうするとやっぱり発見がある。

まだ僕は47歳なので分かりませんが、60歳まではずっと勉強したい。今は経営を勉強して、いかに会社を伸ばすかにしか興味がありません。でも、60歳からはもしかしたらNPOやファンドを作り、社会のために何を生かしたいか、学びたいかという視点に変わっているかもしれません。

『週刊東洋経済』2月24日号(2月19日発売)の特集は「ライフ・シフト 学び直し編」です。