スピード配送に取り組むヨドバシカメラ。都内では最短2時間半で配送する「エクストリーム便」を見かけるようになった(撮影:梅谷秀司)

家電量販大手のヨドバシカメラが、EC(ネット通販)サイト「ヨドバシ・ドットコム」で躍進を続けている。本や食料品などの約550万品目(2018年1月末時点)を展開し、自社の社員が最短2時間30分以内に配達する「ヨドバシエクストリーム」をはじめ、競争力の高いサービスを展開している。
2016年度におけるEC売上高は、前期比で8.8%増の1080億円。同社最大の旗艦店、マルチメディア梅田の年間売り上げをしのぐ規模にまで拡大した。競合他社は、家電量販首位のヤマダ電機がソフトバンクグループと提携。2位のビックカメラも楽天と合弁会社を設立し「楽天ビック」を2018年からスタートさせて追い上げを図るなど、競争が過熱している。
ECで先行するヨドバシの強さはどこにあるのか。同社のEC事業のキーマンであり、ヨドバシカメラ創業社長の子息でもある藤沢和則副社長を直撃した。

当初の売り上げは微々たるもの

――楽天市場のサービス開始が1997年、アマゾンジャパンがサービスを始めたのは2000年でした。他方、ヨドバシがECに参入したのも1998年と、国内ECの黎明期にあたります。

インターネットの商用利用が本格的に始まったのは、1990年代前半のこと。当時は紙のカタログやテレホン・ショッピングなどの通販の全盛期。米国を見ても、アパレルやスポーツ用品などを扱うカタログ通販の企業が無数にあった。ネットを使って通販を始めれば、これの代替になるのではと思った。

そこでJava(プログラミング言語の1つ)が普及しはじめたことを契機に、ECサイトを作ることになった。当初は300〜400品目程度の小規模なもので、売上高など微々たるもの。ちなみに、2016年からスタートした即時配送サービス「ヨドバシエクストリーム」の構想は、当時からあったものだ。

――当時からECが拡大するという見方をしていたのでしょうか。

古い話になるが、大学で受けていた経済系のゼミで、「将来何が残って、何がなくなるか」という議論をすることがあった。様々な理論を使って、私が導き出したのは、以下の3つのものは残るという結論だ。

1つ目は恋人、2つ目は泥棒、そして3つ目が運送業者だ。いくら時代が進んでも、モノを移動する仕事はなくならないと。

当時から移動や輸送に関するコスト、時間と価値の相互関係などへの関心が高く、その延長線上に今のヨドバシ・ドットコムがあるように思う。私は新卒の段階でヨドバシに入社したわけではないが、別の会社にいたころから、小売りのあり方は大きく変わっていくと思っていた。

小売りの大転換を決定付けたのは、インターネットの登場以上に、スマートフォンの普及だ。2010年に米アップルのiPhoneが日本市場に参入して以降、スマホが浸透していったが、それにより場所を問わずに取引ができる環境が生み出された。ヨドバシ・ドットコムが躍進してきたのも、2010〜2012年ぐらいの時期だった。

日用品の検索回数が増加

――書籍や食品の取り扱いも開始するなど、品ぞろえは家電量販のECという枠を超えています。競合も非家電商品は拡充していますが、ここまでやっているところはありません。


ヨドバシ・ドットコムでは書籍などの購入できるなど、非家電の割合が高まっている(写真:ヨドバシ・ドットコムのサイトより)

ECとリアル店舗に求められる店作りは全然違う。店頭で販売する商品はすべてネットでも買えるが、お客様が日常利用したい商品はネットで拡充していく。現在、ネットにおける売り上げは家電よりも非家電商品の割合が圧倒的に多い。

ネットで家電以外の商品を扱うことになったのは、(2013年頃に)漫画の取扱いを始めたことがきっかけだ。もともと、店頭でゲーム売り場の近くに漫画を置いていた。店頭商品はネットでも扱うので、ネットでコミックスを販売することになった。すると、漫画だけでなく一般の書籍も多く検索されるようになってきた。

本を扱いはじめたら、今度は洗剤やシャンプーなど、日用品の検索回数も増えてきた。同様に、カップラーメンを始めとしたインスタント食品も増えてきて、扱うことにした。数は少ないが、家具やファッション関連も強化している。

検索ボックスに入力された文字を分析して、キーワードを見つけたらそこに対応する、という作業の繰り返しだ。いずれは総合通販のサイトとして利用してもらえるようにしたい。酒類と生鮮食品には対応しておらず、今後の課題と認識している。

――スピード配送にも取り組んでいます。都内を歩いていると、最短2時間半で配送する「エクストリーム便」の車をよく見かけるようになりました。

2016年9月から開始した同サービスは、数字は申し上げられないが、順調に伸びている。配送できるのは、軽トラックに乗る大きさの商品までと制限があるが、ボールペン1本からでも注文は可能だ。現在はあらゆるカテゴリを注文していただいている。現在は東京23区全域と都下の一部に限って展開しているが、今後は地域を拡大していきたい。

即時配送はメリットが多い

――エクストリーム便の場合、配送スタッフはヨドバシの社員と聞いています。


配送スタッフはヨドバシの社員が行う(撮影:梅谷秀司)

ネット通販でも、お客様に商品を手渡しする段階まで含めて満足のいく対応をしたい。そこで宅配業者には委託せず、社員を起用することになった。配送スタッフの中にはもともと売り場に立っていた社員もおり、商品知識は豊富だ。いずれは全員の配送スタッフが、専門的な知識で商品サポートにまで対応できるようにしたい。

――即時配送は、会社にとって負担ではないのでしょうか。

これまでは自社の倉庫から宅配業者さんに商品を渡し、宅配業者の倉庫や配送センターを通り、やっとお客様のもとへ到着していた。ある意味、流通過程にムダがある。即配サービスの場合は、自社倉庫から直接届けるので総コストは下がるはずだ。

在庫を倉庫に滞留させておくより、注文後すぐに届けられたほうが在庫の回転率も上がり、倉庫のスペースも有効に利用できる。できるだけ早く配達することは、お客様にとっても、会社にとってもいいこと。配送スタッフもシフトを組んで対応すれば、過重労働に陥ることはない。

――昨年秋には配送遅延トラブルもありました。即時配送を継続するためには、自社物流の整備が必要です。

大幅に配送が遅れてしまい、ご迷惑をおかけした。当社には、2005年前後に物流拠点を4カ所(札幌、川崎、神戸、福岡)整備してきた。今回、川崎の配送効率を向上させるために隣の敷地に作った新倉庫に移転をしようとしたところ、引っ越しの手順にミスがあって、配送遅延が起きてしまった。注文をさばききれなかったなど、物流が機能不全に陥ったわけではない。現在トラブルは解消している。

自社の土地に建てた川崎の新倉庫は、東京ドーム約4.5個の広さがあり、まだ十分にキャパシティがある。これで、今の約4倍まで品ぞろえを拡充できるとみている。これで即時配送サービスの展開地域拡充も見えてきた。

――店頭で商品を見て、ネットで購入する「ショールーミング」行動を嫌がるお店もある一方で、ヨドバシは積極的に推奨しています。

2012年から、全店舗の店頭展示商品に商品バーコードをつけ、それをスマホのアプリで読み取ると、その商品の店舗ごとの価格比較や口コミが読めるようにした。自社サイトでも購入できるし、バーコードの規格に対応していれば他社のショッピングアプリも利用可能だ。

お客様の中には、帰宅後落ち着いて考えてから買いたい、他社と価格比較をした上で買いたいという人もいる。ニーズがあるのであれば、バーコードも、スマホでの商品撮影もご自由にやっていただきたい。

自前でやっていくつもり

――店舗とECが売り上げを奪い合うことにはなりませんか?


ヨドバシの旗艦店の1つであるマルチメディアAKIBA(撮影:尾形文繁)

ヨドバシカメラ全体でお客様に利用してもらえればいいという考え方を浸透させている。ECは配送費用もあるし、倉庫にも人件費がかかる。ネットが伸びるほど、利益率が上がるというわけではない。

――競合のヤマダ電機はソフトバンク、ビックカメラは楽天と組むなど、競合もECへの対応を急いでいます。ヨドバシが今後IT企業と提携することもあり得るのでしょうか。

今のところは、自前でやっていくつもりだ。売り上げはこれまで連続で拡大してきており、昨年は1000億円を超えた。旗艦店であるマルチメディア梅田、マルチメディアAkibaも抜いて、当社の中の売上高トップはECとなった。いずれはECと実店舗の比率を半分ずつにしていきたい(2016年度の全売上高に占めるEC比率は16.4%)。