有休取得率トップのホンダは7年連続

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有休取得率ランキング1位は7年連続でホンダだった(撮影:尾形文繁)

「キッズウィーク」という言葉をご存じだろうか。子どもの夏休みなど長期休暇を分散化させて、別の時期に連休をつくる取り組みのことだ。昨年7月、首相官邸に「『キッズウィーク』総合推進会議」が設置・開催された。

その目的は、親が子どもと一緒に休暇を過ごす機会を創出することとされており、それによって親の有給休暇の取得を促す狙いも含まれている。この構想が報道された直後には、賛否両論が一瞬巻き起こったが、その後、現在まで同会議は開催されておらず、人々の記憶からは忘れ去られた状態にある。

有休は「働き方改革」国会の論点でもある

有給休暇関連では、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、計画的な取得予定がない場合、5日分は毎年時季を指定して与えなければならないとする改正労働基準法案がすでに国会に提出されている。1月22日から始まった通常国会を「『働き方改革』国会」と位置づける安倍晋三政権は、「同一労働同一賃金」や残業時間の罰則付き上限設定、「高度プロフェッショナル制度」創設などとあわせた関連法案の成立を目指す。


これほどまでに政府が有給休暇取得の促進に血眼になるには理由がある。安倍政権が進めるアベノミクスの成長戦略と絡み、これまでも有給休暇の取得促進のための議論が重ねられ、さまざまな対策や提言が行われてきた。その結果、2020年までに有給休暇取得率を70%とする目標値が定められている。

だが、厚生労働省が毎年発表する「就労条件総合調査」によると、日本の有給休暇取得率は2001年調査(データは2000年)の49.5%以降、一度も50%を上回ることなく46〜49%の間で推移している。直近2017年調査も49.4%で、目標水準とは大きく懸け離れたままだ。


『CSR企業総覧』に収録している項目のなかでも、とりわけ読者の関心の高い項目の1つに有給休暇取得率のデータがある。本稿では各企業の最新データを基に、有給休暇取得率の高い順に300社をランキングし、その傾向や上位企業を中心に特徴的な取り組みを紹介していく。

なお、本ランキングは、『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2018年版掲載の1413社のうち、有給休暇取得率を開示している1174社を対象とした。ランキングのベースデータは有給休暇取得率の3年分の平均値を採用しているため、3年連続で開示のない企業は含まれない。また平均付与日数が10日未満の企業も対象外とした。

トップ3をホンダ系列が独占

今回もランキングトップは自動車大手のホンダで、7年連続で首位の座を維持している。3年平均の取得率は99.6%に達する。ホンダでは、次年度への有給繰越日数の上限は20日で、21日以上の分はカットされてしまうため、有給休暇の残日数を必ず20日以下になるよう、つまり有給休暇がカットされないよう計画的な取得を進める「有給取得カットゼロ運動」という取り組みを進めている。

40年以上前から進められているこの取り組みにより、2006年度以降の直近10年間の取得率をみても完全消化状態にあり、2010年(98.9%)、2012年(99.4%)、2013年(99.0%)、2016年(98.4%)以外の6年は100%を超えている。さらに、一定の勤続年数を経過した従業員を対象に連続有給休暇取得を奨励する制度を導入しているほか、5月や8月、年末年始にもそれぞれ連休が設定されている。

2位はホンダ系の四輪シート部品メーカー、テイ・エス テックで、昨年に続いての2位となった。平均取得率も99.5%と昨年調査から1.1ポイントアップし、首位ホンダに肉薄してきた。同社も「有給休暇繰越カットゼロ」の取り組みを進めていることが奏功している。

東日本大震災やタイの洪水による工場浸水の影響もあって、2011年度は取得率が81.9%に低下したが、2012年4月からは半日単位の有給休暇制度をスタートさせたこともあり、2012年度以降はほぼ完全消化のレベルにある。2016年4月からは半日休暇取得の限度日数を6日分へと拡大し、さらに利用しやすい運用体制を整えている。

3位も昨年に引き続き、同じくホンダ系の部品会社で電子燃料噴射関連や気化器などを製造するケーヒンが入った。直近2016年度の取得率100%達成もあって、平均取得率は昨年の97.6%から99.1%に上昇した。同社も有給休暇繰越カットゼロの取り組みを進めているほか、2014年4月に導入した半日有給制度により、2013年度95.4%から2014年度98.1%と取得率が高まった。

上位で順位を上げた企業の筆頭がトヨタ自動車。平均取得率が94.1%から97.4%へと3ポイント以上アップし、順位も昨年の9位から5位へと上昇した。トヨタの有給休暇は時効3年、つまり今年度の有給休暇残日数は次々年度まで持ち越すことができ、最大60日分保有可能だ。病気やケガ、入院などの際にも利用できるという安心感にもつながっている。100%有給休暇取得を目指し、特に3DV(3日連続取得)を推奨。直近2016年度は取得率102.3%と持ち越し分の取得も進んだことが取得率アップにつながった。

昨年12位から8位へと順位を上げたのはトヨタ車体。ミニバンや商用車など大型車中心に企画・開発・生産を行っているグループ中核企業の1つだ。同社も有給休暇が次々年度まで持ち越すことができるが、それ以降は失効してしまうため、失効する休暇をなくす「年休カットゼロ」活動を推進している。この活動により、昨年まで13年連続で失効した有給休暇ゼロを達成しており、その効果もあり、平均取得率も昨年の93.5%から96.4%へと大きくアップした。

1位のホンダから6位のダイハツ工業まで上位を自動車関連企業が独占。また8位のトヨタ車体以下、20位の東海理化まで上位20社のうち13社を自動車関連企業が占めた。ちなみに11位のエフテックと12位の日信工業は、3年度分のデータがそろったため、今回の調査からランキング対象に加わった企業だ。

今年も大きく順位を上げた東亞合成

自動車関連企業以外では、関西電力が昨年と同じ7位で最上位となり、トヨタ車体と同率8位に今回新たに対象となった生協の物流会社シーエックスカーゴ、10位に昨年は6位で非自動車最上位だったSCSKが続いた。

大きく順位を上げた企業では、昨年調査で102位から50位へとジャンプアップした東亞合成が、今回も50位から36位へと大きく上昇した。同社では残業時間削減だけではなく所定内労働時間も短縮するなどワーク・ライフ・バランスの実現に取り組んでいるが、2015年度からは有給休暇取得率100%を目標に掲げ、取得率の向上に注力している。

休暇の取得予定をシステム管理し、各人の休暇取得予定を把握・確認できる体制を整えたことで、それまで70%台前半にとどまっていた取得率が2015年度には96.3%と一気にアップ、直近2016年度も92.2%と高水準を維持しており、平均取得率も87.3%と大きく上昇した。

45位のコスモエネルギーホールディングスは、平均取得率が昨年79.8%から85.5%へと上昇し、順位も57位から12ランクアップした。同社の「コスモレポート2017」によれば、2015年度より年間総労働時間1900時間を指標として、夜型から朝型勤務への転換(残業加算率の変更)、リフレッシュデー(定時退社)、20時消灯、管理職の人事評価に部下の労働時間実績・改善を反映するなどの取り組みを推進。それに伴い有給休暇の計画的な取得への意識も高まってきたようだ。それが証拠に2014年度まで70%台前半から半ばにとどまっていた平均取得率が、2015年度には89.7%、2016年度は90.9%へと高まっている。

味の素も70位から56位へと順位を上げた。同社では2014年度に味の素流の働き方改革『Work@A』プロジェクトを立ち上げ、フレックスタイムのコアタイム廃止や在宅勤務制度、1時間単位での有給休暇制度など新しい制度を導入した。翌2015年度には、有給休暇取得の目標設定や夏に3日間の有給休暇を計画的に付与するなどの仕組みを導入。その結果、平均取得率は2014年度の76.0%から2015年度は82.1%、そして2016年度は88.8%と浸透してきた。

日本政府観光局(JNTO)のデータによると、2017年に日本を訪れた外国人旅行客は2869万人で過去最高を記録している。確かに、筆者が通勤で利用する東京駅でも、外国人旅行客の姿を目にしない日はない。しかも日本の団体旅行のようにリタイアした高齢者ではなく、むしろ幼い子どもを連れた家族連れだったり、大きなリュックを背負ったグループだったり、明らかに現役世代と思しき若い人たちが大半だ。きっと彼らは、職場の有給休暇を長期で取得し、日本を訪れているにちがいない。ひるがえって日本人はどうか。

周知のとおり、日本人の有給休暇取得率の低さはかなり以前から指摘されている。航空券やホテルの予約サイトを運営するエクスペディアが毎年発表している「有給休暇・国際比較調査」の最新2017年版によると、日本の有給休暇取得率は50%で、調査した30カ国中最下位という結果となった。この調査は2008年以降毎年行われており、2014年と2015年を除けばつねに最下位だ(2014年と2015年は韓国が最下位で、日本は下から2番目)。

日本人の有休取得率が低い根本原因

日本人はどうしてこうも有給休暇をとらないのか。同調査によると、有給休暇取得に「罪悪感を感じる」人の割合が日本は63%と最も高い。そのくせ、転職する場合に重要視することの第1位が「より多くの有給休暇が取得可能」というのだから、どこか矛盾している。

2017年7月に格安スマホを提供するBIGLOBEが発表した「有給休暇に関する意識調査」によると、有給休暇を取得しづらい理由として「職場に休める空気がない」が33.6%で1位となった。以下、「自分が休むと同僚が多く働くことになる」「上司・同僚が有給休暇を取らない」と続く。こうしてみると周囲に対する配慮から(休みたくても)休まないという、「和」を重んじる日本人の気質が如実に伝わってくる。

有給休暇を取りやすくするために変えるべきは?」との問いに対しては、「会社の制度」という回答が全体の3分の2に達し、「個々の意識」という回答の倍になっていることからも、個人の裁量や自主性に任せるだけでは取得率はいっこうに上がらないことが想像できる。


現状、すでに多くの業界・企業で人手不足が常態化し、かつグローバルで人材の争奪戦が激しくなってきている。そういう環境下にあって、有給休暇が思うように取得できない状況が続けば、優秀な人材の獲得競争で大きく出遅れることは必至で、死活問題に直結するといっても、もはや過言ではなくなりつつある。

したがって、政府も企業も有給休暇の取得率アップに大きなエネルギーを注がざるをえない。有給休暇の取得は、働く者の権利である。そして、個人がそれぞれのライフステージに応じた仕事と生活のバランスを実現させるためにも重要である。そうであれば、むしろ必要なのはわれわれ日本人の「個々の意識」の変革のほうであるような気がしてならない。