木村達成「座組みのいいスパイスになりたい」2.5次元からグランドミュージカルへ挑む

「“木村くんのことがよくわかりません”って言われることがあります」と、木村達成は少し気恥ずかしそうな表情を見せて言った。これまで彼が出演した作品で演じてきた役のイメージも相まってだろうか。たしかに、クールでどこかミステリアスな雰囲気も感じさせる。仕事においては自分の意見をしっかり主張し、本人曰く「協調性がなく、敵を作るタイプ」とのことだが、話を聞いていくとそんなイメージを覆す、意外な(!?)木村のチャーミングな素顔があった。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
スタイリング/部坂尚吾(江東衣裳) ヘアメイク/melon
衣装協力/ジャケット ¥42,000、トラウザーズ ¥28,000(KHONOROGICA)、リング ¥16,000、ブレスレット ¥32,000(NORTH WORKS/HEMT PR:tel.03-6721-0882)、インナー ¥14,000(APPLETREES)、シューズ ¥65,000(GRENSON/UNIT & GUEST:tel.03-5725-1160)

ワガママで子どもっぽい…演じる役に共感するところ

3月9日から上演されるミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』。1973年に誕生し、1983年にはブロードウェイミュージカルとしても上演されたフランス劇を原作としています。日本では1985年に上演されて以降、長く愛されているグランドミュージカルですね。
グランドミュージカルに出演したい気持ちがあったので、出演が決まったときは、とても有名な方々と一緒に舞台に立ってお芝居ができるのだろうかという不安もありましたが、とにかく頑張るしかないなと思いましたね。
事実上の夫婦として生活してきた、ゲイクラブのオーナー・ジョルジュ(鹿賀丈史)と看板スターの“ザザ”ことアルバン(市村正親)の性別を超えた異色の“愛”と、家族の絆の物語が描かれる本作。木村さんが演じるのはジョルジュの息子であり、アルバンが母として手塩にかけて育ててきた、ジャン・ミッシェルですね。
前回公演の映像を見させていただいて、ジャン・ミッシェルを自分が演じられるのか?と、さらに不安が押し寄せてきました。
これまでに、山崎育三郎さんや原田優一さん、相葉裕樹さんと名だたる方が演じられました。
僕が演じるという点で、僕らしいジャン・ミッシェルになることは間違いないなと思ってはいるのですが…。でも、「前の方のほうがよかったな」と思われるのはくやしいので、精一杯頑張ります。
ジャン・ミッシェルは突如ジョルジュとアルバンに結婚宣言をしたり、その相手がよりにもよってゲイクラブを厳しく取り締まるダンドン議員夫妻(今井清隆&森 公美子)の娘・アンヌ(愛原実花)だったりと、突拍子のないことをしがちな青年という印象です。
ジャン・ミッシェルと僕は同い年ですけど、彼はまだまだ子どもなんですよね。僕も自分でガキだなと思うし、稽古をするなかで「あ、僕も普段こういうことを親に言っていたかもしれない」って感じるセリフもありますね。
共感できるところも多い?
思ったことを貫き通したいとか、ワガママなところは…僕と似ているところかなと思います(笑)。最近(取材が行われたのは1月下旬)、台本を読み込んでジャン・ミッシェルを知っていくうちに、共感できるところがたくさんあるなと感じているんですよね。

自然と出てくる親子の「似ている」感を表現したい

お稽古も進んでいるということで、作品や役と向き合うなかで当初感じていた不安は少しずつ解消されていますか?
まだまだたくさんありますが、徐々に消えつつあります。今は稽古を通して、その不安をひとつずつ自信に変えていく作業をしている感じですね。
上演まであと1カ月ほどですが、ジャン・ミッシェルをどう自身に取り込もうと稽古に臨まれていますか?
鹿賀さんのお芝居をずっと見ていたいなと考えています。親子って、言葉のニュアンスやしぐさなど、絶対どこかに似ている部分がありますよね。僕も父親のマネをしているつもりはないんですが、「父親に似ている」と言われることがよくあって。ジャン・ミッシェルとしても、そういうところをキャッチしたいなと。
自然と出てきてしまう、親子の「似ている」感を表現したい?
はい。鹿賀さんの姿を見て、自分のお芝居にうまく取り入れたいですね。
たとえばどんなところを取り込もうと?
鹿賀さんの声って、とてもセクシーで引き込まれるじゃないですか。ジャン・ミッシェルとしても、アンヌに愛を伝えるところがあるので、そこをうまくピックアップできたらいいなと今は考えています。
では、これからセクシーな声に変わっていくかもしれないですね。
はい、まだこれから稽古もあるのでどうなるかわからないですが、今の段階は(笑)。
稽古場で鹿賀さんとお芝居をしてみていかがですか?
僕の目を見て芝居をしてくれるんです。僕はまだまだ未熟者ですが、僕のことをちゃんと役者として見てくれているんだなと感じて、すごくうれしいです。
鹿賀さんとお芝居について話されることもありますか?
はい。セリフをすぐに言えるようにと稽古前から台本をすべて覚えて行ったのですが、鹿賀さんとの芝居に緊張して、ジョルジュの感情を先取りしてしまったり、芝居が前のめりになってしまったり…。自分でも自覚があったのですが、そういう部分をしっかり指摘してくださいますね。
アドバイスをいただくのですね。
すごく丁寧に伝えてくださるので、とてもありがたいです。聞いた話なのですが、僕との芝居を通して、鹿賀さんもこれまでとは違う、いろんなジョルジュの表現を稽古で試してくださっているみたいで。
それはうれしいですね。
前回に引き続き出演されている方が多いなかで、新キャストの僕が入ったことで、いろんな表現を試してみたいと思われるような存在になりたいですし、いい意味でスパイスになれたらいいなと思っています。

愛を歌で表現する…はじめての経験に難しさを感じて

では、木村さんから見た市村さんの印象はいかがですか?
じつは、市村さんはご挨拶を一度させていただいただけで、まだ稽古場でご一緒できていないんです。でも、ご挨拶させていただいた際、「よろしくね」と笑顔で言っていただいてホッとしました。うれしかったですね。
では、市村さんと稽古をするのも楽しみですね。
はい。すごく楽しみで、心待ちにしているんです。
お稽古場の雰囲気はいかがですか?
いい雰囲気だと思います! 稽古場にもっと行きたいって思わせる雰囲気がありますね。
素敵ですね。これまでは同世代の方と一緒の現場にいることが多かったと思いますが、先輩が多いというのは、またこれまでと空気感も違いますか?
これまでの現場とはまたひと味違う感覚で楽しいです。みなさんとても素晴らしい方ばかりなので、ついていかなきゃって必死ですね。演出の山田(和也)さんをはじめ、役者のみなさんからアドバイスをいただくこともあるので、言われたことに対しては自分のなかで素直に解釈して発信していきたいなと思っています。頑固だけど頑固じゃない…というか。自分で聞きに行くこともありますし、意見はちゃんと取り入れて改善していきたいと思って臨んでいます。
現状で「ここが課題」という部分はありますか?
ミュージカルなので、いかに感情を理解しながらその気持ちを込めて歌って、相手にその気持ちを伝えるのかっていうところは…今、壁にぶち当たっていますね。僕の役は愛を歌で表現することが多くて、そういったミュージカルもはじめての経験なので…。歌で表現して、なおかつ表情やダンスでも感情を表現しないといけないというのは難しい部分です。
体全体を使って表現するミュージカルならではの難しさでしょうか?
どれかに集中しているとどれかが疎かになっちゃうんですよね。芝居やセリフのことなどを考えてやっていると表情も固まってしまって。ジャン・ミッシェルはまるで夢のなかで歌っているような…もっと表現力を磨くべく頑張ります。
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