公開前に来日したジョン・ウー監督。映画界の巨匠は、「日本映画に大きな影響を受けた」と、つねに公言している (撮影:風間仁一郎)

二丁拳銃、スローモーションのアクション、シンボルとして登場するハト──。1986年に製作された『男たちの挽歌』を筆頭に、『M:I-2』(2000年)、『レッドクリフ』(2008、2009年)などを手掛けてきた映画界の巨匠、ジョン・ウー監督の作品は、特徴的なアイテムやシーンがふんだんに登場する。監督の作風を愛するファンは中国や日本をはじめ世界各国に及ぶ。
そんな監督の新作は、2月9日公開の『マンハント』(原題・追捕)だ。原作は、1976年に高倉健主演で映画にもなった小説『君よ憤怒の河を渉れ』。舞台となる大阪を中心にすべて日本で撮影を行い、キャストもほとんどを日本人が占める。劇中も日本語が多く含まれ、「ジョン・ウー監督が作った日本映画」といっても過言ではないだろう。公開前に来日した監督に、作品が生まれた経緯、日本の映画について聞いた。

──今回の映画を作った経緯を教えてください。

若い頃から高倉健さんの作品が大好きで、尊敬していたし、亡くなったときにはとても悲しみました。


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いつか彼の作品をリメイクしたいと考えていたときに、映画製作会社のメディアアジアから、原作小説の『君よ憤怒の河を渉れ』を再映画化する企画の話が来ました。あらためて脚本を読んで、昔撮った作品の一つに似ていることもあり、OKしました。

以前から日本で映画を撮影するか、日本映画を作るのが夢でした。日本の映画から大きな影響を受けてきましたので、そういう意味では、長年の夢が実現できたと思っています。

高倉健さんが大好きだった

──日本の撮影現場はどんな印象でしたか。

印象はとてもよかったです。チームワークは申し分なかったし、日本の皆さんの意識の高さにも感心しています。数百人単位の人たちが必要な場面がいくつかあったのですが、そのとき、エキストラではなく、ボランティアの方々が出演してくれました。彼らは、別に仕事があるのに、今回のシーンの撮影のために来てくれたんです。日本の方は自分の好きなことなら損得を考えずに一生懸命やってくれる。ほかの国では考えられないことです。

――同じ小説を原作にした佐藤純彌監督の映画『君よ憤怒の河を渉れ』では、街中を競走馬が走るというシーンが象徴的です。馬は意識的に起用したのでしょうか。

今回の作品は、小説が原作で、映画のリメイク版という位置づけではありません。ですので、同じようなシーンを撮影することはしていません。しかし、劇中で馬が出てくるシーンを作ることはできました。馬のシーンを撮影するのは大変です。それに、いろいろなところから馬を集める必要もあり、昔に比べて、馬のシーンを撮影するのは難しくなっています。


「マンハント」の撮影は、大阪を中心に、奈良や岡山などすべて日本国内で行われた ©2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved.

――今回、監督自らが「進化したな」と感じることをあげるとしたらどんな点でしょうか。

今回は弁護士ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)と、刑事(福山雅治)の2人が主人公で、最初は対立していましたが、協力して試練を乗り越えていく内容になっています。

その2人が錠前でつながっている中、銃で打ち合うシーンがあるのですが、“2人で足して二丁拳銃”ということが実現できた。いろんなリアリティにあわせて修正していった結果、これまでにない面白い二丁拳銃の撃ち方ができたと思います。

リアリティという点では、拳銃にもこだわっています。日本の警察の拳銃は5発だけ装填する決まりになっていて、詰め替えができません。それを踏まえて、自分の銃を使いきったあとは、ほかのいろんな銃を使うという、工夫もしています。

もっと大作に挑戦するべき

──監督は、黒澤明監督作品など日本映画のファンであることを公言されています。日本の景色はかなり変わりましたか。

黒澤明監督の作品をよく見ていましたが、都市のイメージは、その頃と今とではまったく違っています。ただ、山や森、川といった自然がそのまま保たれているのはすばらしいと思います。また、小津安二郎監督の作品もよく見ていましたが、そうした作品に出てくるような建物がそのまま保存されている。これはすばらしいことです。

今回の映画では、地車(だんじり)のシーンや桜、酒場といった日本のすばらしいシーンを収めています。また音楽では、黒澤明監督がよくジャズを使っていたので私も多用しています。昔の日本映画で印象的だったものを、意識して映画で再現していますよ。


呉宇森(John Woo)/1946年中国・広州生まれ。香港で育つ。『男たちの挽歌』(1986年)の大ヒットでハリウッドに進出。代表作は『フェイス/オフ』(1997年)、『M:I-2』(2000年)、『レッドクリフ』(2008、2009年)など多数 (撮影:風間仁一郎)

──日本の映画界に一言注文するとすれば。

最近は見る機会が少なくなっているが、深みのある傑作が多い。北野武監督には引き続き映画を撮ってもらいたいと思うし、『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督もいい作品を撮っていると思っています。あと、是枝裕和監督も大好きですね。

ただ、多額の制作費をかけた超大作というのが少ないかもしれません。また、今回、撮影に参加したスタッフの多くが、普段はテレビ番組を中心に仕事をしているというのも気になります。多くの人が日本映画に期待しているし、もっと観たいと思っています。だからこそ、ぜひ大掛かりな作品を作ってほしいと思います。

──『マンハント』を通して伝えたいことは?

文化や国が違っても、それを乗り越えて友情は生まれます。その友情を大切にするべきだと思います。そんなことが作品を通して伝わればと思っています。