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「資料作りが苦手」と話す人の多くは、「何が苦手なのか」がわかっていません。日本IBMでエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャーを務めていた木部智之氏は、「ダメな資料を作る人は、5つの『NG行動』をしていることが多い」といいます。苦手を克服するためのポイントを紹介しましょう――。

※本稿は、木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■資料作りが苦手な人がやっていることは?

資料作成に苦手意識を持っている人は多いと思いますが、資料作成の「何が」苦手だと考えていますか?

「きれいな資料が作れない」「パッと見てインパクトのある資料を作れない」などと思っていないでしょうか?

実はこれらの悩みは、資料作成の本質を取り違えた悩みです。

いい資料とは、決して「見た目」だけがいい資料ではありません。ここを勘違いすると資料作成のドツボにハマるので、気をつけてください。

私も、かつては資料作りに悩んでいました。

しかし、次の5つの行動と決別したとき、格段に資料が作りやすくなり、そして、相手にも伝わる資料になったという実感があります。

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【資料作り 5つのNG行動】
(1)いきなりパソコンを開く
(2)デザインにこだわる
(3)箇条書きツラツラと書く
(4)「対策」より先に「原因」を書く
(5)「文章」が多い

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▼資料作りのNG行動(1)いきなりパソコンを開く

パソコンのソフトを立ち上げ、内容を考えながら文字を入力し、関連する図表を作成し、そして、細部の見た目もきれいに整えながら進めていく……。

このように、資料の構成を考えながらパソコンで作業するのは、最もやってはいけないNG行動です。

パソコン上では、作成途中で「やっぱり、こうしよう」と思ったときに、やり直しが大変です。また、資料の頭から考えながら進めていくと、資料のページ数が予想以上に膨れあがったり、ヌケやモレも発生しがちです。そして、フォントを工夫したり、図表の美しさにこだわったり、「本質的でない細かい作業」に時間をかけてしまったせいで、納期に間に合わず、途中までしかできていない資料を提出せざるを得ない……という残念な結果を招いてしまう可能性もあります。

現在の私は、資料作成する際に作業分量の8割を手書きで準備しています。

資料作成時には、やり直し作業がつきものですが、パソコン上でのやり直しはかなり時間がかかります。それに比べれば、手書きでのやり直しは手間がかかりません。

コンテンツの洗い出し、構成の検討や図の検討までは紙に手書きで行い、パソコンを使う作業は最後だけ、というのが最速で資料を作るポイントです。コンテンツは手書きでほぼ完成していますから、パソコン作業では頭はまったく使わず、文字を清書するイメージでサクサク作れます。

▼資料作りのNG行動(2)デザインにこだわる

資料の見た目がキレイだと、なんとなく「デキる人の資料」のような印象を受けますが、ちょっと読めば、そのメッキははがれてしまいます。

繰り返しになりますが、資料の本質は「こちらが伝えたいことが、きちんと伝わるかどうか」です。

グラフをきれいにする、色使いをきれいにする、インパクトのあるチャートにするなどといった資料の見た目をキレイにする作業は、最後の最後、「残った時間」でやればいいのます。見た目にこだわる作業は、キリがありません。「残りの時間で手をつけて、資料の納期が来たらやめよう」くらいの位置づけが適当です。

とは言っても、簡単に見た目をキレイにする方法もあります。例えば、マトリクスの表は、罫線(けいせん)の引き方と色使いをちょっと変えるだけで見た目がずいぶんと変わります。これは簡単なので、ぜひ一度やってみてください。

図1のように、罫線とフォント、色を少しだけ工夫すれば、何の工夫もない罫線を引いただけのものより見やすくきれいなマトリクスになります。この作業は、大して時間もかかりません。少しの時間で効果が出るので便利です。

▼資料作りのNG行動(3)箇条書きでツラツラと書く

ビジネススキルの本に「文章は短いほうがいい」という文言があふれているせいでしょうか? 箇条書きを多用している人も多いようです。

ですが、全体の構成や論理を考えず、ひたすら箇条書きが連なっていく資料はわかりにくいです。事実をていねいに正確に書き連ねていても、相手に伝わる資料にはなりません。それは議事録です。

相手に伝わる資料で重要なのは、「何を誰に伝えるか」を念頭に置いて、「論理的に整理して組み立てていくこと」です。相手の顔を思い浮かべ、その相手にきちんと伝わる順序(論理)で書かれていなければいけません。

このとき、伝える内容と順序を決めるときに便利なツールがあります。それが「ピラミッド構造」です。(図2)

ピラミッド構造のタテ軸は、

・「Why So?(○○すべきです。なぜなら〜)」(上から下)
・「So  what?(〜なので、○○すべきです)」(下から上)

の2つを表現しています。

ピラミッドの上に行くほど抽象的で、下に行くほど具体的になるとも言えます。

一方、ヨコの方向には同じ「階層レベル」の情報を並べていきます。

例えば、「関西」の話が出たならば、それと同列のヨコには「関東」や「九州」があり、そして、「関東」をタテに深掘りすると「東京」「神奈川」があるというイメージです。

このようなピラミッドを意識すると、自分が伝えたいことの「全体像」を捉えた上で資料を作成できるようになります。

▼資料作りのNG行動(4)「対策」より先に「原因」を書く

「原因」や「問題」があるから、その「結果」や「対策」につながるのですが、資料では、この思考するときの順番で書いていくと、まどろっこしく、冗長な文書になってしまいます。

ビジネス文書の原則は、「結論が先」です。

例外もありますが、「○○すべきです。なぜなら?」というように、「結論→理由」の順番で伝えるのが基本です。特に忙しい会社の上司や上層部に見せるような資料なら、この基本に従ったほうがよいでしょう。

▼資料作りのNG行動(5)「文章」が多い

どんなに懇切丁寧に書かれていたとしても、文字だけがギッシリ書かれた資料は、読み手側に負担をかけてしまいます。近年、刊行されるビジネス書なども、ずいぶんと文字量が少なくなっています。さらっと読める新書や入門書が人気です。文字の多い資料は、読み手の努力を要する時代となったのです。

ですから、伝わる資料を作成する際は、表やグラフなどのビジュアルを使うことが必須です。

つまり、良い資料とは、「読んでわかる」資料ではなく、「見てわかる」資料ということです。

図解に苦手意識のある人もいるかもしれませんが、図解には、美的センスや「絵心」は必要ありません。

伝えたいことを2軸(タテ・ヨコ)で整理したマトリクス、4象限、グラフの図解で表現できれば、ビジネス資料としては十分なレベルの図解が作れます(私は、タテ・ヨコの2軸で整理することを「2軸思考」と呼んでいます)。

2軸で作られた図解は、内容が論理的に整理されていなければ書けません。

すなわち、論理的に整理されたものが提示されているので、読み手側にとっては、理解しやすく、「伝わる資料」となっているのです。

いかがでしたか? みなさんの資料に上記のNGポイントは隠れていませんでしたか? 「相手に伝わりやすい資料」をサクサク作れるようになると、自分の仕事の効率化に直結します。ぜひ、お試しください。

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木部 智之(きべ・ともゆき)
元日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー。横浜国立大学大学院環境情報学府工学研究科修了。2002年に日本IBMにシステム・エンジニアとして入社。2017年より現職。著書に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(以上、KADOKAWA)がある。

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(元日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー 木部 智之 写真=iStock.com)