小山昇『絶対会社を潰さない社長の口ぐせ』(KADOKAWA)

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ダメになる会社と業績を上げ続ける会社は、どこが違うのでしょうか。中小企業の経営コンサルティングなどを手がけ、16年連続で増収を続けている武蔵野の小山昇社長は、「会社は社長ひとりで99%決まる」と断言します。そのうえで「残念な社長を見分けるポイントは3つある」といいます。そのポイントとは――。

※本稿は、小山昇『絶対会社を潰さない社長の口ぐせ』(KADOKAWA)の第1章「絶対会社を潰さない社長になるための10の口ぐせ」の一部を再編集したものです。

ポイント1:社長しか責任を取ることができないことを自覚していない

わが社は、「クレームを発生させた責任は、すべて社長にある」と定義しています。

クレームを引き起こした人を採用したのも、クレームを発生させかねない未熟な社員に担当させたのも、クレームが起きる商品を扱ったのも、そして電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのもすべて社長である小山昇の責任。これが武蔵野のルールです。

クレームが起きても、私は社員の責任を一切追及しない。給与の減額もしないし、降格人事もしません。

社員の責任を追及しないのは、社長しか責任を取ることができないからです。「責任を取る」とは、「経済的に損をする」ことです。

クルマで接触事故を起こしたとします。原因はあなたの前方不注意で、相手のクルマのボディーがへこみました。このとき、あなたはどのように責任を取りますか?

「私の運転ミスでした。今後は気をつけます」と謝っただけでは、事態は収拾しません。正しい責任の取り方は、「修理費を負担する」ことです。経済的な損を取らない人は、責任を逃れただけなのです。

■会社は、社長ひとりで「99%決まる」

二十数年前、私は、当時の常務の提案を受け、ある事業を始めました。

ところが事業は失敗し、4億円もの損失を出してしまいました。おそらく常務はクビや降格を覚悟したと思います。

しかし私は、「あなたがこの話を持ってきたのは事実だが、決定したのは私。だから、損をしたのも私の責任」と「私が責任を取る」ことを示しました。そして、「これから、あなたがやることはひとつ。損失に見合う稼ぎを上げること」と付け加え、彼の奮起を促しました(結果的にその常務は、毎年2億円を稼ぐしくみをつくりました)。

残念な会社の社長は、失敗を部下に押し付けます。ですが、会社の赤字も、事業の失敗も、社員のせいではありません。会社の業績が悪化するのは、すべて社長の責任です。

そもそも社長と社員では、とるべき責任が違います。

社員の仕事は、社長が決めたことを実行することです。会社の方針を実行し、実績や成果が得られれば、それは社員のお手柄。ですから、「実施責任」は社員にあります。

けれど、「利益責任」を取れるのは社長だけ。会社は、社長ひとりで「99%決まる」のです。

最終的な責任は社長しか取ることができない、このことを自覚できない社長は「残念な社長」と呼ばざるを得ません。

ポイント2:会社は社長が決定したようにしかならないことを知らない

自社の経営が思わしくないとき、残念な社長は、原因を外部環境に求めます。「市場に活気がない」「人材が不足している」「消費が冷え込んでいる」「商品に魅力がない」……と言い訳をするのです。

ですが、それは間違いです。会社が赤字になるのは、外部環境のせいではありません。会社が赤字になるのは、社長が「赤字でもいい」と決定したからです。会社が潰れるのも、社長が「倒産やむなし」と決定したからです。

「そんな決定をする社長などいるはずがない」と思われるかもしれませんが、経営環境が厳しいことがわかっていながら、有効な対策を取らなかったということは、「赤字でもいい」「倒産していい」と決定したのと同じです。

■人間心理を無視した経営はダメ

会社は、社長が決定したようにしかなりません。そして、経営計画書は、社長の決定の集積です。

いくつかの選択肢の中から、「やること」と「やらないこと」をはっきりさせ、「やる」となったら徹底的に、勝つまでやる。やらないと決めたことはクヨクヨ振り返らない。

それが、先行き不透明な現代社会で小さな会社のかじ取りをしていく秘訣なのです。

私は、「人間心理を無視して経営をしてはいけない」と考えています。社員は、「面倒なことはやらない。都合の悪いことはやらない」のがまともです。だとすれば、「面倒なことでも、都合の悪いことでも、やらざるを得ないルール」を決定するのが社長の務めです。

私は、ビジネスに直結することだけでなく、クルマの運転のしかた、安全運転の心得に至るまでルールを定め、1冊のルールブックにまとめています。

そしてこのルールブックこそが、当社の経営計画書となっているのです。

たとえば社長が口頭で、「おい、運転中は携帯電話は禁止だ」と社員に伝え、社員は「はい」と返事をしたとします。

けれど、「はい」と返事をしたからといって、ルールが実行されるわけではありません。社員の「はい」は、「聞こえました」という意味であって、「実行します」という意味ではないからです。

そこで私は、社員が「やらざるを得ない状況」をつくっています。「重大事故防止のために全車両にクラウド型ドライブレコーダー管理システム<タイガー>を設置し、運転マナーを向上させる」と経営計画書に明記することで、実行を促しているのです。

会社は社長が決定したようにしかなりません。そのことを知らない社長、実行できない社長は「残念な社長」と言わざるをえないのです。

ポイント3:強い“覚悟”を社員に示すことができない

前述のように、私は経営計画書に社員の運転マナーの向上まで織り込んでいます。

しかしながら経営計画書は、あくまで社長の姿勢を示すものであり、社員の姿勢を示したものではありません。

社長として自分が「こうする」「ああする」と書くべきであって、あまり社員に「ああしろ」「こうしろ」と書いてはいけません。ついでに言えば、「こうしたい」「ああしたい」という社長の願望を書くものでもありません。

会社の中で責任を取れるのは、社長ひとりです。だから経営計画書には、社長の決意と責任の所在を記す必要があります。

ちなみに、わが社の経営計画書には、「経営計画発表にあたって」と題した一文が掲載されています。これは経営計画書の中で、私がもっとも時間をかけて作成している項目です。その最後に、「無理を承知で、みなさんに協力をお願いします」と書いているのは、社員に仕事や責任を無理強いするためではありません。

「社員の誰よりも、社長自身が無理を承知で頑張る」という私の姿勢、覚悟を表すためです。

わが社の社員が結婚し、子どもが産まれたとします。

子どもは、ずっと赤ん坊のままでいるわけではなく、成長します。

子どもが成長すると、養育費がかかる。お金がかかるのに給与がいつまでも変わらなければ、安心して子どもを育てることができません。

社員の生活を守るためには、社員の給与を上げなければならない。そして、社員の給与を上げるためには、なんとしてでも売り上げを上げ、利益を出し続ける必要があります。

つまり、「無理を承知で」というのは、社員と、社員の家族を幸せにするために、「私は、社員の給与を上げるために頑張る」「社長が先頭に立って、汗をかいて働く」という社長の覚悟です。

■会社を倒産させる社長は「卑怯な社長」である

なお、私は会社を倒産させる社長は「卑怯な社長」だと考えています。

わが社の社員が、結婚をしたり、子どもを育てたり、家を買ったりするのは、「武蔵野は倒産しない」と信じているからです。その信頼を裏切り、会社を潰してしまうのは卑怯です。

私は、会社を倒産させるわけにはいかない。卑怯な人間になるわけにはいかない。だから、「無理を承知で頑張る」。この強い覚悟を皆に示し、日々実行しているのです。

こうした強い覚悟を示すことができない社長は、やはり「残念な社長」と言わざるを得ないのです。

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小山 昇(こやま・のぼる)
1948年山梨県生まれ。東京経済大学を卒業し、日本サービスマーチャンダイザー(現在の武蔵野)に入社。一時期、独立して自身の会社を経営していたが、1987年に武蔵野に復帰。1989年より社長に就任し、現在に至る。主な著書に「社長の決定シリーズ」の『経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』『右肩下がりの時代にわが社だけ「右肩上がり」を達成する方法』(すべてKADOKAWA)などがある。

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(武蔵野社長 小山 昇)