「和食はヘルシー」とつい思い込みがちだが……(写真=iStock.com/helovi)

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和食は世界に誇るヘルシーフードと言われます。それに対し、肉を中心にした欧米型の食事は健康に悪いというイメージを持つ人が多いようです。ところが近年、そのイメージに反する調査結果が発表されました。2月に新著『だまされない』(KADOKAWA)を刊行した医師・作家の鎌田實さんが解説します――。

体にいい食生活というと、みなさんはどんなものを思い浮かべますか。ご飯に味噌汁、焼き魚といった、いわゆる伝統的な日本の食卓をイメージされるかもしれません。

実は、国立国際医療研究センター等の研究チームが、興味深い研究結果を発表しています。この研究では、食事の内容を健康型、伝統型、欧米型の3つのパターンに分け、それぞれの死亡リスクについて調べました。健康型の食事とは、野菜、果物、イモ類、大豆製品、きのこ類、魚、緑茶など。伝統型の食事は、ご飯や味噌汁、漬物、魚介類など。欧米型の食事は、肉、パン、乳製品、果物のジュース、コーヒーなどです。

■伝統的な和食より「欧米型」が寿命を延ばす?

このなかで、最も死亡リスクが低かったのは、健康型の食事の傾向が強い人たちでした。これは容易に想像できる結果です。しかし、健康型に次いで死亡リスクが低かったのは、欧米型の食事の傾向が強い人たちだったのです。

具体的には、健康型の食事の傾向が強い人たちは、同じ傾向が弱い人に比べて心臓病の死亡リスクが25%低いという結果が出ましたが、欧米型の食事の傾向が強い人も、傾向が弱い人より12%低くなっていました。脳血管疾患による死亡リスクも、健康型の食事の傾向が強い人たちは37%低くなっているのに対し、欧米型の食事の傾向が強い人たちも12%低くなっていたのです。思いのほか、いいのです。

一方、伝統型の食事パターン、つまり典型的な和食の傾向が強くても、死亡リスクは下がらないこともわかりました。これも、「和食は健康にいい」と思っている人たちには、意外な結果だったかもしれません。なぜ、欧米型の食事が伝統型の食事よりも死亡リスクを下げたのでしょうか。

その理由は、いくつか推測できます。1つ目は、欧米型の食事は、伝統型の食事より塩分が少ないこと。塩分は高血圧の原因になり、脳や心臓などの血管に負担をかけて、重大な病気を起こします。2つ目は、欧米型の食事はタンパク質が豊富なことです。ヨーグルトやチーズなど乳製品や肉類には、良質なタンパク質が含まれています。

■50を超えたら、メタボより「栄養失調」に注意

肥満については関心が高く、生活習慣病を防ぐためにダイエットしている人も多いでしょう。その一方で、タンパク質が不足し、栄養失調になる人も多いのです。特に高齢者のタンパク質不足は要注意です。タンパク質が足りないために、筋肉や骨がやせ、ちょっと動くだけでもつらくなっていきます。すると、運動機能が衰え、心臓や肺の機能も低下し、〈フレイル〉と呼ばれる虚弱状態に陥っていきます。

食べ物があふれている現代社会に、栄養失調なんてありえない――。そう思っていませんか? 実はいま増えているのが、高齢者の栄養失調なのです。60代まで肥満や小太りだった人も、75歳前後になると、だんだんと食が細くなり、体重も減ってやせ始めてしまうケースが少なくありません。この状態が続くと、骨や関節が弱り、筋肉も減っていき、ちょっとしたことで転んで骨折しやすくなります。大きなけががきっかけで、寝たきりになったり認知症になったりすることにもつながってしまうのです。

こうした問題に詳しい、東京都健康長寿医療センター研究所副所長の新開省二先生に話を聞きに行きました。先生は『50歳を過ぎたら「粗食」はやめなさい!』(草思社)という本を書いています。1番メタボが気になる50代で粗食をやめるとはどういうことかと思い、聞いてみると、60代、70代に低栄養による寝たきりや認知症などになって寿命を縮めないよう、50代から食生活に関心を持ち、効率的に質の高い栄養をとるように心がけてほしいとのことでした。

たとえば、コレステロール、肥満、中性脂肪が気になって、牛乳は飲まない、卵は食べないという人がたくさんいらっしゃいます。しかし新開先生によれば、栄養バランスに優れたこれらの食品をわざわざ「絶対に食べない」などと除外せず、少量でもいいので食べるように心がけることが大切なのだそうです。

新開先生は穏やかな表現をされましたが、「僕は1日卵3個までいいと思う」と言い切るほど、タンパク質を重視する健康法をすすめてきました。納豆や高野豆腐もタンパク質を充てんする食品としておすすめです。

■運動後30分以内にタンパク質を摂取せよ

また、60代を過ぎてからも、筋肉の量を保つことが重要です。残念ながら年齢とともに筋肉量は減っていきますが、運動によってその減少を食い止めたり、減ってしまった後でまた増やしたりすることは可能なのです。

運動した後の30分間は、筋肉の「ゴールデンタイム」と呼ばれます。このタイミングにタンパク質を摂取すると、通常よりも多くの栄養が筋肉に渡り、筋肉が増えやすくなるのです。僕自身、スクワットとウォーキングをしたあとの30分以内にタンパク質をとることを続けてきました。

これに加えて「鎌田式かかと落とし」を行っています。電車でつり革につかまって、つま先はそのまま、かかとだけ上げてストンと落とす、これを10回ほど繰り返します。骨に上から下への圧がかかって、骨が強化されるといわれています。

そのほか、干ししいたけを、焼いたり炒め物などに使って食べます。食べる前に2時間ほど天日干しすると、骨を強化するビタミンDが通常の4倍ほど強化されます。サラダや炒め物などには、小魚をたっぷりとふりかけて食べます。その甲斐あって、最近の僕の骨密度測定結果は、若年成人の132%。若い人よりも骨密度がはるかに高いのです。両手を胸の前で組んで、ゆっくり腰を上げ下げする「鎌田式ゆっくりスクワット」は太ももの強化をともない、運動することで血圧が下がる効果もあります。

僕の血圧は120/70mmHgくらいです。僕には糖尿病の遺伝体質がありますが、カロリー制限をしないのに、タンパク質たっぷりの食事と運動をしっかりやることで、血糖値もヘモグロビンA1cも、1度も異常値に近づいたことがありません。運動することで太ももから筋肉活動性物質が出るので、糖尿病の遺伝子があっても、やることをやっていれば大丈夫なのです。コレステロール値も中性脂肪も、完璧に正常です。1日1食飢餓療法とか、粗食がいいとかいう言葉にだまされないでください。食べない健康法は長続きしません。野菜とタンパク質をしっかりとって、減塩をして運動をするという大原則を忘れないようにしましょう。

■長生きの合言葉「まごはやさしい」

僕が食生活の改善に取り組むとき、合言葉のように言っていたのは「ま・ご・は・や・さ・し・い」です。「ま」は豆、「ご」はゴマ、「は」は発酵食品、「や」は野菜、「さ」は魚、「し」はしいたけなどのきのこ類、「い」はイモ類。しかし、これで完璧ということはありません。「まごはやさしい」という食生活に、欧米型の食事のいい点に注目して、ほどほどの肉と乳製品を取り入れていくことが大切です。

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鎌田實(かまた・みのる)
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。新著『だまされない』(KADOKAWA)が刊行中。

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(医師・作家 鎌田 實 写真=iStock.com)