株価の下落は収まったのだろうか(写真:しまじろう/PIXTA)

日米株価の調整が進んだ。NY(ニューヨーク)ダウ工業株指数は2月9日(金)のザラ場安値2万3360ドル、日経平均株価は2月14日(水)の同2万0950円で、底値を形成した可能性が高い。

それぞれの安値が、振り返ってみれば今年の最安値であった、ということになると考えているが、もちろん、その水準を割り込んで安値を更新する可能性はゼロではない。ただその場合でも深く大きく割れる公算は薄そうだ。したがって両指数は、ずばり底値でないとしても、底値「圏」を形成したと判断している。

米株価下落の「本質」は、買われ過ぎからの「正常化」

今回の世界的な株価下落は、米国発だった。そして米国株価がなぜ下落したかと言えば、当コラムで繰り返し述べてきたように、米国経済や企業収益が悪化したわけではなく、実態と比べて買われ過ぎていた株価が、適正な価値に向かって「正常化」したためだ。

米長期金利の上昇は、株価の買われ過ぎが解消に向かうきっかけではあったが、逆に言えば、きっかけに過ぎなかったとも言える。米10年債利回りは、これまで上昇が鈍かったことが異常だった。

好調な米経済指標等に照らしてみれば、10年債利回りは3.5%程度でもおかしくはなく、現在のような2.9%前後の水準自体は、問題ではない。景気が強いからこそ、金利が上昇したわけだ。そう考えれば、2.6%近辺から2.8%強に長期金利が上昇した際に、株式市場から債券市場に資金が流れると大騒ぎして株価が下落したのに、ここ数日は長期金利が2.9%を超え2.94%にまで一時迫る動きをしたにもかかわらず、米株価が平然と上昇したことも、うなずける。

では、その米株価下落の「本質」を考えるうえでの、「買われ過ぎ」や「適正な価値」をどう判断するかというと、これも当コラムで述べたように、予想PER(株価収益率)でみるべきだと考えている。

S&P500指数の予想PER(当期予想利益ベース)は、ここ数年は16〜18倍の範囲で推移してきた。特に上限の18倍は、2006年辺りから見ても、上限として機能してきた。ところが2016年後半以降は、18倍を超えることが恒常化し、今年1月には20倍もはるかに超えて、買われ過ぎが際立っていた。

この予想PERが、16〜18倍に戻れば、買われ過ぎは解消されたことになる。上記の予想PER算出に用いた予想利益には、アナリストが連邦法人税率引き下げの利益押し上げ効果をまだ十分に織り込んでいないと推察されるため、それを補正して、S&P500指数のPERが18倍(レンジ上限)、17倍(レンジ中央値)、16倍(レンジ下限)になった場合の、NYダウの相当する水準を試算すると、それぞれ2万4155ドル、2万2813ドル、2万1471ドルとなる。

これに対して、NYダウの直近のザラ場安値が前述の2月9日(金)の2万3360ドルだった。つまりPER18倍相当の2万4155ドルを割り込んだので、買われ過ぎはいったん解消されたと解釈でき、それが底値形成であったとしてもおかしくはないと言える。

日経平均も底値「圏」を形成しつつある

では日経平均株価はどうか。最近の株価下落は、日本の経済や企業収益が悪化したわけでもなく、また日本株はPERでみて、それほど割高でもなかった。そのため、日本株の下落は、米国株に連動したものに過ぎず、米国株が反転上昇に向かえば、日本株も上昇すると予想される。

前述のNYダウの下値メド試算値を用い、NYダウと日経平均が同率変化するという前提を置けば(かなり大雑把な前提だが)、米国株PERの18倍、17倍、16倍相当の日経平均は、それぞれ2万1587円、2万0388円、1万9189円となる。日経平均の最近のザラ場安値は、2月14日(水)の2万0950円であったわけだが、これも米国株でみたPER18倍相当値を割り込んでおり、調整十分という結論でもおかしくはない。

なお、日本の経済や企業収益は悪くなく、日本株は割高でもなかった、と語ったが、日本の株価に脆弱性はあったと考えている。それは、昨年10月や今年初の株価の急上昇は、確かに実態面で企業業績が改善していたため、株価が上がること自体に違和感はなかったが、海外短期筋が日経平均先物買いで日経平均株価ばかりを吊り上げ、株価上昇の「お化粧」をしていた、という点だ。

それはNT倍率(日経平均÷TOPIX)の動きに表れていた。昨年10月や今年初の株価上昇は、NT倍率の上昇を伴っており、企業業績のよい銘柄が幅広く買われていたというよりも、海外短期筋の日経平均先物買いで、日経平均「ばかりが」吊り上げられていた、という感が強かった。先物を買っていた短期筋が手仕舞い売りを進めれば、株価が反落する、というリスクが積み上がっていたわけだ。したがって、昨年10月や今年初めの株価急騰時は、「わーい、株価が上がってうれしいな〜」と舞い踊るのではなく、「こうした相場付きはおかしい、いずれ株価が大きく反落するに違いない」と警戒した方が、正しかったのである。

今回、米国発の株価下落で、短期筋の日経平均売りも進み、NT倍率も大きく反落して、昨年10月半ばの水準まで一時低下した。この点で、投機筋の手仕舞い売りも相当進んでしまったと解釈できるため、その後の日経平均が戻り歩調に復してもおかしくないだろう。

こうして日米株価はすでに底値をつけ、これからは実体経済に沿った上昇基調をたどると見込んでいるわけだが、もちろん、今回の下落で傷んだポジション(システム売買などを含む)の投げはまだあるだろうし、完全に投資家心理が改善しきったわけでもないだろう。そのため、直近の日米株価のザラ場安値を割り込む可能性はゼロではない。とは言っても、前述の分析から、仮に割り込んでも大きく深く割れるとは見込んでいない。

直近の安値を割り込むのか割り込まないのか、どちらなのか予想できないのか、と問われれば、それを見通す能力は筆者にはない。見通すことができる、と語っている専門家の話を聞いていただきたい。

いずれにせよ、日米株価ともに底打ちしたあとは、緩やかな企業収益回復に沿った、緩やかな株価上昇基調をたどりそうだ。ただし、ここで「緩やかな株価上昇」と語ったのは、予想というよりも筆者の「願望」だ。おそらく短期的には、また米国株価などが、勢いづいて上振れすることもあるのだろう。ただ、そうして株価上昇が行き過ぎれば、再度大きく調整し、その後仕切り直してまた上昇する、といった繰り返しになると見込まれる。

ドル円相場も、そろそろ円高一巡か

円相場も気になるところだ。1月初旬は日銀の債券買い入れ減額が円高材料とされ、最近では2月15日(木)の麻生太郎財務相の「特別に介入せねばならないほど、急激な円高でもない」という発言を材料視する向きもあった。ただし、それは円高の本質ではない。

かなり前から筆者のところに、米系ヘッジファンドなどから、「米ドル買い円売りのポジションを積み上げてしまったため、噂でも嘘でも間違いでも何でもいいから、円を買い戻す材料が出ないか」という問い合わせは多かった。つまり、海外勢が、本気で日銀が量的緩和を縮小すると信じているわけではなく、麻生財務相の発言を重大視したわけでもなく、最初から「円を買うことに決めていた」ため、円高材料に「使われた」といったところが真相だったろう。

最近の円高局面は、1月上旬の1ドル=113円から108円への5円幅の動きと、その後110.50円辺りに戻った後の105.50円までの5円幅の動きといった、「2回の5円幅」で、円売りポジションは相当掃除されたように推察される。そのため、米ドル安・円高もそろそろ一巡だろう。

そもそも国内株価への影響という点では、ここ数日は、円高でも輸出企業の株価が堅調だ。これは、足元の輸出増が、為替によるものではなく、世界経済の回復に伴う実需増によるものだ、という点を踏まえれば当然だが、今後も過去に比べれば、日本株は円高抵抗力を強めそうだ。

以上述べてきたような株価の底入れ上昇の流れの中で、今週の日経平均株価は、2万1500〜2万2400円を予想する。