「フリーアドレス」は今度こそ根付くでしょうか(写真 : tkc-taka / PIXTA)

フリーアドレス人気はこれで「第2世代」

オフィスの座席を固定でなく、「フリーアドレス」に変える会社が増えています。フリーアドレスは1990年代後半より外資系企業やIT企業で盛んに導入されてきました。理由は、床面積を減少させて、家賃を下げたかったから。


この連載の一覧はこちら

バブル崩壊後だった当時は景気も悪く、多くの会社がコストを下げる手段を必死で探していました。営業系を中心に、デスクワークの時間が短い職種の人が多い職場にフリーアドレスが導入されました。これが第1世代といえるかもしれません。

それはちょうど、ICT(情報通信技術)の発達で実施が可能になったタイミングでもありました。それ以前は机上の固定電話、簡単には持ち運べないパソコン端末、膨大な紙文書でしか管理できない状況。ニューオフィスという言葉が流行し、インテリア意識が高まり、人間工学を考慮した椅子、業務に合わせた多様なレイアウトスタイルが登場していました。

それでもフリーアドレスの実施は障壁が多く、実施はなかなか厳しいものがありました。それが携帯端末の普及によって、モバイルワークというスタイルが出現。ユニバーサルプランと呼ばれる、組織に合わせてレイアウト変更工事をする必要がないオフィスレイアウトも可能になり、フリーアドレスがぐっと実現しやすくなりました。

筆者も前職で第1世代のオフィスに勤務したことがあります。働き方が変わる……と熱く語る管理部門の話を聞きながら、環境変化を痛感したことを覚えています。ところが高い期待で導入されたフリーアドレスは定着せず、数年ともたずに元の固定席に戻した会社が大半でした。「先端のオフィス環境をご覧ください」と自慢していたにも関わらず、現場の不満や業務上の障害が発生したからです。

ところが四半世紀を経て、フリーアドレスが再び注目され、オフィスに導入が進んでいます。まさにフリーアドレス第2世代と呼んでいいのかもしれません。この第2世代がどうして注目されるようになったのか? そして、継続するのでしょうか?

筆者が仕事で関わる多くの会社で、第2世代のフリーアドレスが導入されています。きっかけは働き方改革とオフィス移転。残業を削減するため、また会議や作業の効率化を図るため、コミュニケーションの手法を見直す動きが出てきました。

たとえば、長時間の会議をするより、部門横断的なコミュニケーションができる環境を構築し、日常の中でビジネスが進む状況を作りたいと考える現場が増えてきました。筆者が取材したある製造業の会社では、組織を分断していたロッカーを移設。オフィススペースのコンパクト化を図りました。そして、柔軟な座席配置にしたのに加え、チーム型机を導入。管理職も一般社員も横並びで「空いている席をみつけて、仕事をする」フリーアドレス環境に転換しました。

管理部門は、管理職からの反対を想定していましたが、以外にも(?)反対意見はゼロ。管理職も横のつながりを強化することで、業務効率を上げられると感じたようです。

実際に導入後も想定通り、コミュニケーションが円滑化し、管理職も一般社員も満足度が高いとのこと。

あるシステム開発会社でもフリーアドレスの導入により、業務スペースが小さくなり不満が出ると思ったところ、「打ち合わせのスピードが速まった」などと現場は好意的。成果にもつながっているという意見が多数寄せられているそうです。

働き方にも変化を生み出している

フリーアドレス導入は、働き方にも変化を生み出すようです。決められた机で上司の指示待ちであった社員がフリーアドレスで働きはじめたことで、「どの席に座るか?」「何時まで働こうか?」と考える機会が増えて、主体的に仕事に取り組むようになったケースが生まれていると聞きます。このように筆者が取材したフリーアドレス導入企業で大半は「継続をしていきたい」と前向きな意見でした。それでは、第2世代はこれからも続くでしょうか?

オフィス仲介大手・ザイマックス社の調査で、フリーアドレスを導入済みと回答した会社は2割弱。しかも全組織で導入したのではなく、フリーアドレスに適した部門での部分的な導入に限定している会社が多数でした。まだまだ、オフィス環境の中心にあるわけではありません。第2世代に成功している企業は、管理部門などが第1世代時代の反省を踏まえているなど、限定的に導入が進んでいるようです。

総務など、社内の人が多く訪ねてくるために席位置を固定したほうがいい部門。あるいは法務や経営企画など、情報管理上などの事情で、席を固定する必要がある職種。業界的には金融、商社など、さほど実施や検討が進んでいない業界もあります。

さらにフリーアドレスをやるとして、どれくらい自由度を持たせるかは悩ましいところです。そんな中で異彩を放つのが、菓子・食品を手がけるカルビー。座席を決めるのはダーツシステムと、オリジナリティが際だっています。

具体的には、オフィスに入ってすぐの場所に設置されている専用のパソコンで、「コミュニケーション席」「ソロ席」「集中席」から今日の自分の働き方に合った条件を選択すると、自動的に席が決まるということ。執行役員や部長もメンバーと同じようにダーツで自動的に席が決まるので、若手の社員の横に執行役員が座り、直接、教育的な指導を受けることがあったりするといいます。

筆者はここまで大胆に舵をきらず、部門単位くらいで緩やかなフリーアドレスを実施した会社も見てきましたが、徐々に机が固定化されて、元のオフィスに戻っていく会社も少なくありませんでした。

成果につながっている会社の特徴

おそらく第1世代はこの「徐々に」パターンであったから、あまり続かなかったのではないでしょうか? どうせやるならカルビー級に大胆に実施しないと、継続は難しいのではないでしょうか。ちなみにフリーアドレスを継続し、成果につながっている第2世代の会社では、

・経営者の覚悟と関与

・横断的な推進チームの組成

などに加えて、環境に合わせさまざまなスペースを準備するといった工夫が凝らされているようです。

どうしてさまざまなスペースが必要なのか? ある意味当然のことながら、状況によって、働きやすい環境は異なるからです。

例えば、作業に集中したい。クリエイティブに構想を描きたい。雑談的な会話からビジネスのヒントを探りたい。こうした状況に合わせた場所を設定するのが理想的です。開放的で視界が開けた空間がフリーアドレスではイメージに浮かびますが、集中して作業できるスペース、集まって雑談ができるスペース、お客様をお迎えするスペースなど、TPOに合わせて複数のスペースを用意したいところです。

こうした、複数のスペースという点に徹底的にこだわっているのがヤフーのオフィスかもしれません。2016年10月に本社移転を機にフリーアドレスにし、さまざまなスペースを準備。カフェのようなスペースや、靴を脱いで仕事をする空間などがあるほか、デザイン的にもしゃれた机や椅子を並べたり、色使いもカラフルにして気分や用途で選べるスペースにするなど、何パターンもあります。

ヤフーのような大企業でなくても中小企業、ベンチャー企業でも「集中」「リラックス」「対話」と分けたスペースをつくっている会社が幾つも出てきています。

知恵をしぼれば、実施は可能

取材したネット系のベンチャー企業は、オフィス費用のコスト削減が当初の目的で、フリーアドレスを検討しました。ただ、導入後に継続するためには社員の働き方を変えないと無理であると経営者が認識。周囲のベンチャー企業ではフリーアドレスを導入したものの、座る席が固定化して形骸化してしまった会社が大多数であるということにも危機感を持ったようです。

そこで「自分の会社ではフリーアドレスを絶対に継続させ、業績向上につなげたい」と社長が社員に宣言。社長も毎日のように席を変えて仕事をすることに。そして、中古家具を活用してさまざまなユニークなスペースも生み出しました。こうした会社のやる気にのせられて、フリーアドレスは定着。直接的な影響ははかれないものの、業績も上昇傾向にあるようです。大企業でなくても知恵をしぼれば、実施は可能と言うことなのです。

こうした、工夫を凝らす会社の登場もあり、フリーアドレス第2世代は続きそうな気配も出てきています。ただ、全体でどれくらいまで広がるのか? 今後、導入企業でどれだけ具体的な成果があるかによって、また変わっていくことでしょう。

話題のフリーアドレス導入企業の大半は、成果に関してはまだまだ道半ば状態です。これからの動向に注目していきたいところです。